【医療業界動向コラム】第74回 改革工程表2023から読み解く令和6年度の医療政策の動向と目指すべき目標値

2024.01.09

※このコラムは2024年1月9日時点の情報をもとにしております。

令和5年12月21日に開催された「令和5年 第17回経済財政諮問会議」にて、新経済・財政再生計画 改革工程表2023が決定・公表された。骨太方針2023に基づいた施策を着実に実施していくためのもの。全部で148項目あるが、医療分野は全74項目ある社会保障の枠の中で組まれている(図1)。

図1_改革工程表2023の社会保障枠について

かなり多岐にわたるものなので、あくまでも筆者の個人的な視点になるが、医療機関・薬局経営及び医療従事者の皆様の業務に係るであろうことと健康寿命延伸・医療費適正化といった患者の受療行動に関連すると思われるものを選び、さらに診療報酬改定にも影響を与えるであろうことに目を向けて整理した。令和6年度はトリプル改定や第8次医療計画、第4期医療費適正化計画、勤務医の働き方改革が始まる年であることは知られているが、始まりがあるということはゴールがあるということでもある。ゴールをしっかり見据えながら、取組の方向性・自院の現在地を絶えず確認することに役立ててもらえればと思う。

〇医療・介護分野におけるDXの推進、最新技術の活用による生産性の向上

全国医療情報プラットフォームの構築に向け、電子カルテ情報共有サービスの稼働、マイナ保険証の利活用に関するものだ。「社会保険診療報酬支払基金の抜本的改組」の動向にも注目をしていきたい。令和6年度診療報酬改定では、地域医療情報連携NMに関連する評価も検討されていることから、自院だけで何とかしようという発想から、地域の医療資源を有効活用した問題解決を考えられるようにしたい(図2-3)。

図2_医療・介護分野におけるDXの推進、最新技術の活用による生産性の向上①
図3_医療・介護分野におけるDXの推進、最新技術の活用による生産性の向上②

予防・健康づくりの推進

新規透析導入患者を2028年までに350,000人以下にするなどの健康寿命延伸に向けた糖尿病重症化予防や糖尿病の治療継続者の割合に関する目標の他、認知症や依存症対策、アレルギー対策の他、がん患者の治療と仕事の両立に向けた取組など注目したい。診療報酬改定でも何らかの対応が考えられるところ。具体的には、慢性腎臓病対策に関する糖尿病透析予防指導管理料の対象拡大と早期介入の評価、人工腎臓の導入期加算3の見直し、療養・就労両立支援指導料の対象拡大・要件緩和の可能性などが該当するだろう。なお、その一方で人工腎臓に対する評価については、薬価が下がっている傾向やバイオシミラーへの置換が進んでいることから評価が引き下げとなる可能性も確認しておきたい(図4-5)。

図4_予防・健康づくりの推進①
図5_予防・健康づくりの推進②

〇医療・福祉サービス改革

精神科の外来・在宅移行と再入院予防に関するKPIなどは令和6年度診療報酬改定においても重要なテーマの一つ。また、地域医療構想についても当面のゴールである2025年に向けて、「各医療機関の対応方針の策定率【2025年度に100%】」といった決意とも受け取れるKPIが設定されている。医療費適正化の観点から、フォーミュラリの作成などによる後発医薬品の使用促進や、保険者努力支援制度を利用したリフィル処方箋の活用促進も盛り込まれている。春の建議・秋の建議にあったメッセージはしっかりと工程表に盛り込まれている。診療報酬改定での何らかの対応が入ることになるだろう。また、保険者努力支援制度を利用ということは、患者にダイレクトにアプローチをするということ。医療機関側からのリフィル処方箋の提案よりも、保険者からの通知等でリフィル処方箋のことを知った患者から要望が出てくることが増えてくる、そうした事象が起きる前提に立って、備えとなる対応方針を考えておきたい。そして、地域連携薬局の目標件数に混ざって「調剤後薬剤管理指導加算の算定件数」のKPIが設定されていることにも注目をしたい。受診頻度が下がることと慢性腎臓病等の重症化対策の一環とした薬局による服薬フォローを徹底する体制作りが考えられている(図6-9)。

図6_医療・福祉サービス改革①
図7_医療・福祉サービス改革②
図8_医療・福祉サービス改革③
図9_医療・福祉サービス改革④

改革工程表2023の推進と診療報酬改定は連動している。中長期的には改革工程表を確認し、その方向性と経営の歩調を合わせていくことが必要だ。折に触れ、適宜工程表は確認し、その時その時の現在地を確認しておきたい。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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