看護問題の対策|看護問題リストの書き方やポイントなどを解説
2024.09.18
看護師は、患者の問題を解決するためにさまざまなことに意識を向けなければなりません。
特に、患者が抱えるリスクや課題を意味する看護問題への対応は、必須です。
看護問題には適切な優先順位を付け、効率的に対応する必要があります。
しかし、経験が少ない看護師では、適切な対応ができず、苦労することもあるのではないでしょうか。
本記事では、看護問題への対策について解説します。
効率的な業務を実現する看護問題リストの書き方や、対応時のポイントなども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
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看護問題とは
看護問題とは、患者が抱えている、あるいは将来抱える可能性がある課題やリスクを意味する用語です。
看護問題は「看護診断」とも呼ばれ、看護師が適切なケアを提供するうえで対処しなければならないものです。
看護問題に該当する課題・リスクには以下のようなものがあります。
- 患者の健康面でのリスク
- ケアの過程で生じる課題
- 看護師側の管理に関する課題
- 看護師側のコミュニケーションに関連するリスク
看護問題には、患者はもちろん、看護師が抱えるリスクや課題も含まれます。
看護問題に的確に対処する重要性
看護問題はケアの質や患者の安全に影響するものです。
適切に対応できなければ、患者の健康が損なわれることにもなりかねません。
看護師は看護問題を把握し、的確に対処する必要があります。
一方で、看護師が日常的に複数の患者のケアを行う場面は珍しくありません。
当然、看護問題が複数同時に発生する状況も想定されます。
そのため、看護の現場では、想定される看護問題に優先順位を付け、チームで一丸となってスピーディーに解決することが重要です。
看護問題リストとは
看護問題リストとは、想定される看護問題に優先順位を付けてリスト化したものです。
看護問題リストは行動計画のベースになるものであり、看護師の業務の指針になります。
看護問題リストは、効率的かつスピーディーに看護問題に対応するうえで欠かせません。
また、患者が抱える課題だけでなく、看護師同士の連携や問題の共有など、さまざまな場面で役立ちます。
ただし、経験が少ない新人看護師だと、有効的な看護問題リストの作成は困難です。
そのため、書き方を学ぶだけでなく、先輩の看護師からアドバイスを得てスキルを磨く必要があります。
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看護問題リストの書き方
本章では、看護問題リストの書き方について解説します。
看護問題のリストは、以下のプロセスで作成しましょう。
- 看護問題を提起する
- 看護問題を細分化して記載する
- 因子を特定する
- 看護問題に優先順位を付ける
- 実践後はリストや計画を見直しする
それぞれのプロセスについて、順番に解説します。
看護問題を提起する(看護診断)
最初に看護診断、つまり看護問題の提起を行います。
看護診断にあたって用いられる代表的な診断基準は以下の3種類です。
診断基準 | 特徴 |
ヘンダーソンの基本的欲求 | 患者の基本的欲求を14項目に分けたうえでアセスメントを行う |
ゴードンの11の健康機能パターン | 健康機能の状態を11項目に分化し、それぞれの状態を見てアセスメントを行う |
NANDA-I看護診断 | 北米看護診断協会が作成した診断基準。診断名を13の領域に分け、各領域の異常の有無を確認しながらアセスメントを行う |
本記事では、NANDA-I看護診断に寄る看護診断について解説します。
NANDA-I看護診断は「ナンダ」とも呼ばれ、多くの医療現場で利用されている診断基準です。
定期的に改訂がなされており、看護診断が追加されたり、診断名が新設されたりします。
NANDA-I看護診断は大きく分けて3つの診断タイプがあります。
実在型看護診断
実在型看護診断とは、現在患者が抱えている課題を、症状・関連因子という2つの指標を使って診断する方法です。
課題の症状と関連因子の因果関係を結びつけることで、診断を行います。
リスク型看護診断
リスク型看護診断は、患者が現在抱えている課題や家族との関係性などに潜在するリスクに着目する診断方法です。
つまり、「現状が続くと発生し得るリスク」を重視する方法です。
ヘルスプロモーション型看護診断
ヘルスプロモーション型看護診断はウェルネス型看護診断とも呼ばれる診断方法です。
