【医療業界動向コラム】第61回 難病医療費助成、令和5年10月より支給開始時期が見直される
2023.09.26
※このコラムは2023年9月25日時点の情報をもとにしております。
昨年成立した「障害者と難病患者の生活と就労を支援するための法律改正(障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律)」の一部が令和5年10月より施行される。その一部とは、従来は難病助成の申請をした時点ではなく、重症化した時点(難病医療費助成の対象となる重症度分類を満たしていると診断した日)までさかのぼり助成されるようになるというものと、難病相談支援センターの連携先に福祉関係者や就労支援関係者が明記されること、難病対策地域協議会と小児慢性特定疾患対策地域協議会の連携努力義務が新設される、というものだ。
難病法では国が定める「指定難病」の患者で「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定程度以上の状態にある患者に対して難病医療費助成制度がある。この難病医療費助成を受けるには、都道府県に対して受給証の申請が必要になるが、申請してから約2-3か月かかる。有効期間は申請日からとなるが、ここで問題になっていたのが、申請日以前の診断を受けた日から申請日までの期間は助成の対象にならないということだ。今回の法律改正では、原則1か月を上限として、診断された日に遡っての助成を認めるというもの(図1)。
さらに、入院等の緊急治療の必要があったなどのケースでは最長で3か月前までさかのぼることを認めることとなるため、患者としては経済的負担が軽くなる。ただし、令和5年10月以前に遡ることはできない点に注意したい。
重症化時点までさかのぼることができるのは最長1か月とのことだが、やむを得ない理由がある場合は最長3か月までさかのぼることが可能とされている。そのやむを得ない理由については、実際の運用の中で適宜検討していくことになるが、当面の間該当する4項目が「第70回厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会・第1回社会保障審議会小児慢性特定疾病対策部会小児慢性特定疾病対策委員会(合同開催)」で明らかにされている(図2)。
遡ることができる期間が長くなるのは患者にとっては大変助かるし、医師側としても高額な薬価のついた医薬品を処方する際には少し気が楽になるだろう。しかしながら、申請がおりるまでは一時的に負担が発生するのに変わりはない。そこで、少しでも軽くできるように、マイナ保険証を利用しての受診をすることで、限度額適用認定証を事前に申請することなく、受診したその日から自己負担限度額までの支払いとなることが可能になることを改めて患者にも周知、医療従事者の皆さんの間でも改めて理解を深めていくようにしたい。ネガティブな話題が続くマイナ保険証だが、高額な医療費が必要な患者にとっては負担軽減が即日実行できるメリットもある。
また、難病助成は指定難病であり、重症度分類を満たしている患者が対象となるため、すべての難病患者が対象になるわけではない。しかしながら、重症度分類を満たしていなくとも高額な医療費が年間3回以上ある場合は「軽症高額該当」となり助成の対象となることもあれば、難病医療費助成は利用できなくとも、要件を満たしていれば身体障害者手帳の利用や障害者年金の利用、障害者総合支援法の利用や要介護認定を受けている65歳以上高齢者や40歳以上で特定疾病に該当する場合は介護保険サービスの利用ができ、経済的負担や日常生活の支援を受けることが可能となる(図3)。
制度の見直しに合わせて、改めて理解を深めるきっかけとして、患者の負担軽減と一日でも長く診療が継続できるように努めていきたい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。