【医療業界動向コラム】第48回 地域医療連携・かかりつけ医機能を有する医療機関でも対応を 令和6年4月より孤独・孤立対策支援法が施行へ
2023.06.20
※このコラムは2023年6月20日時点の情報をもとにしております。
令和5年5月31日、孤独・孤立対策推進法が成立した。新型コロナ感染拡大の影響で深刻度が増した孤独・孤立を国・地方公共団体をあげて対策をしていこうというもの。孤独・孤立を社会全体の課題と明記している。
この法律では、国と地方公共団体にその責務を、国民には理解と協力を、NPOなどの団体の活躍を後押しし、地域での話し合いを推進する「地域協議会」を設置すると共に、内閣府に首相を本部長とする対策推進本部を設置する(図1)。
医療・介護事業者に対する直接的なメッセージはないが、こうした法律ができることは次回の診療報酬・介護報酬・障害者サービス報酬の改定にも間接的に影響を与えることが容易に想像される。
〇かかりつけ医機能との関係性
かかりつけ医機能の観点で見れば、孤立・孤独を防ぐことが診療の中断を防ぎ、生活習慣病の重症化予防につながってくる。
診療報酬上では、地域包括診療料・地域包括診療加算といった項目が生活習慣病の重症化予防に努めるかかりつけ医機能の評価となっている。また、在宅時医学総合管理料といった在宅のかかりつけ医機能もある。こうしたかかりつけ医機能に対する要件の設定や努力義務などを設けることも考えられる。
〇入退院支援部門での関係性
地域包括ケア病床を有する病院が増え、入退院支援部門を設置する病院や訪問看護・訪問リハビリテーションなどの在宅医療への取組を強化する病院も増えてきている。訪問看護との連携で在宅患者の状況把握と今後設立される孤独・孤立対策の地域協議会での情報共有なども必要になってくるのではないだろうか。入退院支援加算でもすでにヤングケアラーに関する要件なども追加されていることから、入退院支援部門においても注目しておきたい。
〇地域のゲートキーパとなる薬局との関係性
また特に意識しておきたいのは、薬局だといえる。令和4年10月14日に閣議決定された「自殺総合対策大綱」において「調剤、医薬品販売等を通じて住民の健康状態等に関する情報に接する機会が多い薬剤師」は「地域の自殺対策やメンタルヘルスに関する知識の普及に資する情報提供等、関係団体に必要な支援を行うこと等を通じ、ゲートキーパー養成の取組を促進する」とはっきりと明記されている。薬局薬剤師については、孤独・孤立対策においても同様に期待されることになり、ますます薬局薬剤師は「対人業務」に磨きをかけるべく学びと対物業務の効率化・DXの推進が必須になってくることは明らかだ。
診療報酬等のために、というわけでは決してないが患者のため・地域のための取組は後付けで評価されることが多いものだ。医療・介護だけではない、地域生活支援に取組む様々なステークスホルダーとの関係構築を意識していきたい。ただこうして関係構築を拡大していくにあたって気を付けておきたいのが、セキュリティ事故だ。サイバーセキュリティ事故対策も重要ではあるが、孤独・孤立の課題を抱える住民の情報をしっかり管理することだ。本法律では、地方自治体は孤独・孤立に対する支援が必要な住民のの個人情報を協力いただく構成団体に提供することになるのだが、当然ながら秘密保持が義務付けられる(違反した場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金となる)。今後、医療機関においても、地方自治体や協力団体と連携する場面が出てくることを考えると、個人情報保護に対する学びや対策は改めて、今からでも取り組んでおきたい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。