【医療業界動向コラム】第54回 感染対策に関する診療報酬改定の方向性は?
2023.08.08
※このコラムは2023年8月8日時点の情報をもとにしております。
令和5年7月26日、中医協総会が開催され、感染対策についての現状確認と今後の診療報酬改定に向けた議論の方向性が話し合われた。ポイントは、感染対策向上加算と抗菌薬使用適正化だ。
○高齢者施設、障害者施設も含めた地域での感染対策を推進へ
感染対策向上加算1を算定する病院を中心に、地域での感染対策の質向上を目指すのが目的となっている。しかしながら、よく見てみるとわかるが、要件を満たすには感染対策向上加算・外来感染対策向上加算・保健所・医師会といった限れたステークスホルダーだけでの連携でもよいように見えてしまう。本年4月に行われたトリプル改定に向けた意見交換会では、そうした連携に高齢者施設・障害者施設も加えることについて意見があった。今回の議論では、実際に感染対策向上加算1を届出る医療機関でも高齢者施設等に指導をしている医療機関があることが報告されている(図1)。
また、高齢者施設に限らず感染対策向上加算等を届出ていない医療機関にも助言等していることが分かっている。
そこでもう一つ今回公表されている資料で確認しておきたいのが、感染対策向上加算を届けていない医療機関での対策状況についてだ。
何らかの理由で届出はしていないもの、感染対策のマニュアルの整備は行われているケースがほとんどであり、抗菌薬の適正使用についても監視体制を敷いている施設が半数を超えていた(図2)。
しかしながら、助言等を受けるための連携体制については差があることが分かった。また、感染対策向上加算の届出がない病院でも感染対策の経験のある医師・看護師等がいることもわかっている。次回改定には、平時からの感染対策の備えとして、感染対策向上加算の届出のない医療機関に対する助言・レビューを受けることなどの取組など評価されることも考えられそうだ。
また、JANIS(厚生労働省 院内感染対策サーベイランス事業)の公表データを見るとわかるが、例えばMRSA罹患率を病床規模別にみてみると、200床以上病院に比べて200床未満病院での数値が高いことが分かる(図3)。
近年の診療報酬では地域医構想を推進するために、高度急性期・急性期に高いインセンティブが働くようになり、新型コロナ感染拡大への対応もあってその傾向はより一層強くなっている。その結果、感染対策にも差が出てしまったのではないだろうか。こうした状況を打開するためにも、感染対策向上加算1などの病院による助言は必要だろう。
令和6年度から新たにはじまる第8期医療計画では、新興感染症対策が新たな事業として明確化されるため、新興感染症対策・医療計画との整合性も求められる内容へと若干見直しが考えられる(図4)。
具体的には、都道府県との協定の締結などを要件などに加えることなどの検討だ。なお、協定締結医療機関を国としては3,000施設を想定している。感染対策向上加算1-3を足すと4,319施設になる。さらに協定締結医療機関の中から感染症初期からの対応と一定規模以上の病床確保をお願いする500施設を流行初期医療確保協定と考えている(感染対策向上加算1の病院は1,248施設)。
本年10月に新型コロナへの対応については改めて審議することとなっているので注目したい。
〇抗菌薬の適正使用を推進
第四期医療費適正化計画では「急性気道感染症・急性下痢症への抗菌薬処方」に関する新たな目標値を設定する方針となっている。以前もお伝えしたが、医療費適正化計画と診療報酬には密接な関係があることから、次回改定で抗菌薬の処方適正化をさらに推進する内容が盛り込まれることが考えられる。
国のAMRアクションプランを見ると、着実に適正化は進んでいるといえるが、海外との大きな差があるという。
とりわけ今回指摘されていたのが診療所における実態。抗菌薬の使用量が病院に比べて多いとのことだ(図5)。
そこで、令和4年10月よりオープンとなった診療所版J-SIPHEの利用を促すことが議論された。医療費適正化計画でも目標値が設定されることから、注目しておきたい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。