【介護業界動向コラム】第9回 VUCAの時代の介護経営 介護事業者の事業拡大の近年の潮流について⑨ 「社会福祉連携推進法人と地域医療連携推進法人(1)」
2023.04.24
これまで3回にわたって、介護業界におけるM&Aという観点から業界再編の流れを追ってきました。今回は、いわゆるM&Aとは異なりますが、統合の1類型である「連携推進法人」制度が法人運営にどのような影響があるのかを見ていきたいと思います。
2つの連携推進法人制度
2023年4月時点の制度下においては、2つの連携推進法人制度があり、2017年4月から運用されている「地域医療連携推進法人(以下:地域医療連携と略記)」、2023年度から「社会福祉連携推進法人(以下:社福連携と略記)」が運用されています。それぞれ地域医療連携は、2023年1月時点で全国に33法人。社福連携は2023年4月時点で全国に13法人が存在しています。(いずれも厚生労働省の公表資料より)
いわゆる「持ち株会社=ホールディングカンパニー」のような位置づけで、現在運用している法人自体は継続的に運用しながら、上位概念として連携推進法人を置き、同じ目的意識を持つ法人が連携したうえで規模を活かした運営ができるようになることが可能になるとされています。
背景としては、昨今の経営環境が変化する中で、需要の増加に対する働き手不足、複雑化する市場環境等なども手伝って運営に支障を来す小規模法人が増加傾向にあることが挙げられます。この点はM&A増加の背景とも共通するところですが、営利法人は比較的M&Aという選択を取りやすい一方で、非営利法人である医療法人や社会福祉法人は、統合・合併の手続きが複雑であり、円滑に統合が進みにくい背景があります。 その場合、「連携」という形で、緩やかな形で人材の交流や、サービス内容のすみ分け、あるいは共同購買などにより協働体制を築いていくという方法論はありますが、経営の根幹である、ヒト・モノ・資金・戦略といった部分を共有することは難しいという側面がありました。
そこで設計されたのが、「合併」と「連携」の中間である、「連携推進法人制度」という事が出来ます。
介護事業者として関係性が深いのはどの制度?
図1に地域医療連携と、社福連携の簡易な比較表を示していますが両制度は、似て非なる側面があります。特徴的なのは、参加可能法人の条件であり、「地域医療連携」が非営利法人を原則としているのに対して、「社福連携」については、原則としては社会福祉法人を中心としているものの、社会福祉事業を営む法人であれば法人種別は問わないとしている点です。シンプルに整理すると、社福連携の方が参加受け入れの間口が広くなっていると言えます。例えば、民間(営利法人)の介護事業者は、社福連携には参加できますが、地域医療連携には参加できない点。また医療法人は、社会福祉事業を運営していなければ社福連携の参加要件を満たしませんが、社会福祉法人は、特段条件を問わず地域医療連携や社福連携の双方に参加できる事なども特徴といえます。
このような特徴は、高齢者介護事業を運営する法人のうちの半数近くが営利法人であるという現状を反映したものであると言えるでしょう。
さて、ではこのような連携推進法人制度を活用することで、運営体制の強化に向けて一体どのような事が出来るのでしょうか。次回以降で、内容を確認していきたいと思います。
図1参加可能法人の対照表
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。