【名南経営の人事労務コラム】第9回 経歴詐称による職員の解雇

2022.11.10

職員の採用にあたっては、通常、履歴書を提出してもらいます。中には職務経歴書も一緒に提出してもらうことがありますが、職務経歴書まで一緒に提出させる方法を採ると応募が激減することがありますので、最近の医療福祉業界では職務経歴書の提出はあまり一般的ではなくなってきました。

そして、採用面接においては、履歴書を手元に置きながら様々な話をして採否を決定することになりますが、多くの場合は職務経歴というよりは人柄で決定し、履歴書の記載内容の真偽までは確認することはまずありません。

ところが、何らかの拍子で職員の経歴の真偽が疑われ、確認すると事実が判明することがあります。例えば、A施設で10年正職員の介護職として働いていたと言っていたものの実は5年間のみでかつパートタイマーであったとか、高等学校を卒業したと履歴書には書いてあったものの実は中退をしていたとか、そもそも履歴書に記載してあるような経歴は存在しなかったとか、といったようなことです。学歴に関してはその学校の先輩後輩の関係でわかったり、職歴については実際の技術能力によってわかることが一般的です。

こうしたことは、いわゆる経歴詐称ということになり、それを知ってしまったことによりその職員への不信感が高まり、中には「経歴詐称」という表現が一般的にも知れ渡っていることもあり、辞めてもらいたいといった感情を抱くようなこともあります。

労働契約法第16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めてあり、経歴詐称は客観性も合理性もあるものだと考えてしまうものですが、現実的には経歴詐称による解雇は限界があります。

ある労働裁判例では、経歴詐称があったとしても長い年月の勤務において職場にも順応していたということによって解雇を認めなかった裁判(東光電気事件・東京地裁・昭和30年3月31日判決)があり、また別の労働裁判例では、中卒者であるにも関わらず高卒者と学歴を偽ったことは、高卒者の者しか会社は採用しないといった方針があるものの実際には高卒未満の者も採用されているとのことで重要な経歴詐称には該当しないと判示した裁判(近藤化学工業事件・大阪地裁・平成6年9月16日判決)もあります。

基本的に経歴詐称による解雇については、その事実によって不採用となるような理由であれば重大な経歴詐称ということで客観性かつ合理性は高まりますが、そうでもないような場合には、解雇が認められにくい傾向にあります。例えば、10年間の正職員との申し出があったにも関わらずパートタイマーとして5年間のみの勤務といったような場合や高等学校を卒業との履歴書の記載は実は中退であったといったようなケースは、その事実によって不採用とするようなケースはあまりないのではないかと思います。

一方で、国家資格を有していると履歴書に記載があり、国家資格を証明する資料を偽造して提出していたといったようなケースは、本来、その国家資格を有していなければ採用しない可能性が高いと考えられますので、そうした場合には解雇は認められやすくなるでしょう。

もっとも、今回の事例で挙げたような経歴詐称によって賃金決定が異なるような場合には、不正に賃金を得ていたということになりますので、その差額分は返還させるべきでしょう。これは不当利得の返還請求ということで民法第703条においても認められている行為です。

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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