【医療業界動向コラム】第3回 令和2年度患者調査の結果から読み解く「今」と「これから」

2022.07.19

3年に一度実施される患者調査の結果の概況が2022年6月30日に公表された。今回公表されたものは2020年度調査のもの。なお、患者調査は調査年の10月に実施されている。今回の調査結果についてはCOVID-19感染拡大の最中ということもあってか、入院・外来ともに減少傾向だった受療率が、これまで以上に大きく下がっているのが特徴的だといえる。また、現在は行動制限はそれほど強くなく(2022年7月12日時点)、比較的に自由に移動しているが、感染拡大期においては行動制限もあり、移動も少なかったためか、感染者数など地域差の影響もかなり出ているといえる。

調査の内容は多岐にわたっているが、本稿では、その中から経営的観点から重要と思われるポイントに絞ってご紹介したい。

図1 施設の種類別にみた推計患者数の年次推移
図1:入院及び外来患者数の推移

入院患者数はCOVID-19感染拡大に関係なく、これまでも減少傾向だった。外来患者数については横ばいから微減という状況に。外来についてはやや診療所の割合が高まっており、大病院・専門医療機関との役割分担/外来機能分化の進展ともいえるが、病院数の減少と診療所数の増加も関係していると思われる。

図5 年齢階級別にみた受療率(人口10万対)の年次推移
図2:65歳以上高齢者の受療率

入院・外来の受療率は大きく減少のトレンドにある。介護保険制度が始まった時期からそのトレンドが始まっているが、高齢者のコミュニティの場が外来の待合室からデイサービスへ、入院から入所へ、と移行しているともいえる。

なお、本年10月からは後期高齢者の医療費の自己負担割合が現状の1割から2割となる。2倍ということだ。また、昨今の景気・経済情勢を見ると、光熱水費や食材費などの価格高騰に伴い、経済状況の悪化も考えられ、受診抑制も起こることや医療費の未払いが起きる可能性もある点に注意をしておきたい。場合によっては、リフィル処方箋やオンライン診療を提案するなどして経済的負担の軽減を図り、患者の診療・服薬の中断を防ぎ、重症化予防に努めることを優先して考えることも選択肢の一つとしたい。

図8 年齢階級別にみた退院患者の平均在院日数の年次推移
図3:平均在院日数の短縮化傾向

病院における平均在院日数は短縮化の傾向が続いている。令和4年度診療報酬改定では、DPC対象病院ではより早期退院を促すなどの見直しも図られ、今後もより一層促進される。そのため、連携先となる地域包括ケア病棟・回復期リハビリテーション病棟・療養病棟においては医療依存度の高い患者への対応力の向上と、医療事故対策を強化していくことなど備えがより大事になる。

図11 入院までの場所・退院後の行き先別にみた推計退院患者数の構成割合
図4:入退院の前後の患者の所在

入院前医及び退院後は家庭が多い。ただし、この家庭には在宅医療や通院も含まれていることを理解しておきたい。地域によっては、診療所ではなく、病院が在宅医療を担うことも必要になっている。診療所と役割分担を行いつつ、レスパイト入院や透析・がん化学療法を行う患者の緊急入院対応先として、地域の医療機関や介護事業者に受入れ基準などを明確にし、かかりつけ医や介護事業者のバックアップ機能を担っていくことが期待される。

感染拡大期の調査結果ではあったが、大きなトレンドは変わっていないことは確認出来た。入院から通院・在宅治療の流れは着実に進み、病院がかかりつけ医をバックアップしていく体制を創っていくことを今後も意識した体制構築が望まれる。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

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