有料老人ホームの運営指導(実地指導)とは?必要書類と実施対象・頻度を解説
2024.05.07
有料老人ホームの経営において、対応しなければならない課題は多くあります。
なかでも、経営者にとって注意すべきもののひとつが、運営指導でしょう。
運営指導は行政が介護事業所の運営をチェックする取り組みであり、もし不正や不備が発覚した場合は、指導や改善命令の対象になる可能性があります。
運営指導で指摘されないためには、介護施設は経営を適正化しなければなりません。
本記事では、有料老人ホームにおける運営指導の内容や、実施対象・頻度などについて解説します。
運営指導に対応するうえでも、ぜひ参考にしてください。
※2022年より、「実地指導」は「運営指導」へと名称が変更されました。
本記事では、運営指導へ表記を統一し紹介いたします。
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目次
有料老人ホームの運営指導とは?
まずは有料老人ホームにおける運営指導についておさらいしましょう。
運営指導と聞くとネガティブなイメージを持つ方もいますが、実際は有料老人ホームの経営を見直すきっかけになるものです。
あらためて運営指導の内容や意義を確認しましょう。
運営指導と監査の違い
運営指導は、行政から派遣された担当者が介護事業所を直接訪問し、運営状況を確認するものです。
主に法令違反・運営基準違反・介護請求の不正などの有無がチェックされます。
ただし、運営指導は必ずしもネガティブなものではありません。
本来は、介護事業所の育成・指導を目的としており、行政の視察を通じて事業者の気づきを促すためのものです。
監査と混同されがちですが、厳密には目的が異なります。
監査とは、運営指導で違反や不備が発見された介護事業所を対象に行うものであり、行政処分を行うために行われる調査です。
つまり、運営指導で問題が発見された介護事業所への対応が監査なのです。
運営指導の頻度
運営指導の頻度は決して高くありません。
一般的には3年、あるいは6年に1回の頻度で実施されます。
運営指導は、原則として指定有効期間内に最低1回は実施されるため、介護事業所を経営しているなら、必ず経験するものです。
他方で、昨今は介護事業所の負担を考慮し、運営指導にオンライン対応を取り入れる可能性が高まっています。
現に集団指導では、講習のためにオンラインで動画配信が行われるようになりました。
もし運営指導でもオンライン対応が始まれば、実施される頻度が上がる可能性があります。
有料老人ホームの運営指導の形態
運営指導には、集団指導と個別指導の2種類があります。
いずれも指導の内容が異なるうえに、施設の対応方法も変わるため、違いを必ず把握しましょう。
それぞれの形態の違いについて、以下で順番に解説します。
1.集団指導
集団指導では、複数の有料老人ホーム運営者を対象に、法改正や留意点などの必須情報を共有します。
これにより、介護サービスの品質向上と介護保険請求の適正化を目指します。
一般的には、介護事業者は行政が定めた日時・場所に従って受講します。
なお、所管の介護事業所が少ない場合、複数の自治体が合同で集団指導を行うケースがあります。
2.個別指導
個別指導では、行政の担当者が個々の介護事業所を訪問し、運営の実態を調査します。
指定基準の順守や介護保険請求の不正の有無に加え、利用者実態や介護サービスの質も確認の対象です。
また、個別指導ではスタッフの働きぶり・利用者への虐待の有無・事故発生時の対応なども確認されます。
とりわけ利用者への虐待の有無に関しては、管理者の対応法や研修・勉強会の記録についてもチェックされる場合があるため、日ごろから防止に向けて取り組まなければなりません。
【形態別】有料老人ホームの運営指導対象・頻度
本章では、有料老人ホームの運営指導の対象や頻度について解説します。
集団指導・個別指導でそれぞれ対象や頻度が異なるため、事前に確認しましょう。
1.集団指導の場合
集団指導の対象・頻度は以下のとおりです。
指導対象 | 管轄行政の所管にある介護保険施設等 |
頻度 | 年に1回以上 |
集団指導は、開催される2カ月前までに日時・場所・指導内容・出席者などが記載された通知書が、各介護事業所に送付されます。
通知書には参加者の準備品についても記載されているため、事業者は必ず内容を確認しましょう。
なお、集団指導に参加できなかった介護事業所には、行政から指導で使用した資料等を閲覧するための情報が提供されます。
また、自治体によってはオンラインでの講習が実施される場合があります。
2.個別指導の場合
個別指導の対象・頻度は以下のとおりです。
指導対象 | 【一般指導】 都道府県知事、あるいは市町村長が実施頻度や個別事由を勘案して選定 【合同指導】 一般指導の対象の介護事業所から選定 |
頻度 | 3年に1回以上 (指定・許可の有効指定期間内に少なくとも1回以上) |
上記の表にある一般指導とは、自治体が単独で行う運営指導を意味します。
一方の合同指導は厚生労働省と自治体、あるいは複数の自治体が合同で行う運営指導です。
運営指導は実施の1カ月前までに、日時・場所・指導担当者・当日の進め方などが記載された通知書が届きます。
原則として、運営指導は現地で行われますが、現地でなくても確認できる情報については、オンライン面談で対応するケースもあります。
【有料老人ホーム】運営指導の必要書類とは
運営指導では、必要書類を事前に通知されます。
ただ、細かな書類の種類は、介護施設によって異なる点に注意しましょう。
必要書類は、事前提出資料と当日準備資料にわかれています。
事前提出・当日準備資料の代表的なものは、それぞれ以下のとおりです。
【事前提出資料】
- 入居契約書
- 自主点検表
- 管理規定書
- 重要事項説明書(料金表等)
- 直近1カ月分の勤務実績表(事前提出の前月分)
自主点検表や勤務実績表の様式はサイトでダウンロードできます。
