【医療業界動向コラム】第53回 在宅医療の現状からみる次回診療報酬改定の傾向は?
2023.08.01
※このコラムは2023年8月1日時点の情報をもとにしております。
令和5年7月12日、中医協総会が開かれ、次回改定に向けた在宅医療等に関する現状が報告され、議論された。現状からいえることとしては、医療医依存度の高い患者が在宅では増えていること。地域医療構想の進展もあり、入院医療の病床は減少し、患者の自宅のベットが病床となってきているといえ、2025年以降の新たな地域医療構想では、在宅・通院の適正化が重要なテーマになることを感じさせられる。
〇充実する在宅医療の提供体制
人口減少が進む地域においては、病床稼働率の維持・向上が難しくなってくる。そこで、200床以上の病院において、199床まで病床をダウンサイジングし、在宅医療部門を作り、訪問看護を実施していくといったケースが増えてきている。199床以下になることで、外来では「地域包括診療料」「機能強化加算」「生活習慣病管理料」「特定疾患療養管理料」といった主に慢性疾患患者の対応やかかりつけ医機能に該当する届出が可能となる。また、在宅療養支援病院にもなることができる。入院・外来・在宅を一元化した、入院にも対応できるかかりつけ医機能を有する病院になる、ということだ。精神科病院でも病床規模を縮小し、在宅療養支援病院になるといった傾向がみられており、精神科訪問看護が増えている一つの理由にもなっているように感じる。地域医療構想や診療報酬というのは、じわりと地域医療の在り方を時間をかけて、静かに変えてきている。
なお、当然ながら訪問診療等に関する実績は増えている(図1)。
医療依存度の高い患者が多くなっていることもあり、時間外対応も増え、医師等の負担が重くなっている。患者の高齢化にばかり目が行きがちだが、医療従事者にも高齢化の問題はあり、それは在宅医療の継続性にもつながる。そのためなのか、診療所における訪問診療は近年ほぼ横ばいとなっており、病院は増加の傾向にある(図2)。
そうした背景もあって、先日の改正医療法でのかかりつけ医機能の定義は、単独の医師や医療機関に負担の重いかかりつけ医機能を負わせるのではなく、地域をあげてかかりつけ医機能を発揮していこうという考え方になっている。
在宅のかかりつけ医の評価といえる在宅時医学総合管理料についてみると、オンライン診療の併用が可能となっているが、増加の傾向はあるもののその実績は非常に低い(図3)。
高齢患者が操作に不慣れであることや医療依存度の高い患者が多いことなども考えられるが、高齢患者としては、直接対面し、診てもらいたいものだろう。この結果は、オンライン診療やリフィル処方箋に対する患者の感想にも通じるものがある。便利で負担軽減に役立つオンライン診療やリフィル処方箋だが、利用する患者を選ぶものであることが分かる。次回改定では、D to P with Nといった患者と一緒に訪問看護師がオンラインで指示を受けてその場で対応することなどの評価も検討されており、期待されるところ。
なお、複数訪問では皮膚疾患の対応が多いことが報告されている。褥瘡なども考えられるが、白癬菌感染なども。お茶や座布団を出された時の指などから気づく介護支援専門員も多く、受診勧奨されることも多い。
〇訪問看護も医療依存度の高い患者への対応が増え、負担が重く
訪問看護ステーションを利用する患者の傾向をみると、精神および行動の障害の患者が多いことが分かっている。認知症なども含まれているということだろう。
また、医療費の訪問看護の伸びが顕著となっている(図4)。
難病の患者なども含めて、在宅での医療依存度の高い患者への対応力が高まっている。
地域にある地域包括ケア病床を有する医療機関との連携強化であったり、薬局薬剤師に服薬フォローを通じた予防的・急変予知的状況確認をしてもらうことなど、多職種連携をより強化していくことが必要だ。
次回改定に向けては、今後も需要が高まる在宅医療に関する評価大きく期待できる一方で、負担の軽減・分散、地域の薬局や栄養ケア・ステーションを貴重な医療資源としてどのように有効活用し、持続可能な地域医療提供体制を構築するかがポイントになる。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。