現在発生している症状や兆候に注目する実在型看護診断・リスク型看護診断と異なり、ヘルスプロモーション型看護診断は、今後より良い状態になる意欲の有無に注目します。
ヘルスプロモーション型看護診断の場合、発生している課題を解決するために看護をするよりも、看護によって健康増進を促すことが重視されます。
患者のさらなる健康維持・健康増進によって、より良い健康状態を実現することがヘルスプロモーション型看護診断の特です。
看護問題を細分化して記載する
看護診断を終えたら、看護問題をカテゴリー別に細分化しながら記載します。
患者にとって看護問題は多種多様です。
患者が抱える課題は身体や精神など、さまざまな原因によって生じます。
そのため、それぞれの課題をカテゴリー別に細分化し、整理することで原因を正確に導き出し、有効な対策を立てなければなりません。
なお、看護師が介入できないような課題は看護問題としては取り扱いません。
因子を特定する
カテゴリ別の細分が終わったら、因子を特定しましょう。
課題の関連因子・危険因子を整理し、分析すれば適切な対策を判断できます。
なお、課題の因子は患者の健康に起因するものだけではありません。
施設環境の不備や看護師など医療従事者の不注意・管理不行き届きが課題の関連因子・危険因子となる場合もあります。
例えば、夜間照明が不十分だったり、離床センサーの設置が不足していたりすると、転倒・転落につながる因子となります。
この場合、患者の治療とは別の観点から対策を講じなければなりません。
看護問題に優先順位を付ける
看護問題に優先順位を付けるプロセスは、効率的な行動計画を構築するうえで重要です。
看護問題は複数発生するケースがほとんどですが、すべてに対処することは困難です。
抽出した看護問題の内、重要度が高いものに優先順位を付けることにより、効率的に対応できます。
特に以下のような課題は優先順位を高くしましょう。
- 患者の生命に関わるもの
- 早急に解決しなければ、より多くの問題を発生させるリスクがあるもの
- 解決することによって、複数の課題の解決につながるもの
優先順位を付けるプロセスは、経験値が少ない看護師にとって難しい作業です。
看護問題の数が多いほど、優先すべきものがわからなくなり、混乱するケースも珍しくありません。
自力で判断することが難しければ、先輩の看護師のアドバイスを得たり、作成した看護問題リストを同僚にチェックしてもらったりしましょう。
さまざまな観点からブラッシュアップすることで、適切な優先順位を付けられるようになります。
実践後はリストや計画を見直しする
看護問題リストを作成し、行動計画を実践したら、リストや計画を見直しましょう。
苦労して看護問題リストを作成しても、優先順位の付け方が誤っていたり、看護問題が不適切だったりする場合があります。
同じミスを繰り返さないためにも、実践後には必ず見直しを行い、看護問題や優先順位を修正しなければなりません。
看護問題リストは、短い時間で少ない情報から作成しなければならない場面も珍しくありません。
定期的に見直しを行うことにより、切迫した状況でも適切な看護問題を作成するスキルを身に付けられます。
看護問題リスト作成のポイント4つ
看護問題リストを作成する際は、以下のようなポイントを意識しましょう。
- 優先順位の付け方を工夫する
- 具体的な記載を心がける
- 主観的・客観的な判断を組み合わせる
- 悩み過ぎない
より良い看護問題リストを作成するうえでも、ぜひ参考にしてください。
優先順位の付け方を工夫する
優先順位を付ける作業は、看護問題リスト作成のなかでも難易度が高いものです。
そのため、効率的に優先順位を付けられるように工夫しましょう。
優先順位を付ける際に、多くの看護師が用いる手段にマズローの欲求5段階説があります。
マズローの欲求5段階説とは、人間が持つ基本的な欲求を5段階の階層に分け、それぞれに優先順位を付けるものです。
マズローの欲求5段階説は、人間の欲求を以下のように分類します。
段階 | 欲求の種類 | 内容 |
第1段階 | 生理的欲求 | 食事・睡眠など生活活動における基本的な欲求 |
第2段階 | 安全欲求 | 生活・経済・健康などに関する欲求 |
第3段階 | 社会的欲求 | 仲間が欲しい・集団に属したいなどの帰属意識に基づく欲求 |
第4段階 | 尊厳欲求 | 周囲から承認される・尊敬されるなど、心理的充足感に関する欲求 |
第5段階 | 自己実現欲求 | 自身が持つ能力や創造性を発揮することを望む欲求 |
