【医療業界動向コラム】第47回 電子カルテ情報共有サービス、環境整備ができた医療機関から令和6年度中にも開始へ
2023.06.13
※このコラムは2023年6月13日時点の情報をもとにしております。
令和5年6月2日、医療DX推進本部の会合が開催された。今回の会合では、今後の工程が明確にされた。もともと医療DXについては、令和4年5月に自民党政務調査会が公表した「医療DX令和ビジョン2030」が下敷きになっているが、「2030」という数値が示すように、ゴールが2030年に設定されている。わかりやすいゴールの姿として、電子カルテの導入率100%として、医療情報を共有できる環境を整備し終える、というもの。今回の会合では、医療DXが推進することで、ライフステージに合わせた患者のメリット、医療従事者・保険者・ベンダー別にどういったメリットがあるのかをタイムラインと共にわかりやすく示している(図1-1~図1-3)。
医療DXの推進に当たっては、3つの取組の柱があることを改めて確認しておきたい。「全国医療情報プラットフォームの構築」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」の3つがそれだ。この3つを進める上でキーとなるのがマイナ保険証だ。この医療DX推進本部の会合と同じ日に改正マイナンバー法案が成立し、令和6年秋に健康保険証の廃止・マイナンバーとの一体化が決まったところ(マイナンバーカードを持っていない人には資格確認証を発行)。それぞれ3つの柱のポイントを確認する。
〇全国医療情報プラットフォーム~電子処方箋、電子カルテの導入・更新に手厚い支援~
・電子処方箋について、2025年3月までに、オンライン資格確認を導入した概ねすべての医療機関・薬局に導入することを目指して必要な支援を行う。また、電子処方箋の普及とともに多剤投与・重複検査等の適正化を進める。具体的には、2023年度内にリフィル処方等の機能拡充を実施するほか、2024年度以降、院内処方への機能拡充や重複投薬等チェックの精度向上などに取り組む。
・電子カルテ情報共有サービス(仮称)について、2023年度中に仕様の確定と調達を行い、システム開発に着手するとともに、2024年度中に、電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関等から順次運用を開始する。医療機関・薬局における電子カルテ情報の共有を進めるため、すでに電子カルテが導入されている医療機関における、標準規格に対応した電子カルテへの改修や更新を推進する。
なお、標準規格対応電子カルテの導入・更新について力強いメッセージが盛り込まれている。電子処方箋についても必要な支援という力強いメッセージがある点に注目したい。医療情報化支援基金を用いた支援など期待されるところ。
〇電子カルテ情報の標準化 ~小規模病院・診療所向けの標準型電子カルテを開発し、2030年の電子カルテ情報共有100%を目指す~
・医療情報を薬局側に共有できるよう、薬局におけるレセプトコンピュータ・薬歴システムにおける標準規格(HL7 FHIR)への対応を検討する。その逆となる、薬局側からの医療機関へのフィードバックについても対応を検討する。
・標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)について、2023年度に必要な要件定義等に関する調査研究を行い、2024年度中に開発に着手し、一部の医療機関での試行的実施を目指す。運用開始の時期については、診療報酬改定DXにおける共通算定モジュールとの連携を視野に検討する。
標準型電子カルテは比較的規模の大きくない病院、診療所を対象に考えられている安価なクラウドベースのものとなる予定。診療報酬改定DXが始まる2026(令和8)年からの連携・運用が考えられていることが分かる。
〇診療報酬改定DX ~施行時期の後ろ倒しは令和8年度からとなる見通し~
・社会保険診療報酬支払基金を、従来の審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する。
・診療報酬点数表におけるルールの明確化・簡素化を図るとともに、診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通的な電子計算プログラムである共通算定モジュールの開発を進め、2025年度にモデル事業を実施した上で、2026年度において本格的に提供する。
・診療報酬改定の施行時期の後ろ倒しに関して、実施年度及び施行時期について、中央社会保険医療協議会の議論を踏まえて検討する。
注目された診療報酬改定の施行時期の後ろ倒しについて、共通算定モジュールの本格稼働が2026年度になることから、早くとも2026年度からの対応となることが分かる。ただ、何か月くらい遅れての施行となるかは、まだモジュールができていない今ではわからない。
医療DXのタイムラインを見て考えておきたいのは、医療機関での働き方の変化・役割の見直しの必要性だ。マイナ保険証でも起きているが、これからも、様々なトラブルを抱えながらも、医療DXは間違いなく進んでいく。重要なことは、医療DXの推進で創出される時間の使い方だ。創出された時間を、患者さんのために、その結果経営に貢献(診療報酬との連動)できるように、どういった行動をとっていくべきか、早い段階からイメージしておくことが必要だ。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。