【医療業界動向コラム】第90回 働き方改革・負担軽減に関する補助金・助成金について
2024.05.14
※このコラムは2024年5月10日時点の情報をもとにしております。
プラス改定となった令和6年度診療報酬改定だが、その中身は賃上げに多くの財源が割かれている。また、医療DX推進に対する評価が随所にみられるものの、DXで進む業務効率化で処方箋料や薬剤情報提供料などが引き下げとなっているなど、働き方改革とDXの環境整備の取組なしには診療報酬で得られる恩恵は少ないものとなった。とはいえ、働き方改革とDXの環境整備にはそれ相応の費用が必要だ。そこで、補助金・助成金を合わせて活用していくことが重要となる。
例えば、DXについてみると従来からの「IT導入補助金」や今年度から開始される「中小企業省力化投資補助金」などの利用(医療法人の申請はできないが、社会福祉法人で従業員数300人以下であれば申請は可能)が考えられる。
一方で、働き方改革に関して言えば、勤務医の働き方改革に資する「働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース、勤務間インターバル導入コース、労働時間短縮・年休促進支援コース、団体推進コース)」といったものや、5月7日より今年度の申請受付が開始されたエイジフレンドリー補助金がある。このエイジフレンドリー補助金とは、高年齢労働者(60歳以上)の労働災害防止対策や労働者の腰痛対策などの指導や健康増進に活用する補助金。令和2年度に創設されたもので、今年度も実施される。今年度については、新たに「転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース」が新設され、高年齢労働者以外も対象となるなどやや対象が拡大されている。なお、エイジフレンドリー補助金は中小企業向けのものであるため、医療法人・社会福祉法人においては常時使用する労働者数が100人以下となる(図1※)。
今年度の申請で注意しておきたい点を以下に列挙する。
・本補助金は、交付決定後から、支払関係書類提出の最終締切日(令和7年1月31日)までに実施され、その支払いを済ませる必要がある。交付決定日より前に安全衛生対策等を開始していた場合は、補助対象外となる。
・補助金の支給回数は同一年度内に1回限り。
・開設後1年未満の法人については対象外となる。
昨年度は2つのコースであったが、今年度は3つのコースとなっている。
〇高年齢労働者の労働災害防止対策コース(高年齢労働者が対象)
60歳以上の労働者の労働安全のためのコースで、身体機能の低下を補う設備・装置の導入などに対する補助となる。医療機関、介護施設等の高年齢労働者は対象となる。注意しておきたいのは、患者・利用者のサービスのための設備・装置の導入ではなく、働く側の負担軽減を目的とするものでなければならないということだ(図2※)。
例えば、 電動ベッドは、介助者の腰痛防止効果は認められるものの、被介助者側の負担軽減、介護サービス向上が主目的と考えられるため、補助対象としては認められないこととなっている。 電動昇降機能、電動背起こし機能つきベッド、褥瘡防止ベッド、マットやベッド付属の見守り装置、体重測定装置等も同様だ。また、自走式車いすも、被介助者側の負担軽減、介護サービス向上が主目的と考えられるため、原則として補助対象とはならないが、スライディングボードを使用する際に必要となる片ひじが外せるなど、高年齢労働者の身体的負担軽減に効果がある機能を有する介助式車いすについては、補助対象となる。なお、新型コロナ感染対策に関するものは対象外となる。
〇転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース(年齢制限なし)
専門家による運動指導等に対する費用の補助が対象となる(図2 再掲※)。なお、自院・自施設の従業員である理学療法士等による指導に対しての経費は対象外だ。
〇コラボヘルスコース(年齢制限なし)
保険者と事業者による連携で、従業員の健康増進に取組むことに対する補助。事業主健診情報が保険者に提供されていることが前提条件となる(図3※)。メンタルヘルス対策、ハラスメント対策等の教育・研修も対象となるが、先に記載しているように、事業主健診情報が保険者に提供されていることが前提条件となっている。
患者・利用者だけではなく、医療機関・介護事業所においても働くスタッフの高齢化は進んでいる。人口減少が進む中において、貴重な労働力と従業員の生活を守っていくためにも活用を前向きに検討したい。
※図1~図3出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署・一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会>「『令和6年度エイジフレンドリー補助金』のご案内」
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。