サ高住の運営規定とは?作成・変更の注意点などを解説
2025.04.18

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、適切な運営が求められる介護施設です。
サ高住の運営を円滑に進めるためには、運営の方針やサービスの内容などを定めた運営規定の存在が不可欠です。
しかし、初めて作成する場合や改訂する際、どのような項目を記載すべきなのか、また法令遵守の観点から注意すべき点は何なのか、頭を悩ませる方も少なくないでしょう。
本記事では、サ高住の運営規定の役割や記載するべき必須項目などをわかりやすく解説していきます。
また、運営規定の記載例も紹介しますので、作成・改訂の参考にしてください。
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目次
【基礎知識】サ高住とは

サービス付き高齢者向け住宅、通称「サ高住」は、高齢者が安心して生活できるよう、バリアフリー構造を持ち、安否確認や生活相談サービスを提供する賃貸住宅です。
サ高住の主な特徴は以下のとおりです。
特徴 | 詳細 |
対象者 | 高齢者(主に60歳以上。施設によっては入居条件が異なる) |
構造 | バリアフリー構造が基本。高齢者が安全に移動できるよう配慮されている |
サービス | 安否確認:定期的な訪問やセンサーによる見守り 生活相談:日常生活に関する相談や支援 |
契約形態 | 賃貸契約が一般的 |
サ高住は、介護が必要になった場合でも、外部の介護サービスを利用しながら生活を継続できる点が魅力です。
また、有料老人ホームと比較して、比較的費用を抑えられる場合もあります。
ただし、サ高住はあくまで住宅であるため、介護サービスは外部サービスを利用することが前提です。
そのため、介護度が重度になった場合には、他の施設への転居が必要になる場合もあります。
サ高住の運営規定とは
サ高住の運営において、運営規定は非常に重要な役割を果たします。
本章では運営規定の基本的な役割から、混同されやすい重要事項説明書との違いについて解説するので、参考にしてください。
運営規定の役割
サ高住における運営規定とは、施設の運営方針や、提供するサービスの内容などを具体的に定めたものです。
入居者の方々が安心して生活を送るためのルールブックのような役割を果たします。
運営規定を定めることで、施設全体の運営が円滑に進み、サービスの質の維持・向上にもつながります。
運営規定に含まれる代表的な項目は、以下のとおりです。
- 人員配置に関する事項
- 提供するサービスの内容
- 利用料金
- 入居者の遵守事項
- 緊急時対応
- 苦情対応
- 個人情報保護に関する事項
上記の項目を明確にすることで、入居者とその家族は、どのようなサービスが受けられるのか、どのような場合にどのような対応がなされるのかを事前に理解できます。
また、施設側も運営の基準を明確にすることで、質の高いサービスの提供が可能です。
運営規定と重要事項説明書の違い
運営規定と重要事項説明書は役割が異なります。
運営規定は、施設全体の運営や提供されるサービスに関するルールを定めるものです。
対して、重要事項説明書は、入居契約を結ぶ際に、入居者に対して施設の概要やサービス内容などを説明するための書類です。
重要事項説明書には、運営規定の内容が一部含まれますが、運営規定そのものではありません。
重要事項説明書は、入居者が契約内容を理解し、納得した上で入居するための情報提供を目的としています。
運営規定は施設の運営の根幹をなすものであり、重要事項説明書はその内容をわかりやすく入居者に伝えるためのツールであると捉えられます。
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運営規定に記載する必須項目

