【在宅医療・介護連携】地域包括ケアシステム|構築プロセスと取り組み例

2023.12.22

平成26年に介護保険法が改正され、市町村が取り組む「地域支援事業」に在宅医療・介護連携が組み込まれました。
在宅医療・介護連携とは、地域包括ケアシステムを構築して、要介護者が自宅で自立した生活を営むための支援を充実させる施策です。

しかし、「地域包括ケアシステムが一体どのようなものなのか」「どのように構築するのか」が明確になっていない方も多いはず。
本記事では、在宅医療・介護連携の構築プロセスと地域包括ケアシステムを実施するメリットについて詳しく解説します。

在宅医療・介護連携に向けた4つの取り組み事例も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

【在宅医療・介護連携】地域包括ケアシステムとは?

地域包括ケアシステムとは、高齢者が重度の要介護者となった場合でも、住み慣れたエリアで自分らしく暮らせるように支援する制度のことです。
厚生労働省が令和2年9月に公表した「在宅医療・介護連携推進事業の手引き」によると、地域包括ケアシステムは次のように定義づけられています。

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制(地域包括ケアシステム)の構築を実現。

引用元:厚生労働省老健局老人保健課 令和2年9月「在宅医療・介護連携推進事業の手引き」

現在は少子高齢化が進み、平均寿命も男性で81歳・女性で87歳と、年々上昇しています。

今後も平均寿命が伸びて高齢者が増えていく日本では、高齢者が1人でも充実した生活を送れるように、地域が支える体制を整えなければなりません。

在宅医療・介護連携が求められる理由

在宅医療・介護連携が求められる理由は、高齢者の増加に伴い医療・介護の需要が高まっているためです。
医療と介護支援が必要な高齢者が、自立して自分らしく生活を送るためには、医療・介護施設を充実させなければなりません。

医療・介護業界の人手不足が予測される「2025年問題」に加えて、2040年には高齢者1人あたりに現役世代が1.5人で支えなければならない「2040年問題」が危惧されています。
介護業界の人材不足が加速する今後は、在宅医療・介護連携による高齢者の自立した生活支援が必要です。

現役世代の負担を軽減しながら、高齢者に充実したケアサービスを提供するために、在宅医療・介護連携が求められます。

在宅医療・介護連携の関係機関

在宅医療・介護連携の関係機関として、次の施設が挙げられます。

  • 診療所
  • 在宅療養支援診療所
  • 歯科診療所等
  • 病院(急変時の診療・一時的な入院の受入れの実施)
  • 在宅療養支援病院
  • 診療所(有床診療所)など
  • 訪問看護事業所
  • 薬局 (医療機関と連携し、服薬管理や点滴・褥瘡処置等の医療処置、看取りケアの実施など)
  • 介護サービス事業所 (入浴、排せつ、食事等の介護の実施) 

在宅医療・介護連携を実施するためには、診療所や病院・訪問介護施設を初めとしたさまざまな関係機関が連携しなければなりません。
医療・介護施設がそれぞれ連携して高齢者の生活を支えることで、高齢者が不自由なく自宅で過ごせる環境を整えられます。

【在宅医療・介護連携】地域包括ケアシステムのメリット

地域包括ケアシステムには、次のようなメリットがあります。

  • 継続的に医療・介護サービスを提供できる
  • 要介護者が自宅での生活を継続できる
  • 高齢者が社会に参加しやすくなる
  • 利用者家族の負担軽減

在宅医療・介護連携を実現させるために、それぞれのメリットを確認して地域包括ケアシステムを構築しましょう。

継続的に医療・介護サービスを提供できる

地域包括ケアシステムを確立するメリットは、継続的に医療・介護サービスを提供できることです。
高齢者や障がい者をサポートする体制が整えば、医療・介護施設がそれぞれ連携して要介護度の高い利用者にも十分なサービスを提供できます。

