【医療業界動向コラム】第46回 骨太方針2023への財務省からの提案「春の建議」
2023.06.06
骨太方針2023に対する財務省からの提案である「春の建議」が取りまとめられ、公表された。来年度のトリプル改定にむけたメッセージがふんだんに盛り込まれている。今回の取りまとめを受け、骨太方針2023はどうなるか、注目が集まる。医療分野、とりわけ入院医療に焦点を当てて、注目点を確認していこう。
〇病院経営の視点
新型コロナ感染拡大に伴う補助金や診療報酬上の特例もあって、多くの病院の財務状況が改善していることから、人件費や物価高へはこの積みあがった資産を活用していくべき、と記載がある。新たな補助や診療報酬上での支援には慎重な姿勢だ(図1)。
また、新型コロナに関連したことではないが公立病院の経営改善についても触れられている個所がある。地域医療構想の進展で、地域の基幹病院となる公立病院に患者も集約されつつあり、医業収入が大きくなっている傾向にある反面で、地域医療の医療費増加と医療費適正化の問題も表面化してきているとのこと。そこで、共同購買や委託の効率化、人件費の抑制までコストの適正化を促す内容もある(図2)。
こうした病院経営に関する話題としては、昨年来、経営状況の見える化となる「経営情報データベース」の取組が始まっているところ。ただし、一般公開されるにあたっては医療機関個別の情報ではなく、カテゴリ別に傾向を示すものとなる。また、職種別の給与などが必須項目となっていない。春の建議では、その点を厳しく指摘し、介護事業者の経営情報も同様に職種別給与などの公表を求めていく姿勢だ。
〇地域医療構想をさらに推進する視点
ゴールを間近に控えて、ようやく顕著な動きが見えてきている地域医療構想。しかしながら、都道府県知事等の意向がおよびにくい民間病院等の協力が得られにくい。そこで、さらなる強制力を持たせる意味で、法制の見直しを提言している。また、医療機能の集約化・連携強化に向けた具体策も提示しているのは注目される。まずは、地域医療連携推進法人の促進についてだ。医療機能の集約化や人材育成と確保、地域フォーミュラリの推進の効果をうたい、医療法改正での法人化していない医療機関の参画を促進していくことを記している。
また医療機能集約化の観点で、看護配置基準の考え方にまで切り込んでいる。地域での人材の偏り・人材不足の解消で地域医療を守るという考えだろう。そこで、看護師の数ありきの評価から、重症者の受け入れ実績に応じた評価への大胆な転換を提言している。全国一律での対応は難しい内容と思われるので、地域医療構想調整会議や医療費適正化の推進のための施策として、地域の実状に応じた話し合いで決めていくことなどは可能性として十分にありうるのではないかと思う(図3)。
集約化の観点では、特定集中治療室を有する医療機関への人材の集約化についても記載がある。医療機関が多いことで、人材も分散してしまい、低密度医療になっているとよく言われている。今回の新型コロナ感染拡大に伴う医療逼迫がまさにその実例だ。人が急に増えることはない。今あるリソースを有効活用するためには、集約化と連携強化は必須だ。
入院医療に着目して春の建議を解説した。入院医療以外では、新規開業に対する規制や市販薬類似品に対する患者自己負担の導入、リフィル処方箋のさらなる推進が取り上げられていたところ。これらを受けて、骨太方針2023はどうなるのか、引き続き注視していきたい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。