サ高住の運営規定には、入居者が安心してサービスを利用するために、以下のような必須項目の記載が必要です。
- 人員配置
- サービス内容
- 料金設定
- 禁止事項
- その他(緊急時対応・苦情対応・個人情報保護など)
上記の項目を明確に記載することで、サ高住の運営方針やサービス内容を透明化し、入居者やその家族との信頼関係を構築できます。
人員配置
サ高住には、入居者の安全と安心を確保するために、適切な人員配置が求められます。
運営規定には、以下の内容を記載しましょう。
職員の種類と人数 | 管理者・生活相談員・介護職員・看護職員など、職種ごとの配置人数を明記します。 |
勤務体制 | 日勤・夜勤・宿直など、時間帯ごとの人員配置を記載します。 |
資格要件 | 各職員に求められる資格や経験を明記します。 |
人員配置に関する情報は、入居者や家族が安心して生活を送るうえで重要な判断材料となります。
具体的な数値を記載することで、透明性の高い情報提供を心がけましょう。
サービス内容
サ高住で提供するサービス内容を具体的に記載することは、入居後の生活をイメージしやすくするうえで重要です。
運営規定には、以下の内容を詳細に記載する必要があります。
生活支援サービス | 食事の提供・洗濯・掃除・買い物代行など、日常生活を支援するサービスの内容・提供時間・料金などを明記します。 |
介護サービス | 身体介護・生活援助など、介護保険サービスの内容を記載しましょう。外部の介護サービス事業者と連携している場合は、その旨も記載します。 |
医療連携サービス | 協力医療機関との連携体制、緊急時の対応などを具体的に記載します。定期的な健康相談や健康診断の実施についても明記します。 |
その他サービス | レクリエーション・趣味活動・イベントなど、入居者の生活を豊かにするサービスの内容を記載します。 |
提供するサービス内容を明確にすることで、入居者や家族は自身のニーズに合ったサービスを選択できます。
また、あらかじめサービス内容を具体化しておけば、過剰なサービスの要求の抑制も可能です。
料金設定
料金設定は、入居を検討するうえでもっとも重要な要素の一つです。
運営規定では、以下の料金に関する情報を明確に記載する必要があります。
家賃 | 居室の種類や広さによって異なる家賃を明記します。 |
共益費 | 共用施設の維持管理費・水道光熱費など、共益費の内訳と金額を記載します。 |
サービス費 | 生活支援サービス・介護サービスなど、サービスごとに料金を明記します。 |
食費 | 食事の提供がある場合、食費の内訳と金額を記載します。 |
その他費用 | 入居一時金・敷金・保証金など、その他の費用について明記します。 |
支払い方法 | 支払い方法(銀行振込・口座振替など)や支払い期日を記載します。 |
料金体系を明確にすることで、入居後の費用に関する不安を解消し、安心して生活を送れるように配慮しましょう。
禁止事項
入居者同士が快適に生活するために、運営規定には禁止事項を明記する必要があります。
禁止事項は、入居者の権利を制限するものではなく、共同生活における秩序を維持するために不可欠なものです。
また、禁止事項を明記することにより、入居者同士のトラブルだけでなく、カスタマーハラスメントの抑止にもつながります。
具体的には、以下の内容が挙げられます。
他の入居者への迷惑行為 | 騒音・暴力・ハラスメントなど、他の入居者の生活を妨げる行為を禁止します。 |
危険物の持ち込み | 火災や爆発の危険性がある物品の持ち込みを禁止します。 |
ペットの飼育 | 原則としてペットの飼育を禁止します(例外規定を設ける場合は、その内容を明記します)。 |
飲酒・喫煙 | 飲酒・喫煙に関するルールを定めます(喫煙場所の指定など)。 |
その他 | 施設内の設備や備品を破損する行為、無断での施設改造などを禁止します。 |
禁止事項を明確にすることで、入居者間のトラブルを未然に防ぎ、安心して共同生活を送れるように配慮しましょう。
その他(緊急時対応・苦情対応・個人情報保護など)
運営規定には以下のような項目も記載する必要があります。
緊急時対応 | 緊急時の連絡体制・避難経路・避難訓練の実施などを記載します。 |
苦情対応 | 苦情受付窓口・苦情処理の手順などを記載します。 |
個人情報保護 | 個人情報の取得・利用・管理に関する方針を記載します。 |
感染症対策 | 感染症発生時の対応・予防策などを記載します。 |
虐待防止 | 虐待防止に関する方針・通報体制などを記載します。 |
いずれの項目もただサービスの質を向上させるだけでなく、緊急時に利用者の健康や安全を守るうえで不可欠なものです。
上記の項目を記載することで、入居者や家族は安心してサービスを利用できます。
特に、緊急時対応や苦情対応については、具体的な内容を記載することが重要です。
サ高住の運営規定の記載例

