【介護業界動向コラム】第14回 VUCAの時代の介護経営 「事業の大規模化をどのように考えるのか④」

2023.09.25

大規模化による効果

 「介護事業所の大規模化」をテーマに戦略面での取り組みを整理しています。事業所あるいは法人の大規模化による効果として、最も期待されるものが「コストダウン」や「教育機能の共有化/高次化」といった側面かと思います。今回は、この2つのテーマのうち、「コストダウン」効果について追っていきたいと思います。

給食のセントラルキッチン化による効果

 コストダウン効果のうち、スケールメリットが大きいものの一つが「給食関連費用」です。材料の調達コスト、調理スタッフの人件費、厨房のメンテナンスコスト、水道光熱費など様々なコストが複合的に関係しています。

 2020年の新型コロナ流行や、それ以降の物価高の影響を受け給食調理のコストは値上がりを続けています。2022年の帝国データバンクによる調査(学校給食など「給食業界」動向調査(2022 年度)」などを参考にしますと、実に34%の給食事業者が赤字、また前年対比で減益した先を含めると、全体の6割超の業績が悪化したとの報告があります。

 給食事業者側から見ると、「値上げ交渉が難航」している事などが原因とされ、2割の給食事業者は価格転嫁等が全く出来ない状況であったとされています。一方、介護事業者側から見れば「価格の維持」や「値下げ」なども期待したいところではありますが、上記の状況を見るになかなか対応しきれない側面があるのが実情と言えるでしょう。

 さてその中で、一つの選択肢となってくるのが「給食のセンター化」です。給食のセンター化とは、いわゆるセントラルキッチンと同義であり、「複数の施設で提供する大量多品種の調理を1カ所で行う施設」を指し、これによりコスト削減、品質の維持、衛生管理の質向上、専門人員の効率的・効果的配置などがメリットとして挙げられます。

 他方、デメリットとして挙げられるのが、大量の食品を集中調理したものを運搬する必要があるため、食品ロスの発生、新鮮さ(出来立て感)が損なわれる可能性、また食中毒のリスク、そして初期コストが大きい事などが挙げられます。

ではどの程度の水準であれば採算性の水準を検討できるレベルなのでしょうか。

センター化が有効に機能する規模の水準

 様々な観点がありますが、ある調査では1日1000食以上が採算ラインとして示されています。(出所:医療関連サービス振興会「院外調理を考慮した患者等給食業務に関する実態・動向調査」2019)

上記は病院を対象とした事例ですので介護事業では、多少異なる面もあるかと思いますが、参考値として、どの程度の利用者規模が必要かを試算してみましょう。

例えば100床の特養+30名定員のデイなどを有している拠点でしたら、1日の最大食数は100床×3食+30名×1食なので330食。ただし、食形態を加工する割合(各施設での対応が必要な分を除く)や稼働率を踏まえ、セントラルキッチンで対処可能なのは実質的に7割程度の水準と想定します。すると1拠点230食/日前後となります。1000÷230食ということは、4.3拠点≒5拠点程の食事を賄える規模が必要という計算になってきます。これが有料老人ホーム等の場合でしたら、50床規模の拠点が多いことから、単純にはこの倍程度の事業拠点が必要と試算されます。病院等に比較しますと、比較的小規模の事業拠点が多く、立地が分散していることから非効率な面もあるでしょう。

規模の経済の効果が得られる水準を数字で把握する

上記では給食のセントラルキッチン化を事例に「規模の経済」の効果を得られる水準を追ってみました。実際の所は、精緻な事業分析とコスト計算、移送コスト(保温と配送)など複雑な要素を考慮しなければなりませんが、少なくとも給食のセントラルキッチン化によるコスト削減は、単一の法人で実現するには相応の規模が必要であることが想定されます。また、地域によっては単一法人ではなく、社会福祉連携推進法人のように複数法人が連結した形での展開として考えざるを得ないでしょう。

 コストダウンは事前に一定程度の試算が可能である側面もあるので、事前のシミュレーション等を行った上で、法人の現在地が単一法人で「大規模化」のメリットを得られる規模なのか、あるいは地域の他法人と連携しての対応が求められる規模なのかの判断をしていく必要があります。

 次回はコストダウンおよび教育機能の共有化について更にテーマを掘り下げていきたいと思います。

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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