従来の方法では、重度の要介護者が医療・介護施設を訪れることが困難で、サービスを十分に提供できませんでした。
在宅医療・介護連携が促進されれば、1人での外出が困難な高齢者や障がい者にもスムーズにケアサービスを提供できます。

さらに地域包括ケアシステムによって医療・介護施設が充実すれば、短期的なサービス提供に留まらず、継続的に医療・介護サービスの提供が可能です。

要介護者が自宅での生活を継続できる

地域包括ケアシステムが広まることで、要介護者が自宅での生活を継続できます。
認知症や足腰が不自由になった要介護者は、自宅での生活が困難となり、老人ホームなどの介護施設を利用しなければなりません。

しかし高齢者の中には、住み慣れた自宅や地域を離れることを拒み、介護施設への入居を嫌がるケースもあります。
訪問介護や訪問医療などの在宅サービスが充実すれば、介護施設へ入居しなくても要介護者が自宅で今までどおりの生活を継続できます。

要介護者の精神的負担を軽減しながら、満足の行くケアサービスを提供できることが、地域で医療・介護サービスの体制を整えるメリットです。

高齢者が社会に参加しやすくなる

地域包括ケアシステムを確立するメリットは、高齢者が社会に参加しやすくなることです。

地域包括ケアシステムにおける高齢者には、支援を必要とする人のみならず、支援をする人も含まれます。
支援が可能な高齢者は、介護予防イベントや老人クラブ・ボランティアに参加してもらうことで、高齢者の生きがいを増やしながら介護予防が可能です。
高齢者が社会に参加して活発的に活動すれば、健康寿命の促進も期待できます。

地域包括ケアシステムは、高齢者に医療・介護サービスを提供するだけでなく、社会へ積極的に参加しやすくなるメリットがあります。

利用者家族の負担軽減

地域包括ケアシステムが普及するメリットは、利用者家族の負担を軽減できることです。
家事や育児・仕事と並行して重労働な介護をするのは、要介護者の家族に対して大きな負担がかかります。

介護疲れや介護ノイローゼ・介護離職など、利用者家族の負担を軽減するために、地域の医療・介護施設が連携して在宅サービスを充実させなければなりません。
地域包括ケアシステムを構築すれば、要介護者が1人で医療・介護サービスを依頼して、十分なケアを受けることが可能です。

専門知識があるプロが介護をサポートすれば、利用者家族の負担が軽減できます。
利用者本人とその家族に気を遣わせて精神的負担をかけないためにも、地域包括ケアシステムの構築が必要です。

在宅医療・介護連携の構築プロセス【厚生労働省より】

在宅医療・介護連携を実現させるためには、構築プロセスを把握しておくことが大切です。
厚生労働省が公表している「市町村における地域包括ケアシステム構築のプロセス」によると、在宅医療・介護連携の構築プロセスは、以下のとおりです。

  1. 課題の握と社会資源の発掘
  2. 関係者による対応策の検討
  3. 対応策の決定・実行
  4. 効果の検証・改善

参照:厚生労働省|「市町村における地域包括ケアシステム構築のプロセス」

地域包括ケアシステムを構築するために、在宅医療・介護連携の構築プロセスを確認しておきましょう。

1.課題の把握と社会資源の発掘

在宅医療・介護連携の構成プロセスとして、課題の把握と社会資源の発掘が第1のステップです。
まずは対象地域内の医療・介護に関するニーズを調査し、地域の実態を把握しましょう。

地域に住む高齢者がどのような暮らしをしているか、医療や介護に関する課題はどのようなものかを明確化しなければなりません。
なぜなら、課題を解決できる対処法こそが、対象地域で求められる理想的なサービスだからです。

また地域包括支援センターなどで、地域のニーズだけでなく社会資源を把握しておきましょう。
地域のボランティア団体やNPO法人などの社会資源を発掘しておけば、在宅医療・介護連携に関わる人材を確保できます。

2.関係者による対応策の検討

在宅医療・介護連携の構成プロセスとして、第2ステップで関係者による対応策を検討しましょう。
介護保険事業の計画を策定し、都道府県や関係計画と連携して情報を共有する必要があります。