本章ではサ高住の運営規定に記載する内容の例を、以下の項目に分けて具体的に紹介します。
- 1.基本方針
- 2.施設の概要
- 3.サービス内容
- 4.利用料金
- 5.入退居に関する事項
- 6.事故発生時の対応
- 7.苦情処理
- 8.個人情報保護
- 9.その他
上記はあくまで一例であり、各サ高住の規模やサービス内容、地域性に合わせて調整する必要がある点には注意しましょう。
1. 基本方針
「〇〇(施設名)」は、入居者の方々が尊厳を保持し、自立した生活を送れるよう、安全・安心な住環境と生活支援サービスを提供します。
入居者一人一人の個性とニーズを尊重し、心身の健康維持、地域社会との交流促進に努めます。
2. 施設の概要
項目 | 内容 |
施設名 | 〇〇(施設名) |
所在地 | 〇〇県〇〇市〇〇町〇〇番地 |
連絡先 | 電話:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇 FAX:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇 |
事業主体 | 〇〇株式会社 |
開設年月日 | 〇〇年〇〇月〇〇日 |
建物構造 | 鉄筋コンクリート造〇階建 |
居室数 | 〇〇室(〇〇㎡~〇〇㎡) |
共用設備 | 食堂・浴室・談話室・健康相談室・機能訓練室など |
3. サービス内容
サービス | 内容 |
生活相談サービス | 日常生活に関する相談・助言・情報提供 |
安否確認サービス | 定期的な訪問・電話連絡などによる安否確認 |
緊急時対応サービス | 緊急通報システムによる連絡・救急搬送の手配 |
食事サービス | 栄養バランスに配慮した食事の提供(朝食〇〇円・昼食〇〇円・夕食〇〇円) |
清掃サービス | 居室の定期的な清掃(週〇回) |
洗濯サービス | 洗濯代行サービス(有料) |
介護サービス | 訪問介護・通所介護などの介護サービスの提供(別途契約が必要) |
医療連携サービス | 協力医療機関との連携・健康相談・健康診断の実施 |
レクリエーション | 季節ごとのイベント・趣味活動・地域交流など |
4. 利用料金
費用項目 | 金額 | 備考 |
家賃 | 〇〇円/月 | 居室の広さ・階数によって異なる |
共益費 | 〇〇円/月 | 共用施設の維持管理費・水道光熱費など |
生活支援サービス費 | 〇〇円/月 | 生活相談・安否確認・緊急時対応などの費用 |
食費 | 朝食〇〇円、昼食〇〇円、夕食〇〇円 | 希望者のみ |
その他 | 〇〇 | 介護保険サービス利用料・医療費・おむつ代など |
※上記以外にも、個別のサービス利用に応じて別途料金が発生する場合があります。
5. 入退居に関する事項
- 入居条件:原則として60歳以上の方で、自立または軽度の要介護状態の方
- 入居手続き:所定の申込書に必要事項を記入し、提出。面談後、契約
- 退居手続き:退居希望日の〇カ月前までに書面にて通知
- 契約解除:利用料金の滞納、共同生活を著しく阻害する行為などがあった場合
6. 事故発生時の対応
- 事故発生時の連絡体制:入居者の状況に応じて、家族・協力医療機関・消防署などへ速やかに連絡
- 事故防止のための対策:定期的な巡回・安全点検・職員研修の実施
7. 苦情処理
- 苦情受付窓口:〇〇(担当者名)、電話〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
- 苦情処理体制:苦情内容を記録し、迅速かつ適切に対応。必要に応じて、第三者機関への相談
8. 個人情報保護
- 個人情報保護方針:個人情報保護法に基づき、個人情報の取得・利用・管理を適切に行う
- 個人情報の利用目的:入居者の生活支援・介護サービス提供・緊急時対応など
- 個人情報の第三者提供:法令に基づく場合、入居者の同意がある場合
9. その他
- 運営規定の変更:運営規定を変更する場合は、事前に入居者および家族に説明
- 緊急時における対応:災害・感染症発生時などの対応について
- 虐待防止に関する措置:虐待防止のための委員会設置、職員研修の実施
サ高住の運営規定を作成する際の注意点

