看護の2025年問題とは?看護業界への影響と今取るべき対策

2024.07.16

日本全体の社会問題として「2025年問題」が差し迫っています。
一度は耳にしたことがあっても、2025年問題が看護業界に及ぼす影響まで理解できている方は少ないのではないでしょうか。

人手不足により、単純に看護の需要へ対応できないというわけではありません。

本記事では2025年問題が看護業界へ与える影響と今取るべき対策を解説します。
2025年問題に対応し、課題を解決するためにもぜひ参考にしてみてください。

看護業界の2025年問題とは

超高齢化社会が進むことで起こる社会問題の総称を「2025年問題」と呼びます。
ベビーブーム(1947年〜1949年)に生まれた団塊の世代が、75歳以上の後期高齢者になるのが2025年です。

2025年には、後期高齢者の割合が約18%に達すると推定されています。
また、近年問題視される出生率の低さもあり、少子高齢化によるさまざまな問題の顕在化が危惧されています。

例えば、医療や介護の需要が急増し、看護や介護職の人材不足が深刻化するなどです。
すでに多くの医療・看護施設で人手不足が問題視されていますが、今後はこの問題がさらに深刻化すると懸念されています。

2025年問題で看護師が余ると言われる理由

2025年問題で看護師が余るという声を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
この背景には、「平成26年度診療報酬改定の概要」における高度急性期病棟の規模縮小が関係しています。

政府は、約35万7,500床あった高度急性期病棟の病床数を、再編により18万床へ縮小する方針を定めました。
病床再編の方針により、医療コンサルティング会社のグローバルヘルスコンサルティングジャパンは、約14万人の看護師が余ると試算しました。

看護師が余るというのは、看護業界全体で余るというわけでなく、高度急性期病棟のみで発生する問題なのです。

実際は多くの医療施設で看護師が不足

今後の看護師数は、需要を大幅に下回ると推測されています。
厚生労働省が調査した結果によると、2025年における看護師の需要推計と供給推計は以下のとおりでした。

需要推計供給推計
188万人~202万人175万人~182万人6万人~27万人
参照:医療従事者の需給に関する検討会 中間とりまとめ案(概要)|厚生労働省

需要推計に対して供給推計が6万人〜27万人不足する計算です。

2025年問題が看護業界に与える5つの影響

2025年問題で看護業界には、下記の5つの影響があると考えられています。

  • 人材不足の深刻化
  • 看護職のなかでも需要の偏りが生じる
  • 看護師へのニーズが変化
  • 正看護師への一本化を推進
  • システム化が進む

それぞれの影響が具体的にどのようなものなのかについて詳しく解説します。

人材不足の深刻化

生活習慣病や慢性疾患、認知症を抱える高齢者が増加することで、医療ケアを必要とする人が増えます。
しかし、前章でも紹介したとおり、2025年の看護師数は需要推計に対して最大で27万人も不足する予想です。

結果として、看護師の労働負担の増大や十分な医療ケアを提供できない事態など、看護サービスの品質低下が危惧されています。

なお、2025年以降も高齢化による現役世代の減少と高齢者の増加による超高齢化社会は続くと予想されています。
今後は人材の確保に注力するとともに、いかに看護業務を効率化できるかが課題となるでしょう。

看護職のなかでも需要の偏りが生じる

近年は、看護職のなかで需要の偏りが生じています。具体的には、在宅医療の需要が増加したことで、訪問看護師の需要のみが大きく増加しています。

就業看護職員数と需要推計については、下記の図のとおりです。

引用:看護師等(看護職員)の確保を巡る状況|厚生労働省

病院看護師等の需要が横ばいのなか、訪問看護事業所の需要推計だけが、2020年から2025年にかけて大きく増加していることがわかります。

看護師のニーズが変化

2025年問題の影響は、看護師全体の役割にもおよびます。

前述のとおり、看護師の役割が医療機関での看護に限らず、在宅医療・予防医療にまで拡大しています。
地域包括ケアシステムが構築され、自宅での療養が中心に切り替わっていくためです。

これまでの回復を目指した看護から、生活を送るうえでの看護という位置づけに変わり、訪問看護師としての役割を求められます。
看護の目的が変わり、患者と医師、患者とケアマネージャーとの橋渡し的役割を担う必要が出てくるでしょう。

また、医師の負担軽減やリアルタイムでの医療ケア提供のために、特定医療行為をおこなえる「特定行為研修制度」も開始しました。
一定範囲の診療行為ができる「診療看護師」も創設されているなど、看護師の役割を拡大する流れになっています。

正看護師への一本化を推進

看護師はこれまで、正看護師と准看護師に分かれていました。
しかし、2025年以降、現行の准看護師カリキュラムでは医療ニーズに対応しきれなくなるため、日本看護協会は正看護師への一本化に取り組んでいます。

