【介護業界動向コラム】第2回 VUCAの時代の介護経営(2) 介護事業者の事業拡大の近年の潮流について
2022.08.29
介護事業者だけに留まらず、近年、多くの企業において新規事業の構築に強い意欲を見せる企業体が多くなってきています。これには様々な理由がありますが、大きな理由のひとつが「経済成長の鈍化」と「成長する手段の手詰まり感」にあるとされます。
一般的に企業体が成長し続けるには、いくつかの手段があり、大別すると3つに分類することが出来ます。
- 既存事業の拡大によるシェアの拡大。
- M&A等の買収や合併などによる拡大。
- 新規事業の展開による拡大。
経済の成長、市場の成長が右肩上がりで、また先も見通し易い状況であれば①の方法論はコストやリスクが最小化されるため、有効な方法であると言えます。実際に介護業界についても、高齢化が加速化しつつあり介護事業者が少なかった2000年当初は量的拡大が求められ「見通し易い市場」であったと言えるでしょう。このため、一般的な事業拡大としては、①事業シェアの拡大=多店舗展開、多業態展開を中心に拡大する事業者が多く、またその手段による企業の成長が主流であったと言えます。
しかしながら、介護保険制度開始後20年間が経過し、徐々に環境変化が起きてきています。需要がピークアウトする一方での供給の飽和、介護報酬単価の逓減傾向など、売上を低迷させる要素、一方で人件費を含む運営コストの上昇、建築費等の高騰など、シンプルな既存事業の拡大では成果を出しにくい状況になってきています。
一方で、近年、介護業界で著しく盛り上がりを見せているのが上記の②M&A等による事業の拡大です。M&Aは一般的には、後継者不在の場合の事業継承、あるいは事業開発のスピードアップや自社機能を強化/自社にない機能(弱み)を補う事などを目的に実施されます。特にこの数年間、介護業界のM&Aの動向は非常にダイナミックな変化を迎えており、外国資本のファンドなども関わりながら大手事業者による業界再編といった様相を呈しています。また、中小規模の事業者の同業者のM&Aや、介護事業者による医療・福祉系事業のM&Aなども全く珍しい話ではなくなってきています。既存事業をシンプルに拡大していくモデルにかかる、開発コストやリスク(失敗の可能性)が高まる中で、こうしたM&Aによる事業拡大が増加している点も特筆すべき点といえるでしょう。
さてその中で、もう一つ近年検討されることが多くなってきているのが③新規事業の展開といえます。サービスの種別と顧客を掛け合わせ、以下のように整理することができます。
既存利用者 | 新規利用者 | |
新規サービス | (A)既存顧客に新たなサービス | (B)新規顧客に新規サービス |
---|---|---|
既存サービス | (C)既存顧客に既存サービス(維持) | (D)既存サービスを新規顧客 |
例えば介護業界における事例を整理すると、図01における(C)を現状維持とすると、
(A)訪問介護事業者が新たに訪問看護に展開
あるいは保険外サービスを展開
(B)高齢者介護中心の事業者が障害福祉に展開
(D)A市の通所介護をB市にも展開
といったように整理ができます。
それぞれに特徴がありますが、一般的に初動段階のリスクが低いのは(A)、中長期的に経営にインパクトを与える要素があるのは(B)といった側面もあります。既存の経営資源を活かし易いのは(D)と整理することが出来るでしょう。
介護報酬自体の抜本的引上げが期待しにくい環境下においては、少なからずこうした事業拡大を考えざるを得ない環境下に置かれています。皆様の事業所でも昨今の情勢を踏まえつつ、検討を始められてはいかがでしょうか。
次回以降は、事業拡大を検討する上での検討のポイントや、実際の事例等を取り上げていきます。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。