【名南経営の人事労務コラム】第23回 身元保証書の運用注意点
2023.06.08
職員の採用にあたっては、様々な書類等を提出してもらうことになりますが、誓約書であったり身元保証書の提出を求めている医療機関(福祉施設)も少なくありません。中には、誓約書と身元保証書を統合させた書式で運用しているケースもあり、それ自体は問題となるものではありません。
ところが、実務運用面を見渡すと、身元保証書の提出が他の書類に比して悪いということがあります。様々な家庭環境の職員がおり、身元保証人となる人が周りにいないということも背景にはあるでしょう。中には職員自身が筆跡を変えて署名をして提出するといったケースもあり、そもそも身元保証書を提出させること自体に意味があるのかといった声もあるのではないかと思います。
このような身元保証書を提出させる目的の多くは、何らかの賠償等を求めなければならない場合において、職員だけでは賠償責任は負えないことで身元保証人に対しても連帯して求めていくということがありますが、職員自身が筆跡を変えて身元保証人自身がそのこと自体を把握していなければ、書類として効力を有するものではありませんので注意をしなければなりません。
また、2020年4月には民法改正によっていわゆる連帯保証人に対して保証を求める場合には、その限度額を具体的に定めなければ無効となる、という改正が行われておりますので、具体的な賠償額を身元保証書内において定める必要があります。この場合、仮に1億円といったような記載があれば、身元保証人は署名をすること自体を躊躇するでしょうし、逆に10万円といった額では意味が薄いのではといったことになり、その必要性は再考する必要があります。
身元保証書については、身元保証法(身元保証に関する法律)において、その保証書の有効期限を決めた場合には最大5年間まで、有効期限の定めがない場合には最大3年間までしか効力を有しないことは実務レベルにおいてあまり知られていません(身元保証法第2条)。そのため、10年近く勤務している職員は採用時に提出された身元保証書の効力が途中で更新し、提出されていない限り効力がないものとして扱われることになります。
更には、賠償をしなければならないような事態に陥った際に、本当に職員だけに問題があるのかという点も考える必要があります。例えば、送迎用の車両を運転中に事故を起こして損傷させた場合に、運転に慣れない未成年の職員に対して無理に細い路地等を運転してもらわなかったかどうかとか、長時間労働が恒常的に続いており疲労を蓄積させているような状態でなかったかとか、職員に対しての事故防止を含めた安全教育をしっかりとやっていたかとか、様々な要因を元に判断をすると、損害額に対しての4分の1程度しか当事者に賠償させられないといった裁判例(茨城石炭商事事件・最高裁・昭和51年7月8日判決)もありますので、管理をする手間等を考えると運用自体を廃止する医療機関(福祉施設)も増えているのが現状です。
もっとも、このような書式を提出してもらうことによって、賠償を発生させることはできないといった心理的な抑止効果を狙うことはできます。しかし、今やインターネットで様々な情報が容易に入る環境ですので、賠償を求められたとしても限度があるということは職員自身もすぐにわかる可能性もあり、運用自体をどうするか再考する必要があるのではないかと思います。
服部 英治氏
社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー
株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士