有料老人ホームを開業する8つの手順|メリットとデメリットを徹底解説
2024.09.18
有料老人ホームを開業する際には、事業計画と資産計画を立てる必要があります。
有料老人ホームを立ち上げるために、開業の流れを把握して資金準備を進めることが大切です。
これから有料老人ホームを開業しようと考えている方は、開業までの手順と必要な開業資金目安を確認しておきましょう。
本記事では、有料老人ホームを開業するまでの8つの手順を解説します。
必要な開業資金目安と有料老人ホームを開業するメリット、デメリットをあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
有料老人ホームの種類
有料老人ホームとは、入居者に対して介護サービスや生活援助など、身の回りの世話から健康管理までを行う介護施設です。
有料老人ホームは、主に60歳以上の高齢者を対象にしており、施設の規定によって入居可能年齢が定められています。
ただし、老人福祉法では老人に関する定義がないため、場合によっては60歳未満の要介護者でも入居できます。
老人ホームはあくまで「老人を対象とした福祉施設」であるため、原則として60歳以上の高齢者を対象としている事業所が多いです。
参照元:介護を受けながら暮らす高齢者向け住まいについて|厚生労働省
有料老人ホームは、一定の基準を満たしたうえで管轄の自治体に届け出を行うことで、開業できます。
有料老人ホームの種類は、主に次の4種類です。
施設タイプ | ホーム供給数 |
介護付有料老人ホーム | 4,192 |
住宅型有料老人ホーム | 10,508 |
健康型有料老人ホーム | 20 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 7,660 |
なお、上記は2020年10月時点のデータです。
各有料老人ホームの概要を確認して、どのタイプの有料老人ホームを開業するべきか検討しましょう。
介護付有料老人ホーム
介護付有料老人ホームは、特定施設入居者生活介護の許可を得て、介護サービスを提供する有料老人ホームです。
介護付有料老人ホームには、要介護認定を受けた方のみが入居できる「介護専用型」と、自立や要介護の方を対象とした「混合型」の2種類があります。
介護職員が日ごろの食事や排泄の介助を行うことで、日々の生活をサポートします。
他にもリハビリテーションやレクリエーションなど、入居者の要介護レベルや状態にあわせて実施するため、入居者は退屈することなく自立支援を受けることが可能です。
介護付有料老人ホームを開業するには、人員や設備の基準を満たして、管轄の自治体から特定施設の指定を受けなければなりません。
住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、住居と介護施設が一体化した老人ホームです。
介護の必要がない高齢者をターゲットとしており、規定の年齢を満たしていれば誰でも入居できます。
食事や清掃、洗濯、安否確認、レクリエーションなど身の回りのケアと安全確認を提供しており、介護サービスは外部の機関に依頼します。
介護付有料老人ホームが要介護者を対象としているのに対して、住宅型有料老人ホームは高齢者の生活援助を目的とした老人ホームです。
そのため一人暮らしの高齢者や、家事が困難になってきた老夫婦が、住宅型有料老人ホームに入居します。
健康型有料老人ホーム
健康型有料老人ホームは、健康維持を目的とした日本にはあまりない有料老人ホームです。
自立した高齢者をターゲット層にしており、レストランや露天風呂、スポーツジムなど私生活を楽しむための施設が備わっています。
家事や食事のサポートも提供しており、介護が必要になった場合は他の施設に移転します。
そのため健康型有料老人ホームは、一人暮らしに不安を感じており、他の入居者と充実したシニアライフを送りたい高齢者が入居する施設です。
サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅とは、民間事業者が設立するバリアフリー特化の賃貸住宅です。
「サ高住」や「サ付き」と呼ばれており、自立した高齢者や軽度の要介護者を受け入れています。
バリアフリーに特化した構造や間取りで建物が設計されており、生活相談員も常駐しているため、入居者は気軽に相談できるのが特徴です。
なお、生活支援や安否確認などのサービスは提供していますが、介護サービスを利用したい場合は、訪問介護などの外部サービスを利用しなければなりません。
サービス付き高齢者向け住宅は、正確には老人ホームのような介護施設ではなく、外泊や外出も自由にできる賃貸住宅の扱いです。
有料老人ホームを開業するメリット
有料老人ホームを開業するメリットは、次のとおりです。
- 需要が高い
- 収益性が高い
- エリアの制限が少ない
- 競合が参入するリスクが少ない
需要が高い
近年は少子高齢化が加速しており、有料老人ホームの需要が高くなっています。
高齢者が増えると、顧客となるターゲット層も増えるため、安定した収益を見込めます。
厚生労働省のデータによると、2000年から2018年時点での、有料老人ホーム利用者数は約14倍に増加しました。
年度 | 有料老人ホーム利用者数(人) | 住宅型有料老人ホーム利用者数(人) | 介護付き有料老人ホーム(人) | サービス付き高齢者向け住宅利用者数(人) |
