有料老人ホームの入居者を獲得するには?ポイントなどを解説

2024.09.18

昨今は、高齢化によって有料老人ホームのニーズが高まっています。
ただし、施設数も増加したことで、入居者獲得の競争も激しくなりつつあります。

有料老人ホームの経営を安定させるには、入居者を獲得するしかありません。
しかし、有料老人ホームの入居者の獲得は容易ではなく、失敗して経営状態を悪化させる施設もあります。

本記事では、有料老人ホームの入居者を獲得する方法について解説します。
有効的な営業先や、入居者を獲得するポイントなどについても解説するので、ぜひ参考にしてください。

【基礎知識】有料老人ホームの現状

最初に、有料老人ホームの定義や業界の現状について確認しましょう。
本章では、有料老人ホームを運営するうえで目安となる入居率についても解説します。

有料老人ホームとは

有料老人ホームとは、老人福祉法で以下のように定義されています。

有料老人ホーム(老人を入居させ、入浴、排泄もしくは食事の介護、食事の提供またはその他の日常生活上必要な便宜であつて厚生労働省令で定めるもの(以下「介護等」という。)の供与(他に委託して供与をする場合および将来において供与をすることを約する場合を含む。第十三項を除き、以下この条において同じ。)をする事業を行う施設

引用:老人福祉法|老人福祉法第二十九条

上記のとおり、有料老人ホームは生活支援や各種介助など、さまざまなサービスを提供する施設です。

なお、有料老人ホームは利用者の健康状態やニーズによって、以下の3種類に分けられます。

介護付有料老人ホーム要介護者が対象。入浴や排泄の介助・生活支援・機能訓練などを受けられる。
住宅型有料老人ホーム健康な利用者が対象。生活支援サービスを受けられる。介護が必要になった際は、別途で在宅介護サービスと契約する必要がある。
健康型有料老人ホーム健康な利用者が対象。生活支援サービスを受けられる。要介護者になった場合は、契約を解除する必要がある。

有料老人ホームは、種類によってサービスの内容が異なります。
当然、利用者のニーズも異なるため、自施設の種類を把握したうえで集客しなければなりません。

有料老人ホームの入居率の推移

有料老人ホームの入居率は、以下のように推移しています。

出典:特定施設入居者生活介護|厚生労働省

厚生労働省の発表によると、介護付き有料老人ホームの入居率はいささか鈍化しているものの、住宅型の入居者は年々増加していることがわかります。
昨今は高齢化の進行によって高齢者はもちろん、要介護者も増加しており、介護施設へのニーズが高まっている状態です。

そのため、有料老人ホームの施設数も増加しています。
高齢化は現在でも進行しているため、有料老人ホームへのニーズは今後も高まり続けるでしょう。

入居者はどれだけ獲得すればいい?

規模にもよりますが、有料老人ホームの損益分岐点を踏まえると、経営状態が安定するのは入居率が8割強~9割程度とされています。

つまり、有料老人ホームの黒字化を目指すなら、9割以上の入居率を目指す必要があります。
もし9割未満の入居率が続いているようであれば、有料老人ホームの経営状態が悪化するリスクが高まるので注意しましょう。

特に、大手と比べると財務基盤が弱い個人経営の有料老人ホームは、入居者の増減によって収益が大きく変動します。
1人でも多くの入居者を獲得するうえでも、効果的な集客の実践は不可欠です。

有料老人ホームが入居者を獲得できない3つの原因

入居者を獲得できない原因には、以下のようなものがあります。

  • 利用者のニーズを把握できていない
  • 業界内での競争が激化している
  • 集客方法が偏っている

入居者を獲得するうえでも、集客がうまくいかない原因を把握することは重要です。
自施設に該当するものはないかを、必ずチェックしましょう。

利用者のニーズを把握できていない

利用者のニーズを把握できていないまま集客しても、入居者は獲得できません。

有料老人ホームの形態が複数あるように、利用者のニーズも多種多様です。
そのため、利用者のニーズを把握したうえで自施設の強みをアピールしていく必要があります。

入居者を獲得する際は、あらかじめニーズを把握し、ターゲットを絞り込んでから集客しましょう。
ニーズを把握すれば、効果的な集客方法やアピールする強みを決めやすくなります。