マズローの欲求5段階説は、低次の欲求が満たされなければ、高次の欲求は満たされないとされています。
例えば、生理的欲求や安全欲求が満たされない状況が続くと、社会的欲求以上の欲求は満たされません。
そのため、生理的欲求や安全欲求を満たすためのアプローチが必要になります。
マズローの欲求5段階説を看護問題に当てはめることで、優先順位を付けやすくする効果が期待できます。
しかし、看護問題の優先順位は型通りに決められるものではありません。
看護師の行動・環境的要因など、さまざまな観点から問題を分析しなければ、適切な優先順位は付けられません。
そのため、マズローの欲求5段階説はあくまで暫定的な優先順位を付ける際に用いる程度に留めましょう。
具体的な記載を心がける
看護問題リストを作成する際は、具体的な記載を心がけましょう。
特に関連因子は、具体的に書き出さなければ適切なケアを導き出せません。
看護問題を具体的に記載すれば、ケアの内容や提供するタイミングを決めやすくなります。
ただし、記載が長くなったり、複雑になったりすると、整理に支障が生じます。
記載が長くなるようであれば、箇条書きにするなど、書き方を工夫しましょう。
主観的・客観的な判断を組み合わせる
看護問題を細分化する際は、対象を主観的情報・客観的情報それぞれを用いて分析しましょう。
主観的情報とは、症状や兆候などのような、目に見える情報を指します。
主観的情報は患者本人やその家族の訴えなども含まれており、現在の状態を把握するうえで重要な情報です。
客観的情報は看護師や医師のような医療従事者が、定量的なデータを用いて下した判断の内容を指します。
客観的情報には、バイタルサインや検査結果などが該当します。
主観的・客観的情報を組み合わせれば、より詳細な分析が可能です。
より良いケアを実施するためにも、多角的な観点から情報を集めましょう。
悩み過ぎない
看護問題リストを作成する際は、悩み過ぎないようにしましょう。
看護問題リストの作成は、重要度が高い作業ですが、経験が浅い看護師だと適切な内容で作成できるまで時間がかかります。
経験やスキルが求められる作業でもあるため、一朝一夕で先輩の看護師と同じクオリティを実現することは困難です。
しかし、看護問題リストの作成に悩み過ぎると、かえって作業が停滞する恐れがあります。
その結果、ケアが遅れるような事態になれば、より深刻な状態を招きかねません。
看護問題リストの作成で悩むようなことがあれば、ミーティングで先輩看護師から助言をもらいましょう。
経験値がある看護師から助言をもらえれば、より良い作成方法を身に付けるきっかけを得られます。
また、看護問題リストは見直しや修正が前提になるものです。
うまくできなくても、後で見直しや修正を行えるという気持ちで望むことも重要です。
看護には看護の難しさがあり、介護には介護の難しさがあり、そこに優劣はありません。ただし、看護は患者の疾患や怪我へのアプローチが介護のそれとは一線を画しており、患者の命との関わりが深い点が特徴的です。『生活を支える』のが介護の仕事とすると『生活に戻す』のがある意味看護の仕事かもしれません。
看護の世界では、どうしても目の前の疾患や怪我を治すという観点が強くなってしまい、管理的になりすぎてしまうケースがあります。そのような事態にならないためにも「疾患(怪我)が治った(もしくは疾患と共存)後の生活」を患者と共に設定することが重要です。当たり前ですが、病気を治すことを目的に生きる人はいません。患者個々の目的(ニーズ)があるわけなので、そこを如何に汲み取れるか?が最も重要なポイントではないでしょうか。
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適切な看護問題リストを作成すればスムーズな業務が実現する
看護問題とは、患者が現在抱えている、あるいは将来的に抱える可能性がある課題です。
適切なケアを提供するうえでも、看護師は看護問題を正確に分析し、適切な優先順位で対応しなければなりません。
そのためにも、看護問題リストの作成は重要な作業です。
看護問題リストの作成は診断基準を活用したり、因子を特定したりするなど、さまざまなプロセスを実施しなければなりません。
より良い看護問題リストを作成するためにも、実践後は定期的に見直しを行いましょう。
看護問題リストの作成に悩むようなら、先輩の看護師からアドバイスを得ることも重要です。
多角的な観点の情報を得ることで、より良い看護問題リストを作成できます。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。