【医療業界動向コラム】第79回 「下り搬送」と「地域包括医療病棟入院料」、転送先としての「地域包括ケア病棟」
2024.02.13
※このコラムは2024年2月13日時点の情報をもとにしております。
賃上げ、働き方改革が今回診療報酬改定のポイントの一つであることは間違いなく、誰しもが知っているところ。他にポイントと言えるのは何かと考えると、「高齢患者の救急・急性期入院」「受診頻度の適正化」「医療DXの推進」の3点だと考える。先日公表された短冊をもとに、その3点に焦点を当てて確認をしてみる。今回は「高齢患者の救急・急性期入院」について確認してみよう。
下り搬送について
下り搬送については、早くから話題になっていた。下り搬送とは、救急外来を受診した患者や病棟で入院後3日以内の患者を対象に、連携する他の医療機関でも対応可能と判断する患者を転院搬送するもの(図1)。人口全体に占める高齢者割合が高まり、結果として高度急性期病院の入院患者の割合も高齢者の割合が高くなっている。また、高齢患者の場合は複数の疾患を有していることが多く入院期間が長くなりがちで、入院することが要介護状態を悪化させるリスクもある。何よりも、救命救急や高度専門医療のリソースの問題もある。
今回の診療報酬改定では、そうした問題に対応するための下り搬送をする側と受け入れる側双方の新たな評価が設定された(図2)。ポイントは「平時の連携」だ。定期的に協議をしておくことなどが必要である。なお、下り搬送に関するこれまでの議論では同一法人グループ内での下り搬送の評価は対象外にすることも検討されていたが、短冊ではその検討内容は削除されている。この平時連携について、ICTを活用した連携も評価可能なのか、3月の告示など注目したい。
地域包括医療病棟について
搬送先の一つとして期待されるのが新設される「地域包括医療病棟」だ。10:1看護配置の病棟で、セラピストや管理栄養士など手厚い配置が求められると共に、救急搬送の実績や自院の一般病棟からの院内転棟割合など施設基準・要件設定される(図3)。
点数を見ないと何とも言えないが、へき地を含む地方都市の医療提供体制を考えると、対応は慎重にならざるを得ない。地方都市では人口減少が進んでいるが、それは高齢者の人口も減少していることを意味する。稼働率が求められる介護老人保健施設が廃業するという事象を最近目にした。患者の奪い合いのようになって、最悪共倒れになってしまうことはないだろうか? 地域医療構想調整会議の場などを利用してしっかり協議をし、理解と協力を得ることが大事なように思う。
なお、地域包括医療病棟で注目したいことが2つある。新設される「リハビリテーション・栄養・口腔連携加算」の算定が可能だが、栄養サポートチームの加算は不可となる(急性期一般入院料等では栄養サポートチームの加算は不可との記載が見当たらなかった)。それから、看護補助体制充実加算の算定が可能となっており、主として直接患者に療養生活上の世話を提供する看護補助者の一定数配置が必要とされるのだが、対象となる看護補助者は、看護補助者として3年以上の勤務経験を有し適切な研修を修了した看護補助者となり、さらに地域包括医療病棟と療養病棟では、当該看護補助者は、介護福祉士の資格を有する者もその対象となる点だ。他にも、入院から一定期間の初期加算もある。医療依存度の高い状態を見越しての評価だろう。
転送先としての地域包括ケア病棟について
一方、当初は下り搬送での搬送先として、サブアキュート機能を強化することが検討されていた地域包括ケア病棟についてだが、在宅患者支援病床初期加算を拡充することとなった。搬送先としての期待が寄せられていることが分かる。また、新設された「協力対象施設入所者入院加算」は介護保険施設からの事前に診療をしたうえでの直接入院の対応を評価するもので、地域包括ケア病棟の対応力を支援する効果が期待される。なお、短期滞在手術等基本料の患者の扱い、逓減制の導入など他にも注目点がある内容だ(図4)。
個人的には、入退院支援加算の見直しの効果で障害者支援施設との連携強化に期待をしたい。医療技術の進歩、障害者の親の高齢化にも伴い、施設を利用する障害者は増えていると私は感じている。医療側での支援を改めて確認していきたい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。