業界内での競争が激化している

先述したように、昨今は高齢化の進行によって、介護施設が増加しています。

有料老人ホームはもちろん、サ高住のような施設も競合になるため、パイの奪い合いは避けられません。
競争を生き残るには、いかに自施設の独自性を打ち出し、競合と差別化できるかにかかっています。

自施設の強みや魅力を理解し、適切にアピールしなければ、入居者を獲得できないでしょう。

また、医療機関や介護関連の施設に営業をかけ、入居者を紹介してくれるコネクションを形成しましょう。
関連機関の協力を得られれば、入居率が安定しやすくなります。

集客方法が偏っている

集客方法が偏っていると、入居者が集まりにくくなります。
例えば、集客方法をチラシやパンフレットの配布だけに頼っている状況では、集客効果が限定的になります。

昨今は広告宣伝のチャネルが多様化しており、より多くの利用者にアピールできます。
もちろん、多様化したチャネルを使いこなせる有料老人ホームほど集客効果は高まります。

偏った集客方法を続けていては、利用者の確保に失敗しかねません。
効率的に集客をするうえでも、複数の集客方法を活用しましょう。

有料老人ホームの入居者を獲得する方法

有料老人ホームの入居者を獲得する方法には、以下のようなものがあります。

  • Webサイト
  • チラシ・パンフレット
  • ポスティング
  • 施設のイベント
  • SNS
  • ランディングページ
  • ポータルサイト

いずれの方法にも一長一短があり、自施設の状況や地域の傾向に合わせて使い分ける必要があります。
それぞれの方法の特徴を把握し、適切に取り入れましょう。

Webサイト

近年、自施設のWebサイトを作成し、入居者を募集する施設が増えてきました。
Webサイトは自施設のサービスや雰囲気を紹介できるうえに、年中無休で閲覧できるため、効率的な情報の発信が可能です。

ただし、Webサイトを作成しても閲覧するユーザーが増えなければ意味がありません。
Webサイトを運営するうえで、定期的に情報を更新したり、ブログのようなオウンドメディアを作成したりすることは不可欠です。

また、閲覧数を増やす工夫もしなければなりません。
閲覧数を増やすためにも、Webサイトを運営する際はSEO対策を徹底しましょう。

SEO対策とは、GoogleやYahoo!のような検索エンジンで検索した際に、上位に表示されるようにするためのマーケティング手法です。
検索結果の上位に自施設のWebサイトが表示されるようになれば、自然と閲覧数が増える可能性が高まります。

Webサイトは、適切に管理しなければ集客効果を発揮できない点に注意しましょう。
必要があれば、Webサイト全体のデザインをリニューアルする取り組みも必要です。

チラシ・パンフレット

チラシやパンフレットの作成は、アナログな一方で、依然として効果が期待できる集客方法です。

公共機関にチラシやパンフレットを置かせてもらったり、新聞の折込チラシにしたりすれば、自施設を広くアピールできます。
昨今は、リーズナブルな値段で大量のチラシやパンフレットを製作する業者も多いため、コストを抑えた集客も可能です。

特別なノウハウが必要な場面も少ないため、実践しやすい点が特徴です。
ただし、紙面に載せられる情報は限られているため、チラシやパンフレットのレイアウトは念入りに検討しなければなりません。

チラシやパンフレットによる宣伝によって、直接的に入居契約を獲得できる可能性は決して高くありません。
しかし、特定の地域での認知度を獲得するうえで、チラシ・パンフレットの配布は有効的な手段です。

チラシやパンフレットにWebサイトにつながるQRコードを記載したり、定期的に情報発信をしたりすれば、入居者を誘導できる可能性が高まります。
他の集客方法と組み合わせ、上手く活用しましょう。

ポスティング

チラシやパンフレットを周辺地域にポスティングする方法も、多用される集客方法です。
利用者の自宅ポストに直接投函すれば、確実にチラシやパンフレットを届けられます。

しかし、ポスティングは人力で投函を行うため、大量にチラシやパンフレットを配りたい場合、スタッフにかなりの負担がかかります。
集客方法をポスティングに依存すると、思うような集客効果が望めないでしょう。

なお、代行業者に依頼すれば、少ない人員でもポスティングが可能です。
ただし、大量にチラシ・パンフレットをポスティングするなら、その分コストがかかる点には注意しましょう。

