【名南経営の人事労務コラム】第29回 採用内定者の雇用管理注意点
2023.09.07
思うように人材確保が進まない一方で、無制限に人材を採用すれば現場が混乱する可能性があることから、多くの医療福祉業界における採用現場は慎重になっているのが実情です。面接時に是非うちの施設で働いてもらいたいと思って採用した人がその後思うようなパフォーマンスを発揮してくれなかったり、逆に、うちの施設では働くことが難しいかもしれないが採用して育てようと思っていた人材が高いパフォーマンスを発揮したりと、人材を見抜くこと自体は難しく、いつまで経っても人材採用については悩みが尽きません。
そういった状況でもあることから、社会人経験がない人材を採用して組織のDNAを刷り込ませて中長期に亘って働き続けてもらおうと新卒採用にチカラを入れる施設も少なくありませんが、早い段階から内定を出すもののその後に実出勤までの間でトラブルの火種を抱えながら運営をしているケースが全国各地で散見されますので、注意をしなければなりません。
まず、仕事に馴染んでもらおうと事前に研修を実施したり、業務体験をしてもらうということがあり、採用内定者であって実際の雇用開始日は先ということで無給扱いで対応しているケースがありますが、その研修や業務体験が半ば義務的であり断れないような状況であれば、その時間は労働時間として扱われることがあり、無給対応自体が違法となる可能性があります。そもそも労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれた時間をいい、厚生労働省の通達においても「研修に参加している時間が使用者の命令によって参加を強制されている場合は、その研修参加時間は労働時間である」と示されています。
業務体験についても同様であり、その参加に強制力がある場合には賃金支払いの対象となり、仮にその体験中に怪我等をすれば労働災害の対象となります。
また、4月1日から採用という前提で内定通知を出している一方で、3月下旬より研修が開始となるケースは少なくありませんが、雇用保険や社会保険の加入にあたって雇用契約書どおりの4月1日から加入をさせているケースも問題です。雇用保険や社会保険の対象者としての加入は、雇用契約書よりも実態が優先されますので、例えば3月21日から研修等が開始ということであれば、その日から雇用保険等を加入することになるため注意をしなければなりません。 一方で、こうした事前研修等を通じて「この人材は採用すべきではなかった」といった思いを抱き、内定取消しを検討することもありますが、内定を出して本人が承諾をすれば雇用契約は成立することになりますので、安易に解消することはできません。仮に新卒者の内定を取り消すのであれば、ハローワークへの届出が職業安定法上求められており(※1)、本人に対してその理由を十分に説明しなかったり事業縮小によるものとはいえない場合には、事業所名が厚生労働省のホームページ等で公表される可能性がありますので、こうした点も予め理解をしておく必要があります。
(出典/厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11805001/000990172.pdf
服部 英治氏
社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー
株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士