【医療業界動向コラム】第26回 令和5年度予算案から読み解く医療機関に求められる対応

2023.01.10

令和4年12月23日、令和5年度の予算案が閣議決定された。今後は、令和5年1月下旬からはじまる通常国会にて早期に成立となる見通しだ。その内容については、すでに多くのメディアでも報道されている通り、一般会計の総額は過去最大を更新する内容。防衛費の増額が注目を集めているが、医療関連を含む社会保障費も過去最大となっている点は見逃せない。なお、高齢化に伴う社会保障関係費の伸びは4,100億円とされているが、これは概算要求時点よりも1,500億円圧縮されている。薬価の引き下げで722億円を織り込んでのことだ(図1)。

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図1:社会保障関係予算のポイント

中間年となる薬価改定に注目が集まる。

ここからは医療分野に着目して、令和5年度の医療政策の動向、そして医療機関としての対応について考えてみたい(図2)。

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図2:令和5年度厚生労働省予算案の重点事項

医療介護DXの推進について(図3)

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図3:医療介護DX・サイバーセキュリティ対策関する内容について

全国医療情報プラットフォームの構築に向け、デジタル庁とも連携をしてマイナ保険証の推進と環境整備に努めると共に、電子処方箋の運用や電子カルテ情報の標準化について予算を割いている。電子カルテ情報の標準化とは、「医療DX令和ビジョン2030」や骨太方針2022でも大きくうたわれているが、「HL7 FHIR」をベースとした情報共有のこと。電子カルテを標準化するという意味ではなく、電子カルテに記録・蓄積された情報を外部と共有するための連携の標準化。医療情報化支援基金において、400床未満の医療機関に対するHL7 FHIR規格に準拠した文書の入出力に対応した電子カルテ導入や更新に補助ができる予定だ。また、小規模医療機関に向けた電子カルテの開発に向けた調査も実施する予定となっている。

そして、サイバーセキュリティ対策についても盛り込まれている。医療従事者の知識の向上や、被害にあったとしても早期に診療を再開できるための対策まで考えることが必要だ。

地域医療構想の推進について(図4)

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図4:地域医療構想等に関する内容について

現状の地域医療構想は2025年の必要病床数を基に取り組まれている。2025年以降も新たな目標を設定し、取組が進められていくこととなるが、今後のポイントとなるのは「かかりつけ医機能」だ。現状の地域医療構想は主に病床の役割が主になっていたが、ある程度の病床整理ができたという前提で、今後は在宅を含む外来機能の在り方、病棟と外来/在宅の一元化、すなわち地域医療連携推進法人などをはじめとする地域全体で住民をカバーする体制創りを目指すこととなる。自院の外来機能について、さらにほかの医療機関との外来機能分化について改めて確認をしておきたい。

健康寿命延伸、そして医療従事者の働き方改革について(図4)※再掲

また、健康寿命を3年延伸する、というキーワードの基、糖尿病性腎症の重要化予防やワクチン接種・相談体制なども重要なポイントだといえる。例えば、高齢患者の退院時に肺炎球菌ワクチンの接種歴などを確認し、接種を勧めるなどの体制創りなども検討しておきたい。なお、がんと並び循環器病対策に関する予算も計上されている。特に、循環器領域については2030年に心不全パンデミックが発生する可能性も指摘されていることから、医療従事者においても心不全療養指導士などの資格取得なども含めた専門知識等を習得するための学びの機会を医療機関からリスキリングの一環として、賃上げにつながる支援として提供することなども検討したい。

他にも、地域共生社会作りに向けて、いろんな職種・事業者との橋渡し役となるソーシャルワーカーの養成や難病患者・障害者の社会参画に向けた支援なども目を引く内容となっている。医療機関としては、そうした地域共生社会の一員としてばかりではなく、地域で誰もが安心して活動できるためのバックアップができる体制を構築することが必要だ。そのためにも、かかりつけ医機能などで求められているように、地域での協議の場作りと同時に情報共有・交換を安心して行える医療ICTのインフラ整備がより一層重要となる。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

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