【名南経営の人事労務コラム】第3回 患者・利用者からのハラスメント
2022.08.10
ハラスメントというキーワードが一般的になっている現在、医療機関や福祉施設において、カスハラやペイハラといったキーワードを耳にすることが増えてきました。
カスハラとは、カスタマー(顧客)・ハラスメント、ペイハラとは、ペイシェント(患者)・ハラスメントをいい、ともに患者や利用者からの暴力や暴言といったハラスメントとして用いられています。
現場の第一線で活躍されている職員からすれば、患者や利用者も毎日辛くてストレスが溜まっているので、少しくらい気持ちが爆発することもあるだろうとちょっとした暴力や暴言に対して見て見ぬ振りをするケースはこれまでも多くの職場で見られていましたが、そうした行為がエスカレートして職員がメンタルヘルス不全に陥って出勤できなくなったり、異業種から転職してきた人材がこんな職場は嫌だと早々に離職をしてしまうというケースが増加傾向にあり、恐らく、このコラムの読者の職場においても程度の差こそあれ、何らかのこうしたハラスメント行為は経験したことがあるのではないでしょうか。中には、職員の発言等を自分のスマートフォン等でこっそりと隠れて録音し、一時的に感情的になった言葉だけを切り取って、ひどい暴言を吐かれたと言って執拗な謝罪を要求してくることもあり、スマートフォンが普及していない時代と比べて、冗談すら言えなくなったと嘆く職員もいるようです。
一般の小売業であれば、店舗への出入り禁止といったような措置を講じることがありますが、地域密着で人と人との触れ合いを大切にする医療機関や福祉施設においては、なかなか失礼な対応ができないという実態もあります。
しかしながら、土下座を求めたりといったような一定のレベルを超える要求等になれば、刑法第223条に定める強要罪に該当することもあり、どの程度まで許容すべきなのかは悩ましいところです。
確かに、患者や利用者の方も思い通りに身体が動かなかったり、好きなことができない環境は、大変辛いものであり、大きな同情を抱かざるを得ません。とはいえ、一定のレベルを超える要求や暴力、暴言等は、職員の就労意欲を減退させるものであり、組織としての対策が必要となります。
例えば、患者や利用者とのトラブルにおいて、職員自身が対応してはいけないことの例を列挙して周知するだけでも職員の安心感は高まるものでしょう。「土下座をしてはいけません」「個人的な連絡先を教えろと言われても教えてはいけません」等といったようなことが法人のガイドラインとしてまとめまっていれば、判断の迷いも最小限になるものと考えられます。
対応の手順についても同様です。話が平行線となり、大声が他の患者や利用者に聞かれることによって悪影響が生じる場合には、その場で話し込むことなく別室にすぐに誘導をしたり、警察を呼ぶタイミングを決めておいたり、といったようなことを事前に決めていれば、働く職員も安心して日常業務に従事することが期待できます。更には、患者の尊厳とは何かといったようなことも組織内で話合って認識を合わせておくとどういったことがハラスメント行為に該当するのかといった点が共有できるかもしれません。
以上のように、こうした一連の対策を講じることが、患者や利用者からのハラスメントをエスカレートさせず、かつ何か問題が生じても組織が自分を守ってくれるという安心感を与えることができ、まずは簡単なものでもよいので、ガイドラインや運用方針等を予め整備しておきたいところです。
服部 英治氏
社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー
株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士