2000年 | 36,855 | - | - | - |
2007年 | 183,295 | - | - | - |
2012年 | 315,678 | 120,321 | 194,539 | 70,999 |
2018年 | 514,017 | 271,515 | 241,954 | 234,971 |
今後も高齢化が進むごとに、高齢者の割合は増える見込みであり、有料老人ホームの需要が高まるでしょう。
収益性が高い
有料老人ホームは、需要が高く入居者を見つけやすいだけでなく、収益性が高い事業です。
一般的な賃貸住宅とは異なり、有料老人ホームは利用者ニーズを満たした施設です。
いったん入居すると他の施設に移る可能性が低く、長期的な利用が見込まれるため、収益も黒字化しやすいです。
エリアの制限が少ない
有料老人ホームは、エリアの制限が少ないため、土地選びに困りません。
一般的な賃貸住宅の場合は、駅からの距離や周辺環境などによって需要が大きく変わります。
対して有料老人ホームは、駅から離れた物件であっても周辺施設が充実していなくても、利用者を獲得しやすいのが特徴です。
他の業種では収益化が見込めない土地であっても、有料老人ホームであれば十分に需要があります。
そのため、わざわざ土地費用が高い場所を選ばなくても、黒字化しやすいでしょう。
競合の参入リスクが低い
有料老人ホームのなかでも、介護付有料老人ホームは競合の参入リスクが低いです。
介護付有料老人ホームは、総量規制対象施設に指定されており、自治体によって施設数が制限されています。
つまり近隣に競合となる介護付有料老人ホームの開業が禁止されており、顧客を奪い合う心配がありません。
競合が参入するリスクが低い事業は、顧客を独占的に獲得できるため、収益化しやすい傾向にあります。
有料老人ホームを開業するデメリット
有料老人ホームを開業するデメリットは、次のとおりです。
- 初期費用が高い
- 介護事業者探しが難しい
- 介護保険制度改定の影響を受ける
初期費用が高い
有料老人ホームは、より多くの入居者を獲得するために大きな建物が必要です。
大きな施設を建設するためには、高額な建築費用と土地購入費用が発生します。
他にも、設備代や広告宣伝費、求人費などが必要になるため、開業時の初期費用は高くなりがちです。
億単位の初期費用がかかってしまう場合もあるため、資金計画を立てる必要があります。
介護事業者探しが難しい
有料老人ホームを運営する際は、経営ノウハウがある事業者に経営を委託するのが一般的です。
そのため、長期間にわたって経営を安定させるには、経営ノウハウと介護事業に精通している優良な介護事業者を選ぶことが大切です。
しかし、優良な介護事業者を探すことは簡単ではありません。
過去の実績や評判などを調べ、複数の介護事業者を比較検討し、優良な事業者を見極める必要があります。
介護保険制度改定の影響を受ける
有料老人ホームの収入は、介護保険による受給が多くを占めます。
そのため、介護保険制度が改定されると収入に影響することもあります。
介護保険制度の改定によって保険料が増額されるケースもありますが、事業所にとってネガティブな改定がされた場合は、収入が減少してしまうかもしれません。
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有料老人ホームの開業資金の目安
有料老人ホームを開業する際には、次の資金を用意する必要があります。
- 土地購入費
- 事業所建築費
- 設備・備品費
- 営業・広報活動費
- 求人・人件費
- その他雑費・手数料
土地購入費
有料老人ホームを開業するためには、事業所を建てる土地を購入しなければなりません。
土地購入費は、開業予定のエリアの坪単価と事業所の広さによって変わります。
国土交通省が公表しているデータによると、2024年度の平均公示地価は次のとおりです。
平均平米単価 | 25万5,783円/㎡ |
平均坪単価 | 84万5,565円/坪 |
例えば、上記の平均坪単価で200坪の土地を購入する場合、1億6,911万3,000円の土地購入資金が必要です。
事業所建築費
土地を購入した後は、事業所を建設するための建築費用が発生します。
200坪の土地に延べ床面積(全ての階の床面積を合計した面積)250坪の事業所を建てる場合、坪単価あたりの建築費が65万円と仮定したすると、1億6,250万円もの資金が必要です。
設備・備品費
事業所内で使用する設備や備品を購入するために、目安で約3,000万円ほどの費用が必要です。
有料老人ホームに必要な設備や備品として、次のようなものが挙げられます。
- 食堂
- 浴室と脱衣室
- 洗面所
- 洗濯設備
- トイレ
- 汚物処理室
- 機能訓練室
- 医務室
- 職員室、事務室
- 談話室
- 緊急通報装置
- スプリンクラー
- 消毒用アルコール
- ティッシュ
- トイレットペーパー
- 事務用品
- 机、椅子
- OA機器
予算に余裕がない場合は、開業時点で必要な設備や備品だけを購入しましょう。
営業・広報活動費
顧客を集客するために、営業・広告活動費を予算に含めておく必要があります。
営業活動や広報活動にかかる費用は、広告を掲載する媒体や活動内容によって異なりますが、数十万円から数百万円の資金が必要です。
求人・人件費
従業員を雇うための求人費と人件費も、予算に含めておかなければなりません。
