【医療業界動向コラム】第89回 本年5月から7月は「マイナ保険証利用促進集中取組月間」です
2024.04.30
※このコラムは2024年4月26日時点の情報をもとにしております。
令和6年4月25日、経済団体や医療関係団体などが実行委員を務める「日本健康会議」が「医療DX推進フォーラム」を開催し、「マイナ保険証利⽤促進宣⾔」を採択した。本年12月2日からは現在の健康保険証カードの新規発行が原則として廃止されることを踏まえ、TVCMなどでも広報するとともに、医療機関・薬局においてもポスターを掲示するなどの取組を強化、啓発していく。なお、医療機関・薬局に対するポスターなどのツールは支払基金を通じて、5月2日より配布されることとなっている。これは、令和6年度診療報酬改定で新設される「医療DX推進体制整備加算」の要件にある掲示物の一例ともなる。
フォーラムに先立って、4月23日に厚生労働省は『「マイナ保険証利用促進集中取組月間」と利用促進のためのツール・一時金について』と出したオンラインセミナーを実施し、フォーラムの開催を皮切りにして、5月から7月を「マイナ保険証利用促進集中取組月間」として取組みを強化していくことを説明している(図1)。その説明の中で、「医療機関等におけるマイナ保険証利用促進のための支援」を見直すことを明らかにした。
従来の支援では、昨年10月時点のマイナ保険証の利用率を基準として、1-5月・6-11月の期間での増加量に応じた支援が行われることとなっていた。しかし、その支援制度が決まった後に令和6年度診療報酬改定が行われ、6月からは医療DX推進体制整備加算が新設されたことに伴い、6月以降の支援内容を見直すことになった。具体的には、利用率ではなく利用者数の増加に応じた一時金を支給する、というもの。診療所・薬局では最大で10万円、病院では最大で20万円を支給する。この支給の決定は、集中取組月間である5-7月いずれかの月の利用者数の増加人数で決まることとなる(図2)。なお、1-5月の支援内容は当初の予定通り。
マイナ保険証の利用状況についても確認しておきたい。
本年3月時点、マイナ保険証の利用件数は初めて1千万件を突破、利用率は5.47%となっている。利用件数の伸びもあって、マイナポータル等を利用した薬剤情報・診療情報の閲覧利用件数も増加の傾向にあることがわかっている(図3)。施設類型別にみると、本年1月以降の病院と薬局における利用率の伸びが大きいとのこと。先日、デジタル庁でマイナンバーカードの携行率に関する調査結果が報告されたが、マイナンバーカード保有者(N=20,000人)の5割超が携行していることがわかっている。今回の集中取組月間を通じて、ただ携行するだけではなく、使う、という新たなフェーズに突入していくことを促すことになる。
令和6年度診療報酬改定では、処方料・処方箋料、薬剤情報提供料が引き下げられているが、その理由は電子処方箋やオンライン資格確認といったDXの導入・利活用で業務効率化と職員の負担軽減ができるためだと考えられる。地域医療情報連携ネットワークへの参画を促す項目も随所にみられる改定となったが、そこからわかることは医療DXの体制整備ができている前提の診療報酬体系にこれから移行していく、というメッセージだ。医療DXの取組を積極的に行うことこそが、これからの診療報酬対策になるとともに、マイナ保険証を利用する地域住民に選ばれる医療機関の条件になっていくことになる。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。