現在は准看護師制度の廃止は確定ではありません。
しかし、准看護師学校養成所が減少するなど、准看護師制度の規模縮小が進んでいることは事実です。

なお、日本看護協会では准看護師から看護師へのキャリアアップをサポートする方針も打ち出されています。

システム化が進む

人材不足を補うために、看護師の働く環境のシステム化が進むでしょう。
すでに多くの医療機関で電子カルテなどが導入されています。

地域医療情報連携ネットワークを導入し、患者のデータを医療機関同士でやりとりする体制も構築されていきます。

2025年問題に向けて看護業界が今できること

2025年問題に向けて、国でも看護業界の体制保持のための支援を実施しています。
また、看護業界全体で、2025年問題に向けて以下の対策を講じています。

  • 地域包括ケアシステム
  • 病床機能の再編
  • 人材確保

それぞれの支援内容や見直し内容について紹介します。

地域包括ケアシステム

今後は住み慣れた場所で自分らしく暮らし、療養することを目的とした「地域包括ケアシステム」の構築が推進されます。
地域包括ケアシステムは2025年をめどに、地域の自主性や主体性に基づき、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される構造のことです。

地域包括ケアシステムの構築には、医師・看護師・ケアマネジャー・介護福祉士・理学療法士などの連携とその仕組み化が必要です。
現在、自治体が中心に地域包括ケアシステムの構築を目指しています。

しかし、自治体が動くだけでは、この仕組みの構築は困難です。
当事者である病院・施設がこの構造を理解し、他の関連機関と積極的に関わりを持つことが大切です。

病床機能の再編

地域医療構想の実現に向けた病床機能の再編が進んでいます。
2025年に必要な病床数を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つの機能に分けて推計し、病床数を調整するものです。

病床機能の再編を実現するには、入院を必要としない治療を増やすことが大切です。
例えば、病院での治療後は連携する地域の診療所でフォローしてもらい、再入院のリスクを減らすなどです。

前述した地域包括ケアシステムと同様、病院は病床機能の再編へ向けて、関係機関との連携を強化する必要があります。

人材確保

2025年問題に対応するには、看護師の人材確保が急務です。
日本看護協会は、新規養成・復職支援・定着促進の3つを中心に、処遇改善や研修、支援活動に取り組んでいます。

なお、多くの病院では、病院看護から訪問看護へ移行し、迫り来る看護需要への対策を強めています。
また、業務の効率化による人手不足の解消や、評価制度の見直しによる人材確保・定着率の向上を目指す事例もあります。

人材確保は一朝一夕で解決できる問題ではないため、着実に対策を講じて課題の解決を目指しましょう。

2025年問題に対して看護師に求められること

2025年問題を迎えるにあたって、看護師には以下のようなスキルが求められてきます。

  • ICTスキル
  • 地域包括ケア実現への連携スキル

それぞれのスキルが具体的にどのようなスキルなのか説明します。

ICTスキルを身につける

人手不足を補うための業務効率化の策として、ICT導入が今後ますます広がります。
すでに、電子カルテシステムや訪問看護向けシステムなどが導入されている医療機関も増えています。

こうした状況下では、パソコン・タブレット端末の操作はもちろん、システムを使いこなすなどのICTスキルが求められます。
ICTスキルを保有していれば、転職時に強みになるため、積極的に身につけていきましょう。

地域包括ケアに関係するスキルを身につける

在宅医療を中心とする地域包括ケアには、病棟勤務よりも幅広くかつ、柔軟な対応が求められます。
例えば、看護師求められるスキルは以下のとおりです。

  • コミュニケーション能力
  • 関係者の意見調整を図る多職種連携能力
  • 在宅医療の知識と技術
  • 患者の生活環境・ニーズも含めた包括的な評価能力
  • ケアプランニング能力

地域包括ケアで肝心なのは、関係者間の連携です。
この連携を支えるには、コミュニケーション能力や関係者の意見調整を図る多職種連携能力が欠かせません。

前述のとおり、今後の看護業界は在宅看護へと大きく舵を切ります。
したがって、現場で活躍するには、在宅医療の知識や技術を身につける必要があります。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

OECDが2021年に発表した「世界主要国病院数ランキング」によると、日本の病院数は8,205となっておりトップの数値となっています。2位のアメリカが6,129なので、際立って病院数が多い国であることがわかります。人口が日本の3倍近いアメリカより遥かに多い病院数に驚く方も多いのではないでしょうか。病床数でみても『人口1000人当たりの病床数』によると、日本は「12.8床」となっており、こちらも世界最多の数値です。この主因は報酬単価が高かった『急性期病床』が増え続けたことです。
こうした状況を踏まえ、国は病床再編を急いでいます。その内容として、急性期病床を減らし、病院の在院日数を減らす方向で政策誘導しています。これは在宅(介護施設含む)での看取り促進策でもあることを理解しておくことが重要です。

「看護業界の2025年問題」の対策に取り組もう

本記事では、看護業界の2025年問題について紹介しました。

2025年には、6万人〜27万人の看護師が不足すると推測されています。
なお、看護のあり方も、病院での治療から在宅看護へとシフトしています。

こうした看護業界の2025年問題に立ち向かうためにも、ぜひ本記事を参考に対策に取り組んでみてください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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