【当日準備資料】
立地条件に関連する資料 | 登記謄本(土地・建物が貸借なら賃貸借契約書) |
職員に関連する資料 | 勤務表・タイムカード・雇用契約書等 |
運営に関連する資料 | 入居者名簿・協力医療機関との協定書・提供しているサービスに係る記録等 |
契約内容に関連する資料 | 重要事項説明書・入所契約書・パンフレット等 |
事前提出資料と比較すると、当日準備資料の数は膨大です。
自治体からの通知書を確認し、過不足なく用意しましょう。
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有料老人ホームの運営指導で違反があった場合の対応
運営指導で万が一違反や不正行為が発覚した際、自治体は程度に応じた処分を下します。
処分は軽度で済むものもあれば、介護事業所の存続を左右する重い処分もあるため、事前に把握しましょう。
指導
指導は、運営指導の際に発見された違反・瑕疵・誤った改善方法などに対して行われる処分です。
処分のなかでもっとも軽微なものであり、口頭での指導で完了する場合もあれば、口頭で指導したことを、後日書面で交付される場合があります。
改善報告の義務等はありませんが、報告期限付きでの改善を求められる場合があるため注意しましょう。
なお、指導を無視すると、違反の内容によっては、より重い処分が下されます。
改善勧告
改善勧告は、指定に際して付された条件や運営基準を違反した介護事業所に対し、期限付きで是正を勧告する処分です。
改善勧告が出された場合、介護事業所は期限を迎えるまでに、当該箇所を是正しなければなりません。
例えば人員配置基準を満たしていなかった場合は、期限までに必要な人材の確保を行う必要があります。
改善命令
改善命令は改善勧告より重い処分であり、改善勧告に従わなかった介護施設に対して実行されるものです。
改善命令では期限を定めたうえで、介護事業所に事前勧告した改善措置が命じられます。
改善勧告と異なり、改善命令は必ず公示されるため注意しなければなりません。
介護事業所の指定取り消し
指定取り消しは、運営指導における処分でもっとも重いものです。
明確な指定条件違反や、指定禁止事項に該当した場合だけでなく、運営基準を満たせなくなった介護事業所に対して発令されます。
指定取り消しが決定されると、介護事業所は運営を続けられません。
違反の程度によっては指定の効力停止・一時停止になる場合がありますが、いずれにせよ、介護事業所の経営に大きな影響を及ぼします。
【厚生労働省】有料老人ホーム運営指導の留意点
厚生労働省が公開している介護保険最新情報には、運営指導の担当者向けの留意点が記載されています。
介護事業者向けのものではありませんが、担当者の意向を把握できるため、ぜひ確認してください。
なお、担当者向けの留意点には、以下のような記載があります。
適正な事業運営等に関し効果的な取り組みを行っている介護保険施設等について
引用元:介護保険最新情報|厚生労働省
は、積極的に評価し、他の介護保険施設等へも紹介する等、介護サービスの質の向
上に向けた指導を行う。
運営指導は違反や不正の指摘を目的としているイメージがありますが、介護事業所の取り組みに対して積極的に評価を行う一面もあります。
担当者から有益なアドバイスが得られれば、自施設のサービスの質をより向上させるきっかけになるでしょう。
2022年度より、指導に際しオンライン会議ツールの活用が明記され、指導場所が必ずしも「実地」ではなくなることから、名称が「運営指導」に変更されました。オンラインで実施されることは双方にメリットがあるため改善されたと言えるのではないでしょうか。運営指導は原則指定有効期間内(6年)に1回以上実施することが定められています。特定施設などは3年に1回の実施を行うことが望ましいとされているので注意が必要です。
運営指導は、特に介護報酬にまつわる項目は、違反があった場合過去に遡って返還命令が下ってしまうこともあります。また、指定取り消し処分となってしまう事業者の殆どが、介護報酬の不正受給です。介護報酬に関わる帳票関連は、普段から特に念を入れてチェックできる体制を構築し、運営指導に備えておきましょう。
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運営指導の必要書類は電子管理がおすすめ
運営指導の必要書類は膨大です。
とりわけ、普段から書類を紙媒体で保存している施設だと、すべての資料の準備でさえも時間を要するでしょう。
そのため、施設内の書類は電子化を進め、必要な際にスピーディーに資料を出力できる体制を整えましょう。
弊社「ワイズマン」では、介護保険の請求書・ケアの記録などの自動作成や電子管理ができるシステムを提供しています。
書類の電子化に取り組むなら、ワイズマンシステムSPの活用がおすすめです。
書類の電子管理を実践すれば、煩雑な事務作業や書類の保管などから解放され、業務の効率化も実現できます。
昨今は厚生労働省も介護事業所のICTを推進しており、書類の電子化は重要な課題のひとつです。
運営指導で評価を得られるポイントになる可能性もあるため、ぜひ実践してください。
有料老人ホームの経営を適正化して運営指導に備えよう
有料老人ホームに限らず、あらゆる分野の介護事業所にとって、運営指導はネガティブなイメージがあるものです。
実際、運営指導で不正や違反行為が発覚すれば、最悪の場合、指定取り消しとなり、経営を続けられなくなります。
そのため、運営指導の内容や頻度などを確認し、いつ指導が入ってもいいように適切な経営を心がけましょう。
なお、運営指導は必要書類が多く、紙媒体の資料のままだと準備に手間がかかります。
スムーズに運営指導に対応するなら、書類の電子管理を実践しましょう。
もし書類の電子管理を実践するなら、ぜひワイズマンシステムSPをご検討ください。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。