【医療業界動向コラム】第49回 トリプル改定、物価高・賃金上昇に対応へ。骨太方針2023が閣議決定、今年の医療政策の方針が明らかに。
2023.06.27
※このコラムは2023年6月27日時点の情報をもとにしております。
令和5年6月16日、今年度の取組方針を明確にした骨太方針2023が閣議決定された。この骨太方針に記載された内容は、いわば政府による「約束」。これまでの骨太方針を振り返ってもわかる通り、記載されたことは着実に実行されることとなる。医療分野に焦点を当ててポイントを確認したい。
〇地域医療構想の更なる推進と医療費の格差是正
財務省による春の建議でも強調されていたが、地域医療構想を強力に推進するための法制の見直し、地域医療連携推進法人の有効活用が盛り込まれている。令和6年度からの第8次医療計画を意識してか、外来医療計画にある医師偏在対策の取組なども注目されるところ。また、「大学病院からの医師の派遣の継続」と具体的に記載がある。特定機能病院の今後の在り方やへき地医療に対する支援及び評価など注目しておきたい。重要な視点は、医療の地域差について論じている項でリフィル処方箋の推進がうたわれていることだ。医療費適正化計画でも都道府県ごとの目標値などの設定、後押しする診療報酬・調剤報酬での新たな評価の可能性を感じさせる。
〇医療DXのさらなる推進
医療DXについては、先日の医療DX推進本部での工程表などを基にまとめられている。標準型電子カルテの整備、という文言からわかるように、電子カルテ導入及び標準規格に準拠する電子カルテへの更新を支援する医療情報化支援基金が近く出てくることになるだろう。
また、近年話題になっているサイバーセキュリティ対策について、原案にはその文言は無かったが、最終版では盛り込まれた。診療報酬上の評価がないことから投資ではなくコストととらえられがちだが、今回の骨太方針に盛り込まれたことで何らかの支援策など期待したい。
〇後発医薬品の使用促進、新たな局面へ
医薬品安定供給の有識者会議の報告書案にあった、長期収載品と後発医薬品の差額を患者に自己負担してもらう取組、いわゆる参照価格制度と受け取れるものを検討することが盛り込まれている。参照価格制度については、後発品価格が高止まりし、長期的には薬剤費が不変もしくは増加する傾向になる懸念もあること、患者負担を導入することに国民の納得が得られるか、気になるところ。注視しておきたいポイントだ。また、バイオシミラーの推進が昨年に引き続き盛り込まれた。
〇人材紹介事業者への対策
医療介護分野の人材紹介における手数料が高くなっていることが、経営においても大きな課題になってきている。そうした状況に、何らかの介入を示唆している。今後の取組に注目が集まる。
〇トリプル改定について
物価高・賃金上昇・人材確保に対応する一方で、少子化対策のための財源確保を名目に社会保険の負担を抑えていくための取組を行う方針だが、現時点では少子化対策について具体的な施策が見えていないため、年末の予算編成を待つ必要がある。基本的にはプラス改定となる公算が高いと考えられるが、要件などの見直しに注意が必要だろう。なお、トリプル改定という6年に一度の大きな見直しともなるので、医療・介護・福祉の枠を乗り越えた連携などに焦点を当てた評価など注目される。
他にも、医療法改正で明確化された「かかりつけ医機能」の推進、慢性腎臓病や循環器病対策など健康寿命延伸に向けた取組も注目される。今後の診療報酬改定に向けた議論では、この骨太方針の内容を踏まえて進められていくことになる。改めて読み返し、今後の診療報酬改定に向けた議論の方向性を捉えておこう。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。