【介護業界動向コラム】第19回 VUCAの時代の介護経営「改定のその先・・を見据えた事業戦略の立て方」
2024.02.26
「改定のその先を見据えた事業戦略の立て方」
2024年に向けて新たな介護報酬体系の運用が始まります。特に、訪問介護や定期巡回サービスに関するマイナス改定の影響については、関連する事業者の皆様には大きな動揺が生じているかと思います。第18回の連載では、このような短期的な介護報酬改定への対応だけでなく、3年後、6年後、あるいは10年後のビジョンを持って市場を先読みし、対応していくことの重要性をお伝えさせて頂きました。今回はその中で「生産性向上」のテーマを今後どのように捉えていくべきかを考えて行きたいと思います。
事業所単位での生産性向上の基本的な捉え方
2024年の介護報酬改定、そして診療報酬改定においても焦点となったテーマは、「DX化」「働き方改革」「生産性向上」などといった項目でした。
いずれも背景としては医療・介護の領域に限らず「国外の先進国に比べて労働生産性が低く、OECD加盟国中、中位に位置している」状況の改善に向けた取組があり、長時間労働、非効率な業務プロセス、ICT投資の遅れ、女性や高齢者の労働市場参加の低さなどをどのように解消していくかが、話題になっています。
このような流れの中で、2024年の同時改定においてはICTツールなどの導入による人員配置基準の規制緩和策や、兼務・共同利用の体制に関する基準の緩和などを通じた柔軟な働き方が可能となる仕組みの提示が見込まれています。
シンプルに考えると、介護現場における生産性向上のための要素は、
・可能な限り少ない人員配置
・一定のサービスの品質と安全基準の満足
・定められた時間で行う定められた業務
・職員一人一人の給与額の向上
と定義できます。「全てを同時に実現することは現実的ではない」「質や安全と効率は両立できない」という意見があるのももちろんです。
一方で、例えば2024年から20年前には現在の大衆レストランチェーンに見られるような、セルフオーダーの仕組みやロボット配膳の仕組みは一般的ではありませんでしたし、人が介在しない事に対する不安についても類似した意見があったでしょう。
また、インターネット小売の流通量も今ほどではありませんでしたが、現在の変化は明らかです。いずれもテクノロジーの活用により従業員1人あたりの対応量が大幅に変化し、新たな顧客体験を創出してきました。
介護現場における生産性向上の取り組みも同様に、これまでの単純な延長線上に置くのではなく、新たな業務を作り直す観点で取り組むことが肝要になってくるでしょう。その上では、段階的ではありますが利用者に直接影響の少ない間接業務の作り直し、利用者のケアに直接関連する直接業務の作り直しといった形に進めていく方向性が検討されます。
■自法人に必要なのは「事業単位の生産性向上」なのか、「地域単位の生産性向上」なのか
一方、こうした個々の事業単位での生産性向上は効果があるものの、事業体のスケールが小さいほど改善効果にも限界が生じますし、投資対効果も限定的です。
この意味においては、自法人が「事業自体の効率化」を中心とした対応である程度課題が解決できる状況にあるのか、あるいは「地域のプレイヤー再編による効率化」が必要なのか、またはその両方なのか。生産性向上の意味合いを考慮しておく必要があります。
地域プレイヤー再編とは、組織間(法人間)で管理機能を連携/共通化させる試みや、M&Aや連携推進法人などによる組織自体の統合なども考慮していく段階が訪れるものと想定されます。こうした大きな流れが、制度動向とマーケットの変化によって促されるのが、これからの数年間で起きていく変化であると推定されます。
再度法人がどのような状況にあるのかを見極め、「生産性向上」を字義通り現場改善と見るのか、もしくはもう少しマクロな観点で「地域の生産性向上」といった形で見るべきなのかを押さえていくことが求められてくるのではないでしょうか。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。