施設のイベント

自施設でイベントを開催すれば、集客効果が期待できるうえに、地域へのアピールにもつながります。

休日に健康教室や施設の見学などのイベントを開催することで、自施設の設備を生で見てもらえます。
また、地域の住民と交流することで、信頼関係の構築も可能です。

イベントが好評であれば、参加者の口コミによる集客効果も期待できます。

ただし、イベントの定期的な開催はスタッフへの負担を増やすリスクがあります。
そのため、人員に余裕がなかったり、設備が限られていたりする有料老人ホームでは、開催頻度を調節するなどの工夫が必要です。

SNS

利用者が多いSNSを活用する方法も効果的です。

昨今はSNSを利用する高齢者も多く、種類も多様化しています。
さまざまなSNSにアカウントを作成してアピールし、フォロワーを増やせれば入居者の獲得につながります。

また、SNSはフォロワーと直接コミュニケーションを取れるため、適切に活用すれば、利用者との信頼関係の構築も可能です。

ただし、SNSはWebサイトと同様に、定期的な更新とコンテンツの発信が不可欠です。
加えて、フォロワーが増加するまでに時間がかかるため、長期的な視点で運営する必要があります。

ランディングページ

ランディングページとは、WebやSNSなどで表示される広告ページです。

Webサイトと異なり、縦長のページに施設の概要やサービス内容などを記載できます。
そのため、ランディングページを表示するだけで、有料老人ホームの情報を網羅的に届けられます。

訴求力があるうえに、ユーザーの離脱率が低い点も、ランディングページのメリットです。
しかし、ランディングページはWebサイトの運営よりもランニングコストがかかりやすい点には注意しましょう。

ポータルサイト

ポータルサイトとは、ユーザーが知りたい情報を検索する際に、最初に表示されるWebサイトです。

昨今は介護ニーズの高まりもあって、有料老人ホームなどを紹介する介護専門のポータルサイトが増えています。
人気が高いポータルサイトに自施設の情報を掲載すれば、高い宣伝効果が期待できます。

しかし、ポータルサイトは自施設だけでなく、競合も情報を掲載しているWebサイトです。
ユーザーは複数の施設を比較しながら検討するため、差別化ができていなければ集客につながらない恐れがあります。

入居者を獲得する際に役立つ営業先

本章では、入居者を獲得する際に役立つ営業先について解説します。
入居者を獲得するなら、外部の機関への営業も必須です。

有料老人ホームの場合、以下のような機関が営業先として有効です。

  • 地域包括支援センター
  • 居宅介護支援事業所
  • 医療機関
  • 老人ホーム紹介センター
  • 地域住民

営業先によって、紹介される入居者の傾向は異なります。
営業する前に、あらかじめ違いを把握しましょう。

地域包括支援センター

地域包括支援センターとは、高齢者のサポートを地域全体でサポートするための施設です。
有料老人ホームはもちろん、病院や居宅介護支援事業所などとも連携しています。

地域包括支援センターは担当エリアの高齢者の状況を把握しているうえに、介護に関する相談窓口も設けている施設です。
関係を構築すれば、相談者に自施設を案内してもらえる場合があります。

ただし、地域包括支援センターから紹介してもらえる利用者は要介護者がほとんどです。
そのため、健康型有料老人ホームでは集客効果を望めません。

居宅介護支援事業所

居宅介護支援事業所も、有料老人ホームにとって重要な営業先です。
居宅介護支援事業所は、介護の相談やケアプランの作成に加え、関連施設との連絡調整や介護保険の代行申請などを行う施設です。

居宅介護支援事業所と信頼関係を構築すれば、利用者に紹介してもらえる可能性が高まります。

もちろん、ケアマネージャー個人と協力関係を構築する方法も効果的です。
ただし、居宅介護支援事業所は集中減算制度があるため、特定の有料老人ホームに偏った紹介はできません。

医療機関

病院のような医療機関も重要な営業先です。

病院で営業する際は、リハビリテーションスタッフや、メディカルソーシャルワーカーと信頼関係を築きましょう。
定期的に空き室状況も共有しておけば、緊急性が高い入居者を紹介してくれる可能性があります。

一方で、医療機関からの紹介は医療への依存度が高い入居者に限定されます。
有料老人ホームによっては受け入れができない場合もあるため、注意が必要です。

老人ホーム紹介センター

老人ホームを専門的に斡旋する老人ホーム紹介センターでも、入居者を紹介してもらえます。
自施設の強みや魅力をあらかじめ共有すれば、高い集客効果が期待できます。

なお、老人ホーム紹介センターは相談にきた利用者の希望条件に合わせて老人ホームを紹介する施設です。
希望条件の傾向を確認し、自施設が合致するかをあらかじめチェックすれば、集客効果をさらに高められます。

