【医療業界動向コラム】第85回 生活習慣病に関する評価の見直しの論点~長期処方・リフィル処方箋、医療DXへの早期対応を~

2024.03.26

※このコラムは2024年3月21日時点の情報をもとにしております。

2028年度までに、年間新規透析導入患者を35,000人以下にする。これは、昨年12月に公表された「改革工程表2023」に記載された目標だ。令和6年度診療報酬改定で一際注目を集めたのが、特定疾患療養管理料から生活習慣病である高血圧症・糖尿病・脂質異常症を除外されたことだろう(図1)。

図1_生活習慣病に関する評価の見直し

多くの医療機関では、新設される生活習慣病管理料Ⅱでの管理を選択することになると考えられる。なぜこうした見直しが行われたのか?それは、年間新規透析導入患者を少しでも抑制するために、生活習慣病患者の重症化対策を徹底するためともいえる。生活習慣病管理料による疾病管理では、療養計画書を作成し、患者に署名をもらい、概ね4か月に一度患者に交付することが求められる。すなわち、患者の闘病意欲を掻き立てることが必要だ、といえる。

また今回の見直しでは、患者の求めに応じて、長期処方・リフィル処方箋に応じることが求められることになる。患者からの要望が今後出てくることを想定しておくことが必要だ。そこで、事前に長期処方・リフィル処方箋への対応方針を明確にしておくことが望ましいと考える(図2)。いくら患者からの強い要望があったとしても、医師の判断で対応不可のケースもある。そうした医療機関側の姿勢をあらかじめ知らせておくことが有効に働くこともあるだろう。

図2_長期処方・リフィル処方箋への対応方針の例

しかしながら、長期処方・リフィル処方箋の積極的な運用は受診回数の減少につながる。また、患者との対面及び検査の機会が減ることでもあり、重症化の懸念がある。そこで、以下の2つの対応がポイントになる。

・長期処方等の病状が安定している患者に充当していた診療時間を、別の診療時間に充当させる視点

 今回の診療報酬改定では、慢性腎臓病対策に関する評価が拡充されている。生活習慣病管理料Ⅰ・Ⅱとの併算定も可能となっている。そこで、慢性腎臓病対策に関する診療への取組や、かかりつけ医機能である地域包括診療料/地域包括診療加算の算定を目指した取組の時間に充当していくことなど考えられる。令和7年度からは新たにかかりつけ医機能報告制度が始まることを見据え、地域住民に選ばれるための備えの時間ともなる。

・薬局との連携の強化

 薬局薬剤師は「必要に応じた服薬フォロー」が義務となっている。そして、服薬フォローの結果を処方元に連携することは努力義務となっており、リフィル処方箋を発行された患者の場合は、その努力義務を果たすことで服薬情報等提供料2が算定できる。医療機関としては、診療報酬上の評価はないものの、受診間隔が大きくなる患者の状態を確認できることとなり、次回対面診療までに薬局薬剤師から情報をもらうことで、診療前の備えができる。また、時には薬局薬剤師を通じて受診勧奨を促すこともできる。薬局との連携で、重要化予防、そして医療機関としては病状が安定する患者の診療の時間や負担を軽減し、他の患者の対応や異なる業務に充てることができる(図3)。

図3_長期処方・リフィル処方箋で時間を創出する

生活習慣病の重症化予防に重きを置く今回の診療報酬改定は、生活習慣病患者の闘病意欲を引き出すと共に、重症化リスクの高い患者のための診療時間を創出するための整理ともいえる。また、マイナ保険証の一定の利用実績と共に、電子カルテ情報共有サービス・電子処方箋等の導入を評価する医療DX推進体制整備加算(図4)も合わせて取組んでいくことが必須ともいえる。

図4_医療DX推進体制整備加算(※画像をクリックすると拡大で表示されます)

診療報酬上のメリットであると同時に、自然災害の多い日本では、場所に縛られず、どこでも診療が継続できる環境(全国医療情報プラットフォーム)が必要だ。生活習慣病の重症化予防は、途切れることなく継続され続けていくことが必要である。生活習慣病管理料では、電子カルテ情報共有サービスを利用することで、医師の負担軽減にもつながり、患者との情報共有も促進される。医療DXへの対応は、生活習慣病の重症化予防を強化することでもある。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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