【医療業界動向コラム】第71回 医療DXに対する診療報酬上の評価をどうするか?
2023.12.12
※このコラムは2023年12月12日時点の情報をもとにしております。
令和5年12月01日の第569回中医協総会の資料が公表されている。テーマは、医療DX・小児、周産期医療・リハビリ、栄養、口腔・長期収載品となっている。ここでは医療DXについて確認していこう。
医療DXについては、昨年から総理が自ら旗振り役となって強力に推進しているところ。そうした中、11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の中で、「医療・介護分野におけるデジタル技術を活用した効率化」が盛り込まれ、書類作成や情報提供などをデジタル化することで医療従事者の負担軽減を推進するために、令和6年度診療報酬改定にて措置を講じることが明記された(図1)。
電子カルテに入っている3文書6情報をオンラインでやり取りできるように標準規格となるHL7FHIRを採用して医療機関間の情報格差をなくすための取組を推進していくことを診療報酬でも後押ししていくことを指しているといえる。なお、3文書6情報とは以下のことを言う。
3文書
・診療情報提供書
・退院時サマリー
・健診結果報告書
※健診結果報告書については、原則、XMLで記述するものとなっており、すでに自治体間やマイナポータルとの情報連携が開始されている。そのため、HL7FHIRへの対応は他の2文書を優先することとなっている。
6情報
・傷病名
・アレルギー
・感染症
・薬剤禁忌
・検査(救急・生活習慣病)
・処方
医療DXの推進及び負担軽減・働き方改革の観点から、診療情報提供料や検査・画像情報提供加算等の他の医療機関と情報連携が発生するものについて標準規格に準拠したものを利用することを評価することや専門性の高い医師事務作業補助者などによる文書作成補助を新たに評価することなどが考えられるだろう(図2)。
単に情報共有目的だけではなく、医師の負担軽減の視点も必要だ。
また、情報共有については「オンライン資格確認」の活用についても重要なテーマだ。今回、厚生労働省からは「取得された薬剤情報等を活用した質の高い医療の提供をさらに推進する観点」をどのように反映させるか、といったテーマも投げかけられている。電子処方箋にも通じることだが、オンライン資格確認を通じて、重複投薬等のポリファーマシー対策に有用であったことがよく知られている。しかしながら、根本的な問題として、マイナ保険証の利用が少ない、ということがあげられる。まずは医療機関・薬局からの患者に対する周知とマイナ保険証の利用割合を高めることが重要だろう。財政審による秋の建議ではマイナ保険証の利用率に着目した評価を提案しているが、この提案は活かされてくるのではないだろうか(図3)。
医療機関・薬局としても、今からでも患者に周知を進めておこう。
医療DXを含む医療情報システムを巡っては、サイバーセキュリティ対策が喫緊の課題といえる。安全管理ガイドラインの改定や200床未満の中小病院・診療所についてはIT導入補助金を利用したサイバーセキュリティ対策お助け隊の活用など対応はなされてきているものの、残念ながら医療情報システムへの取組は「投資」ではなく「コスト」として見られることが多く、職員教育で解決できるならコスト安で済む、など安易に考えられ、対応されてきているケースが多いと実感している。診療報酬できちんとサイバーセキュリティ対策に対する取組を評価することとして、「コスト」ではなくリターン(診療報酬でかえってくる)のある「投資」としていくことが必要だ。今回厚生労働省からは、医療情報システムのバックアップ(システムを停止した状態でバックアップを行うオフラインバックアップ)、医療情報システム安全管理責任者の配置、BCPの策定に関する実態調査の結果とともに、評価をする場合の考え方について意見を求めている(図4)。
なお、バックアップと医療情報システム安全管理責任者の配置については、診療録管理体制加算の中で400床以上病院に対しては施設基準に盛り込まれている(バックアップについてはオフラインバックアップとはなっていない)。そこで、400床未満の病院まで対応を求めることなどが考えられる。また、オンライン資格確認が原則義務化となっていることを考えると、診療録管理体制加算の届出のない医療機関に対する支援となる評価も考えておく必要があると考えられ、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の施設基準等での対応も考えられるかもしれない。令和5年度は医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業が開始される予定であることも念頭におき、事業終了後も常時サイバーセキュリティ対策に取組めるような評価の在り方など議論されることが期待される。
働き方改革と医療DXの推進は一体的に進めていくことでより高い効果が期待される。しかしながら医療DXについては、「コスト」として見られることが多く、ハードルが高い。診療報酬での評価に少しでも関連することでリターンのある「投資」となれば、と強く期待する。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。