【介護業界動向コラム】第4回 介護事業者の事業拡大の近年の潮流について④ 新規顧客に新たなサービスを提供する(2) 医療系サービス領域への展開
2022.11.28
介護事業者の新規事業展開の類型として3つの領域(障害、医療、隣接領域)に区分し、前回の連載では障害福祉サービス領域の進出事例を紹介しました。今回は医療領域での展開事例の潮流を紹介していきたいと思います。
訪問看護への事業展開が加速
2012年頃までは、訪問看護ステーション数は、全国で5500~6000件程度の水準で横ばいとなっていましたが、それ以降の10年で急速な勢いで増加傾向にあり、約180%ほどの増加率となっています。病院の在宅復帰志向が高まり、その他の介護保険サービスの基本報酬が厳しい評価となっていく中で、唯一右肩上がりの報酬となっていた事などから、進出が進んでいます。10年程前は、運営法人の40%程度が医療法人で20%程度が営利法人でしたが、現在では営利法人が50%近くを占め、市場の様相が変わってきています。
介護保険開始当初に比べ、要介護認定者が増加し、同時に在宅の中重度者の比率も上がっていることからこうした流れが加速しているものと推察されます。一方で廃業・休止率が他の介護事業に比べて高いのも訪問看護サービスの特徴です。直近ですと、令和3年に年間1806件増加した一方で、廃止が490+休止が242件=732件近くが休廃業しており、差引としては1074件増と見る事ができます。実に新規開業に対して40%程度が休廃業している状況は、他のサービスにはない特徴のようにも見えます。
様々な背景が想定されますが、大きな理由は夜間体制を維持するための人材確保に困難していることにあると推察されます。
ナーシングホーム型住宅への展開も加速
同時に進んでいるのが、医療機能強化型の高齢者住宅、通称ナーシングホーム型住宅への展開です。住居部分はサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームをベースとして、外付け介護サービスとして訪問介護、そして特に訪問看護を手厚く提供することが特徴です。
設置する母体となっているケースはいくつかのパターンがありますが、大別すると1)高齢者住宅事業者が機能転換を図るケース、2)訪問看護ステーションの運営法人が開設するケース、3)病院が開設するケース、4)同事業モデルを多店舗展開するケースなどに区分できそうです。
現状は、4)の多店舗展開のケースが多くみられるようですが、今後1)高齢者住宅を転換していくケースや、3)病院が開設するケース等が増加していくものと考えられます。
訪問マッサージや保険外リハビリへの展開も
健康保険を利用したサービスとしては、訪問マッサージ等を展開するケースもみられるようになってきました。訪問マッサージは「あん摩・マッサージ・指圧師」の国家資格を持った治療師がご自宅を訪問しマッサージ治療をするサービスですが、医師の同意を得たうえで健康保険(療養費)を使ったサービス提供も可能です。
訪問リハビリテーション(あるいはリハビリスタッフによる訪問看護)と、隣接した領域ではありますが、実施内容と必要資格、また適用保険、状態等も異なることからサービスの併用等もある領域となっています。介護保険サービスの利用者に対して新たな付加サービスとして実施されるようなケースもあるようです。
また、リハビリテーションの側面では、保険外リハビリの市場も俄かに広がりつつあります。入院・外来の医療保険を利用した疾患別リハビリテーションには、算定日数の上限があり、一方、介護保険ノリハビリテーションには年齢(保険上)の制限や頻度の限界があり、結果として「集中したリハビリにより早期の機能回復を行いたい」方のニーズを受け止めることが出来ない状況がありました。その点を補うのが保険外リハビリサービスとされ、通所型の短期集中 保険外リハビリを中心にケースが広がっています。今後こうしたプラスαのニーズに応えるサービスが拡大していく可能性も高いものと想定されます。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。