保健・医療・福祉など、地域の関係者や協働による個別支援を充実させることが大切です。
地域で要介護者をサポートする体制を整えるために、地域の課題を関係者間で共有して、「どのようなサービスを提供すれば課題を解決できるか」対応策を検討しておきましょう。

3.対応策の決定・実行

在宅医療・介護連携の構成プロセスとして、第3ステップは対応策の決定・実行を行う必要があります。
地域のニーズを把握し課題を解決できる対応策を策定した後は、実際に施策を実行しましょう。

地域包括ケアシステムを構築するために、介護分野だけでなく医療・分野とも連携して、計画的に対応策を実行することが大切です。
対応策が決定された時点で施策を開始するスケジュールを決めて、施策を実行していきましょう。

4.効果の検証・改善

在宅医療・介護連携の構成プロセスは、対応策を実行して終わりではありません。
在宅医療・介護連携を構成するために、実行した対応策の効果を検証し改善する必要があります。

「課題把握」「対応策の立案」「対応策の実行」「効果の検証」のプロセスを、PDCAサイクルで繰り返して改善していきます。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(測定・評価)・Action(対策・改善)の4つのプロセスを繰り返し品質を高める手法です。

実際に実行した施策の効果を検証すると、新たな課題が見つかります。
より良い地域包括ケアシステムを構築するために、対応策の効果を検証し改善を繰り返しましょう。

在宅医療・介護連携へ向けた4つの取り組み事例

在宅医療・介護連携の実現のため、実際に施策として取り組んだ市町村の事例を確認しておきましょう。
在宅医療・介護連携へ向けた取り組み事例として、以下の4つを紹介します。

  • 新潟県長岡市
  • 鳥取県南部町
  • 三重県四日市市
  • 熊本県上天草市

それぞれの事例を参考にして、どのような施策を実行するべきか検討してください。

新潟県長岡市

新潟県長岡市では、地域包括ケアシステムを目指して、長岡駅を中心とするエリアに13ヶ所のサポートセンターを設置しました。
住まい・医療・介護・予防・生活支援などのサービスを組み合わせた一体型のサポートセンターを設置することで、在宅医療・介護連携を実現した事例です。

長岡市のサポートセンターは、施設でも自宅でもない新たな在宅介護として、多様な生活スタイルやニーズに対応しています。
さらに地元町内会と事業所が連携して行事を開催することで、地域住民の交流を増やして信頼関係を構築しました。

参照:厚生労働省「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例~新潟県長岡市の取組~」

鳥取県南部町

鳥取県南部町は、地域包括ケアシステムを実現するために、地域コミュニティホームを設立しました。
地域コミュニティホームは、既存の民家・公的施設などを改修して作り上げた、障がい者や高齢者が地域住民とつながりを持って暮らせる施設です。

もともと南部町には、介護施設が特養と介護療養型医療施設しか存在していなかったため、軽度の要介護者や低所得者がケアサービスを受けられませんでした。
そこで南部町が、低所得者や軽度の要介護者を受け入れる地域コミュニティホームを設置し、地域ケアシステムを構築しました。

必要があれば、訪問診療や訪問介護などの医療・介護サービスを外部から提供するため、安心して利用者が生活できます。

参照:厚生労働省「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例~鳥取県南部町の取組~」

三重県四日市市

三重県四日市市は、地域包括ケアシステムを構築するために、商店街の空き店舗を利用して次の施策を実行しています。

  1. 総合相談機能
  2.  食の確保機能
  3. 地域住民の集いの場としての機能を併せ持った「孤立化防止拠点」を運営

「孤立化防止拠点」は「社会福祉法人青山里会」が運営しています。
現在、1日20名あまりの地域住民が利用する憩いの場です。

さらに要介護者の日常生活をサポートするために、会員制組織の「ライフサポート三重西」を発足しました。
ライフサポート三重西の活動により、重度の要介護者が1人でも自宅で生活ができる体制を整え、在宅医療・介護連携へ貢献しています。

