【医療業界動向コラム】第87回 障害者に対する”合理的配慮”、すべての事業者に義務化
2024.04.16
※このコラムは2024年4月12日時点の情報をもとにしております。
令和6年度が始まって間もないところ。トリプル改定にどうしても注目がいくが、他にも医療機関において対応を検討しておきたいことがある。その一つが改正障害者差別解消法だ。つい先日、ある映画館で車椅子利用者に対して従業員が不適切と感じ取られる対応をとったこと(映画館の従業員数に限りがあり、安全面も考えると当該映画館以外の映画館を利用することが双方にとって気分がいいのではないか、といった従業員からの提案があった)が一般紙やWebメディアなどで大きく報道され、SNSで拡散されたのを目にした方も多いのではないだろうか。改正障害者差別解消法と大きく関連するものだ。
令和5年6月20日、内閣府は「令和5年版障害者白書」を公表した。その内容は、本年度から施行される改正障害者差別解消法を大きく取り上げた内容となっているのが特徴だ。障害者差別解消法は平成28年に施行されたもの。共生社会の実現を目的に、障害の有無に関係なく、当たり前の価値観を共有し理解しあっていくためのもので、事業者に対して不当な差別的扱いをしないことが求められる。障害者差別を解消するには環境整備の観点と合理的配慮の観点の2つのアプローチ方法がある。環境整備の観点としては、バリアフリーやユニバーサルデザインといった物理的対応によるもの。そして、合理的配慮とは、障害者との対話を通じて対応可能な障害除去の対応をするというもの。その合理的配慮については、公的施設においては義務化されているものの、民間事業者は努力義務になっていた。その努力義務が、この4月からは義務となった。サービスを利用する方やアルバイトスタッフ(障害者を雇用している事業者は合理的配慮はもともと義務になっている)に対して、要望に耳を傾け、どうすれば対応できるかを話し合い対応すること、対応できない場合はその理由を説明したり代替手段を提案することが求められる。障害者との建設的な対話になっていること、障害者が対話してくれていると感じてもらえることが大事だ。
報道された映画館での車椅子利用者に対して従業員が不適切な対応をとったことの問題は、対話ではなく、従業員による一方的な提案になっていること、すなわち合理的配慮が欠けていた、ということが問題だったといえる。また報道からも分かるように、対応した従業員個人の名前ではなく、その企業(事業者)名で報道されている。従業員の対応は、事業者の責任となるということだ。医療機関においても同様の責任が求められる。改めて、従業員に対する周知・教育の機会を提供することも大事だが、障害者の受診や入院に際しては、人員に余裕ができる日時をあらかじめ確認し、本人とも話し合いをして、医療機関として受付やエレベーターの利用など十分に対応できる環境を作ることができるようにしておくことも必要だろう。
なお、障害者白書では2025年度末を期限としたバリアフリー目標の現況と今後の予定など、数値目標なども明示して取り組んでいることを明らかにしている。特に医療機関では、地域医療構想の推進の一環での病院再編など法定耐用年数の関係で建替えなどを予定しているところも多いと考えられる。バリアフリーよりも、ユニバーサルデザインを取り入れた対応を検討することを意識しておきたい。バリアフリーとは障害となるものを除去すること。ユニバーサルデザインとは、あらかじめ障害がないもののことをいう。
こうした改正障害者差別解消法への対応に向けた補助なども自治体によっては出ていることもあるので、J-net 21の支援情報検索等を利用して確認しておきたい。また、合理的配慮については、内閣府において事例などを集積したデータベースもあるので、積極的に利用していくことをおすすめしたい。
J-Net 21 支援情報の検索 https://j-net21.smrj.go.jp/snavi/articles?category%5B%5D=2
合理的配慮等具体例データ集 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。