地域住民

地域住民へのアピールも、入居者を獲得するうえで欠かせません。
介護とは直接関係なくとも、地域のイベントや集まりで地域住民と交流するだけでも、自施設のアピールにつながります。

交流を深めれば、それだけ有料老人ホームの存在を知ってもらえるため、口コミで入居者を獲得できるきっかけになります。

有料老人ホームの入居者獲得を実現する3つのポイント

有料老人ホームの入居者を獲得するなら、以下のポイントを意識しましょう。

  • 施設の強みをアピールする
  • ニーズを明確にして対象を絞り込む
  • Webを活用して幅広くアピールする

それぞれのポイントを意識するだけでも、集客効果が変わる可能性があります。

施設の強みをアピールする

競合と差別化を図るうえでも、施設の強みをアピールすることは不可欠な取り組みです。

集客のためにWebサイトやチラシ、パンフレットなどを制作する際も、自施設の強みをどのように記載するかによって、集客効果は変わります。
競合が宣伝する内容を意識しつつ、自施設ならではの強みや魅力を効果的に宣伝できるように取り組みましょう。

なお、近年は介護施設の多様化もあって、意外な要素が入居者を獲得するきっかけになるケースもあります。
施設特有のレクリエーションやサービスがあるだけでも独自性のアピールが可能です。

ニーズを明確にして対象を絞り込む

どのような集客方法でも、ニーズを明確にし、対象を絞り込まなければ効果を発揮しません。
対象が不明確な状態では、適切なアプローチができなくなります。

有料老人ホームは運営形態によって、受け入れられる入居者が異なる施設です。
いくら営業しても、自施設が受け入れられない入居者を紹介されるような状況では意味がありません。

集客の成果を確実にあげるためにも、対象を絞り込んだうえで広告宣伝を行いましょう。

Webを活用して幅広くアピールする

インターネットが普及した昨今、入居者を獲得するうえでWebは欠かせないツールです。

Webサイト・SNS・ポータルサイトを活用すれば、入居者本人はもちろん、その家族にも自施設を知ってもらう機会を提供できます。
もちろんアナログな集客方法にも一定の効果はありますが、伝えられる情報に限りがあるうえに、スタッフの負担を増やすリスクがあります。

入居者が求める情報を提供するうえでも、Webを利用したアピールは重要です。

しかし、Webを活用したアピールでは、SNSやサイトの運営ノウハウが必要です。

また、ユーザーに合わせてWebサイトのデザインやインターフェースを調整することも欠かせません。
ノウハウがない状態で取り組んでも効果が上がらないので、専門家のレクチャーを受けたり、代行業者に依頼したりしましょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

「高齢化が進めば当然入所施設も必要になる」という見解のもと、有料老人ホームを始め入所施設がたくさん開設しました。しかし、その結果これまで集客と無縁だった特養でも待機者が0という施設も珍しくない時代になっています。つまりは、特養も有料老人ホームの競合施設となっているのです。このような過当競争の時代を生き残るためには以下3つのポイントを抑える必要があります。①顧客(ターゲット)の設定、②施設の特長を強化、③計画的なマーケティング戦略の3点です。まず②の部分で皆さんの施設でそのエリア特有の『強み(特長)』を作りましょう。リハビリや看取り、医療ニーズ対応など色々考えられるでしょう。そのうえで①を明確に設定し、③に繋げるという手順が有効です。最も重要なのは②であることを念頭におき集客していきましょう。

有料老人ホームの入居者獲得は工夫が必要

昨今の介護ニーズの高まりにより、有料老人ホームの利用者は増加傾向にあります。

ただし、競合も激しくなっているため、工夫しなければ自施設の入居者を獲得できません。
経営状態の安定に必要な入居率を維持するなら、さまざまな集客方法を活用し、自施設の強みや魅力を工夫して伝える必要があります。

そのためにも、集客方法のメリット・デメリットを把握し、自施設に合ったものを活用しましょう。

また、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所のような関連施設への営業も、入居者の獲得には不可欠です。
関連機関や地域住民と信頼関係を構築すれば、より多くの入居者を獲得できる可能性が高まります。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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