サ高住の運営規定の作成にあたっては、以下の点に注意しましょう。
- 法令を遵守する
- 現場の声を取り入れる
- 利用者目線で作成する
- 変更する際は利用者やその家族に通知する
いずれも、サ高住を適切に運営するうえで無視できないポイントです。
それぞれ順番に解説します。
法令を遵守する
運営規定は、高齢者住まい法をはじめとする関係法令を遵守して作成する必要があります。
法令に違反する内容が含まれている場合、行政指導や改善命令の対象となる可能性があります。
具体的には、人員配置基準・サービス内容・料金設定などが法令に適合しているかを確認する必要があります。
また、最新の法令改正情報を常に把握し、必要に応じて運営規定を修正することが重要です。
なお、都道府県や市町村によって、運営規定に記載すべき事項が異なる場合があるので、必ず管轄の行政機関に確認するようにしましょう。
現場の声を取り入れる
運営規定は、現場で働くスタッフの意見を十分に反映させて作成することが重要です。
現場のスタッフは、入居者のニーズや課題をもっともよく理解しています。
そのため、スタッフからの意見を参考にすることで、より実効性の高い運営規定を作成できます。
定期的な会議やアンケートなどを実施し、現場の意見を収集する仕組みを構築しましょう。
現場の声を運営規定に反映させれば、スタッフが働きやすい環境の実現も期待できます。
なお、現場の声に応じて必要と判断されたら、積極的に運営規定を見直しましょう。
現場では作成時点で想定していなかったトラブルや、新たな課題が発生することも珍しくありません。
加えて、利用者の変動によって新しいニーズが生まれる場合もあります。
現場の声を定期的にチェックし、運営規定を最適化できれば、サ高住のより良い運営にもつながります。
利用者目線で作成する
運営規定を作成する際は、利用者目線を欠かさないようにしましょう。
運営規定は、入居者にとってわかりやすい内容で作成する必要があります。
専門用語や難しい表現は避け、平易な言葉で記述するように心がけましょう。
運営規定が適切に理解されなければ、入居者やその家族とトラブルになる可能性があります。
また、入居者やその家族が、運営規定の内容を容易に理解できるように、説明会を開催したり、書面を配布したりするなどの工夫も必要です。
さらに運営規定の内容に関する質問や疑問を受け付ける窓口を設置し、利用者の意見を吸い上げる体制を整えましょう。
変更する際は利用者やその家族に周知する
運営規定を変更する際には、変更内容を事前に利用者やその家族に周知することが不可欠です。
変更内容によっては、入居者の生活に大きな影響を与える可能性があるため、十分な説明と理解を得る必要があります。
変更理由・変更内容・施行時期などを明確に伝え、質問や意見を受け付ける機会を設けるようにしましょう。
また、変更内容を記載した書面を配布したり、施設内の掲示板に掲示したりするなどの方法で、周知徹底を図ることが大切です。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の運営規定は、施設の方針や提供サービスを明確にする重要な文書です。住宅型老人ホームと同様、サ高住はあくまでも住宅としての扱いであるため、介護サービスは外部サービスを利用することが前提となる点は、介護付き老人ホームとは異なりますが、サ高住はサービスも同じ会社で提供することが多いため、人員配置、サービス内容、料金設定、入居者の遵守事項、緊急時対応などを定め、入居者の安心や円滑な運営を支えます。法令遵守が前提であり、自治体の規定も確認が必要です。また、スタッフの意見を反映し、入居者が理解しやすい内容にすることが大切です。変更時は事前通知や説明会を行い、信頼関係を維持します。適切な運営規定は、施設の質を向上させ、安心できる住環境の提供につながります。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
より良いサービスを提供するうえでサ高住の運営規定は必須

サ高住の運営規定は、施設の運営を円滑に進めるための重要な指針です。
法令遵守はもちろんのこと、入居者が安心して快適な生活を送るためにも、質の高い運営規定が求められます。
運営規定は、一度作成したら終わりではありません。
時代の変化や入居者のニーズに合わせて、定期的に見直し、改善していくことが重要です。
常に最新の情報を取り入れ、現場の意見を反映させることで、より実用的な運営規定へと進化させられます。

監修:斉藤 圭一
主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)
神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。