【介護業界動向コラム】第11回 VUCAの時代の介護経営 「事業の大規模化をどのように考えるのか」

2023.06.26

近年の動向において、「介護事業所の大規模化」がキーワードの一つとして挙げられ議論の対象となっています。今回から数回は「大規模化」をどのように捉え、対処するのかを考えていきたいと思います。

「大規模化」と「規模の経済」

介護事業所の大規模化が議論される際の論点としては、主としていわゆる「規模の経済」の観点から語られる事が多いようです。「規模の経済」とは経済学の考え方ですが、事業の規模が大きくなると設備コストが下がったり、スタッフ配置が効率化されたりといった効果が期待される事を指します。例えば身近な企業でいえば、ユニクロやH&Mなどのいわゆるファストファッションや、マクドナルドやガスト等の多店舗展開する飲食系サービスなどがイメージしやすいでしょう。こうした事業者は、工場で同一商材を大量生産し、合理化・効率化・標準化された販売機能を持ち、最大公約数的な消費者のニーズに答える、比較的リーズナブルな商品を広範に販売し利益をあげる「規模の経済」を実現しています。極めて単純化すると大規模化は「コストを共有化し最小にすることで効率化される」ことが最大のメリットと言えます。

他方、「大規模化」はメリットばかりではありません。「大きな初期投資が必要」であることや、その製品自体が売れなくなった場合の「投資のロス」も甚大であること、また拠点数が多くなったり商品数(サービス数)が増えると「調整コストが発生し余計に経費がかかってしまう」側面もあると言われます。これを「規模の不経済」と言います。規模の不経済は「スタッフ個人の技量に依存するサービス」や「消費者のニーズが均質化しにくいサービス」等が特に影響を受けやすいとされます。

以上のように、事業の性質に応じて影響の受けやすさこそありますが、いずれの事業も「規模の経済」、「規模の不経済」は大なり小なり発生し得ますので、事業の特性に応じてどこに注力し、どこは注力しないのか、といった事を見極めていく事が求められてきます。

「介護サービス」における「規模の経済/不経済」

では「介護事業者」ないしは「介護サービス」にはどの程度「規模の経済/不経済」は働くのでしょうか?

様々な見方はあるかと思いますが、結論から言うと介護・医療・障害サービスといった事業は、本質的には「規模の経済が働きにくい/規模の経済の効果が限定的な」形態であると考えます。

例えば、デイサービスの大規模化を例にとってみましょう。介護サービスの場合、「規模の経済」が働く要素は主として「設備」と「人」と考えます。「設備」からすると例えば「利用者1人あたりの機能訓練のマシン購入費」や「事務所の1㎡あたりの賃借料」、「人」の要素からしますと人員基準の専門職配置「看護・機能訓練スタッフ1人あたりの対応利用者数」や「スタッフが急に休んだ/退職した」などの変動要素に対応しやすい、「1利用者獲得のための広告宣伝費が相対的に安く済む」といった事が挙げられます。これらのコスト削減はメリットと言えます。

しかし一方で、介護サービスの本質は「利用者個々の自立支援」です。これは、結果的には利用者にもスタッフ側にも個別対応を求めていくことになりますので、大規模化の構成要素である「均質化」とは相反する面があります。個別対応メニューを増やしたり、スタッフの個別対応時間を増やせば、その分、不経済が増大するという側面がある訳です。 

これは、個々の事業所の問題というよりも、人の技量に依存するサービス業は、製造業に比較して「効率化」と「品質維持」のバランス調整が課題になりやすいのです。

「大規模化」における「効率化」と「品質維持」。中小規模事業所は「大規模化」を目指すべきなのか?

さて、以上のように大規模化の特性を見てきましたが、こうした条件を加味した上で、「大規模化」をどのように捉えていけば良いのか?次回以降で、大規模化における「課題」を乗り越えるための組織形態の在り方、また中小規模事業者の「規模の戦略」などを見ていきたいと思います。

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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