【名南経営の人事労務コラム】第21回 就業規則の周知義務とトラブル

2023.05.11

 

 就業規則は職員の労働条件等の設定における拠り所になるもので、常時10人以上の職員を使用する事業場において作成することや過半数組合または職員の過半数代表者からの意見書を添付した上で管轄の労働基準家督署に届け出ることが求められています(労働基準法第89条等)。そのため、多くの事業所ではそのルールに従って対応し、職場内に就業規則等の諸規程が備えられているものと思います。

 しかしながら、就業規則等の諸規程は存在するものの職員にそれが周知されることなく、職員を解雇したりする際にそれを用いて、有効性を高めようとすることがあり、就業規則等の諸規程の内容を知っていた、知らないといったことによるトラブルが少なくないのも現状です。

 こうしたトラブルを防ぐために労働基準法第106条においては、就業規則等の諸規程を各作業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付等によって労働者に周知しなければならないと定めており、その方法は、以下の方法が挙げられています(労働基準法施行規則第52の2)。

(1)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。

(2)書面を労働者に交付すること。

(3)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

 もっとも、これらの3つの方法に限定されることなく、周知については実質的に判断されることになりますので、職場内のイントラネット上で閲覧ができたりするといったような方法も認められておりますが、その閲覧用の端末が誰も扱えないといったような状況ではないような状態も求められています。

 実際、周知を巡っての労働裁判例も複数存在しており、フジ興産事件(最高裁・平成15年10月10日判決)では新たに就業規則を制定したもののそれが周知されていない中で従業員を解雇、その解雇を巡って裁判所は「就業規則が法規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」と判示しています。

 こうした周知については、個々のすべての職員に対して説明等をすることまでは求められておらず、日音事件(東京地裁・平成18年1月25日判決)では「実質的な周知とは従業員の大半が就業規則の内容を知り、または知ることができる状態に置かれていること」と示していますので、少なくともどこに就業規則等の諸規程が備え付けてあるのかということを伝え、かつそれが容易にみることができる状態にしておくことが必要です。

 最近は労働トラブルも複雑化しており、職員自身も自分のスマートフォンを用いて労働基準法等について調べることが一般的になりつつありますので、今回のテーマである周知については、確実に行っておきたいものであり、就業規則等の諸規程改定時には、説明会を開催して質問を受け付けたり、入職時に閲覧してもらって不明点に応えたりするといった対応まで踏み込むと職員も安心して働いてくれることができ、労働トラブル自体も発生し難くなるものと考えられます。

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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