求人費は採用可否に関わらず数十万単位の費用が発生するため、費用対効果が高い媒体で広告を掲載することが大切です。
人件費は売上の40%程度を目安に、開業から半年分は用意しておきましょう。
その他雑費・手数料
自治体に開業手続きを申請する際の手数料も経費として発生します。
雑費と、申請に必要な手数料を計算して用意しておきましょう。
有料老人ホームを開業するまでの8手順
有料老人ホームを開業するには、次の8つの手順を押さえておきましょう。
- 事業計画・資金計画を立てる
- 自治体と相談し手続きを行う
- 開業資金を準備する
- 人員を確保する
- 備品や設備を確保する
- 設置届を提出する
- 指定特定施設入居者生活介護申請を行う
- 建設工事を着工する
- 有料老人ホームを開業する
各手順を確認して、有料老人ホームを立ち上げる際の参考にしてください。
1. 事業計画・資金計画を立てる
まずは、事業計画・資金計画を立てる必要があります。
どのような有料老人ホームを開業するべきかを考え、事業内容とターゲット層、開業エリアを検討し事業計画を立てましょう。
また、事業計画にあわせて必要な費用を算出し、開業資金を調達する方法も検討しましょう。
2. 自治体と相談し手続きを行う
事業計画を立案した後は、開業予定のエリアを管轄する自治体と相談し、手続きを行いましょう。
事業所を建てる予定のエリアに関する規制や、介護保険事業を開業する際の調整など、自治体の担当者と相談しながら手続きを進めてください。
管轄の市町村での協議が完了したら、都道府県に事前協議の申請を行います。
3. 開業資金を準備する
開業資金を準備する方法として、金融機関からの融資が一般的です。
その他にも日本政策金融公庫がスタートアップ企業を対象に融資する「新規開業資金」を受けたり、補助金や助成金を活用したりして、開業資金を集めましょう。
なお金融機関からの融資では開業資金の全額は借りられないため、自己資金として2割程度は用意しておく必要があります。
4. 人員を確保する
有料老人ホームを開業するためには、必要な人員を確保しなければなりません。
必要な人員基準は、開業する老人ホームの種類によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
関連記事:「有料老人ホームの人員配置基準|夜勤での配置人数とは?」
5. 備品や設備を用意する
有料老人ホームを運営するために、備品や設備を用意する必要があります。
備品や設備を用意する際には、購入だけでなくレンタルサービスを活用することで、初期費用を抑えられるでしょう。
6. 設置届を提出する
事前協議の申請が承認されたら、建築確認申請を行って事業所の建設準備をする必要があります。
法人設立・設置届出書を自治体に提出して、有料老人ホームの開業に向けて事業所の設立準備を行いましょう。
7.指定特定施設入居者生活介護申請を行う
介護付有料老人ホームを開業する際には、自治体へ「指定特定施設入居者生活介護申請」を提出する必要があります。
要介護者を対象として実施される施設サービスを開業する際には、指定特定施設入居者生活介護申請を行って、自治体からの承認を得ましょう。
8. 建設工事を着工する
自治体へ設置届を提出し、開業が許可されたら事業所の建設工事を着工できます。
完工までの期間で、対象エリアで営業・広報活動を行い、入居者の募集を行いましょう。
9. 有料老人ホームを開業する
事業所が完成したら、有料老人ホームとして開業できます。
開業後は入居者を確保するための営業活動と、サービスの質を向上させるマネジメントを徹底しましょう。
良質なサービスを提供する有料老人ホームといった良い評判や口コミが増えれば、近隣住民を獲得しやすくなるでしょう。
有料老人ホームの開設をする際、まず特定施設の指定公募の有無を確認するのではないでしょうか。特定施設の指定が取れれば、比較的安定した経営が望めるので当然の流れです。しかしながら、特定施設は各都道府県でその開設数を管理(総量規制)しており、仮に公募が出ていたとしても、非常に人気のある業態なのでかなりの競争となります。このような形で特定施設の指定を睨みつつも、実際は住宅型有料老人ホームかサービス付き高齢者向け住宅での開設となるケースが殆どです。住宅型とサ高住にはそれぞれメリット、デメリットがあります。住宅型は居室面積が原則13㎡以上となっているのに対し、サ高住は原則25㎡(条件付きで18㎡)です。ターゲットとする高齢者層によって重視する居室面積も変化するため、事前のコンセプトメイクが重要なのです。
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手軽に業務改善を始めたいとお考えの方は是非ご活用ください。
事前準備を徹底して有料老人ホームを開業しよう
有料老人ホームを開業する際には、事前準備を徹底しましょう。
開業資金だけでなく少なくとも半年分の運営資金を用意しておくことで、収益が安定するまで余裕をもって運営できます。
また、人員確保や広報活動を徹底して、適切に有料老人ホームを運営できるよう資金面以外でも準備しておくことが大切です。
有料老人ホームを開業するには億単位の資金が必要になるため、資金の調達方法も検討しておく必要があります。
金融機関からの融資や補助金、助成金制度を活用して、開業資金を集めましょう。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。