参照:厚生労働省「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例~三重県四日市市の取組~」

熊本県上天草市

熊本県上天草市は離島のため、地理条件が悪く在宅サービスが進んでいませんでした。
地域包括ケアシステムを目指して、高齢者が住み慣れた家や地域で暮らし続けるために、地域の実情に応じた介護福祉サービスや生活支援サービスなどの地域包括ケアシステムに取り組んでいます。

具体的な取り組みとして、次のような施策が挙げられます。

  • 住民検討会の実施
  • 全世帯住民ニーズ調査の実施
  • 緊急通報システム設置
  • ヘルパー養成講座実施
  • 地域づくり講演会
  • 旅館を改修した「つどい処よんなっせ」を介護予防拠点として整備
  • 「高齢者から子どもまで地域住民の集いの場づくり」事業の実施

医療・介護サービスを提供しにくい離島であっても、高齢者が安心して自立した生活ができるよう、在宅医療・介護連携を促進させた事例です。

参照:厚生労働省「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例~熊本県上天草市の取組~」

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

2022年の有効求人倍率は全職業全体で1. 16となっています。介護関係職種に限って見てみるとその数値は3. 71と跳ね上がります。約4施設で一人の求職者を奪い合うような構図となっているのです。現時点でも既に深刻な人手不足に陥るなか、日本の高齢者数が最多となる2040年には更に69万人の介護職員が必要となるというデータもあります。既に人口が減少フェーズに入っている日本としては非常厳しい数字と言えます。医療業界も同様に人手不足が拡大しており、2040年には生産人口の5人に1人が医療・介護従事者になるというデータもあります。こうした事態に備えて、これまで縦割りだった医療・介護の各情報を統合していこうという動きが加速しています。少ない人手で運営するためには最早ICTの活用・連携は必要不可欠なのです。

在宅医療・介護の連携強化にはICTが効果的

在宅医療・介護の連携強化には、ICTが効果的です
ICTを活用すれば、医療・介護業界の関係者間でコミュニケーションを円滑化できます。

システム上で介護サービスの状況確認・連絡・利用者情報の更新を行えるため、護従事者の業務負担を軽減して利用者に高精度なサービスを提供可能です。

在宅医療・介護連携を強化するために、ICTを活用した課題を解消する対応策を検討しましょう。

在宅医療・介護連携にはワイズマンの「MeLL+(メルタス)」がおすすめ

在宅医療・介護連携には、ワイズマンが提供する「MeLL+(メルタス)」がおすすめです。
「MeLL+(メルタス)」は、法人内や地域での医療施設・介護事業所が連携するための機能を備えた医療・介護連携サービスです。

多職種間でのコミュニケーションを円滑化し、地域包括ケアシステムを構築できます。
「MeLL+(メルタス)」には、3つのシリーズがあり在宅医療・介護連携を促進できます。

  • 法人内連携ソリューション「MeLL+professional」
  • 地域連携ソリューション「MeLL+community」
  • 家族連携ソリューション「MeLL+family」

企業間の連携だけでなく地域間・家族間のコミュニケーションをシステム上で効率化できるため、在宅医療・介護連携に効果的です。

まとめ

少子高齢化が進み平均寿命が伸びていく将来の課題を解消するために、在宅医療・介護連携を強化する必要があります。
2025年問題・2040問題に対応するための、医療・介護業界を連携した地域包括ケアシステムの構築が重要です。

在宅医療・介護連携へ向けた取り組みを考案して実施するだけでなく、構成プロセスを繰り返し、施策の改善・改良していきましょう。
また在宅医療・介護連携を実現するためには、ICTの活用が効果的です。ワイズマンが提供する「MeLL+(メルタス)」では、法人間・地域間・家族間のコミュニケーションをシステム上で円滑に行なえます。

地域包括ケアシステムを構築する手助けとなるため、在宅医療・介護連携を実現したい方はぜひご活用ください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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