【医療業界動向コラム】第97回 骨太の方針2024から医療分野の注目ポイントを確認する

2024.07.02

令和6年6月21日、骨太の方針2024が閣議決定された。医療分野についてみると、原案と細かな表現の見直しがあったものの、大きな方向性・取組方針には変更はないものといえる。原案からの修正点も確認しながら、ポイントを確認しておきたい。

短期的に取組む5つのアクションと中長期的に取組む5つのビジョン

人口減少が本格化する2030年までの期間を改革のラストチャンスと位置付けていることが従来と異なる大きなポイントだ。

図1_骨太の方針2024の概要(※画像クリックで拡大表示)

そこで、集中的に取組むこと、およびそのビジョンが明確にされている。2030年以降についても記載があり、「実質1%を上回る経済成長を実現するとともに、これまでと同様に医療・介護給付費対GDP比の上昇基調に対する改革に取り組む」とある。

図2_中長期の取組み方針(※画像クリックで拡大表示)

2030年以降の人口減少下における生産性向上社会の基礎作りを集中的に行うというものといえるだろう。

こうした生産性向上社会を作るためにもその基盤となるのが、持続的な賃上げによる雇用の確保及び労働者の生活の安全確保とDX推進だといえる。

賃上げについては、診療報酬においても手当されるようになっているが、今後はキャリアプランの視点が必要になってくると考えられる。今回の骨太の方針2024には「全世代型リ・スキリング」が生産性向上社会に向けて重要であることも明記されていることがその理由だ。

また、先行して導入されている介護職員処遇改善加算にキャリアパス要件があることからもわかる。今後は、賃上げに見合う生産性向上のための必要なスキルを従業員自らが習得するというものだけではなく、経営者・管理者層が生産性向上に必要なスキルを習得してもらうための機会を創出することがより重要になってくるだろう。

DX推進については、全国医療情報プラットフォームの環境整備が目下のテーマであり、その後を見据えた取り組みとして、ライフログを活用した「全世代型健康診断」(ウェアラブル端末の活用や保険者と事業主とのコラボヘルスなど)も視野に入っている。

図3_医療・介護DX(※画像クリックで拡大表示)

なお、骨太の方針2024の原案で医療DXについては「医療費適正化の取組を強化するための必要な法整備を行う」との記載があったが医療費適正化、という文言が削除され、「医療の効果的・効率的な提供を勧めるための必要な法整備を行う」に修正されている。

また、今年度で当面のゴールを迎える地域医療構想についても強力に推進する方針を明らかにしている。ここ最近の骨太の方針では必ずと言ってよいほど登場している地域医療連携推進法人に加え、今回はさらに医療法人も理事となれる社会福祉連携推進法人の活用についても記載されている。

さらに、令和7年度から始まる「かかりつけ医機能報告制度」を意識して、国民目線に立ったかかりつけ医機能の発揮、という文言が明記されている点に注目したい。かかりつけ医機能というと、診療所や200床未満の病院の外来をイメージするが、かかりつけ医機能報告制度では特定機能病院と歯科診療所以外の医療機関を対象とする予定で検討が進められている。
本年4月に新しくなった医療情報ネット(通称:ナビイ)ではかかりつけ医機能に関する項目の表示もスタートし、国民目線の情報発信はすでに始まっているといえる。

注目されていた医師・病院・診療所の偏在について総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定することとされている。なお、原案では「総合診療医の育成」がその手段の一つとして記載があったが、「総合的な診療能力を有する医師の育成」に修正されている。来年度から始まるかかりつけ医機能報告制度を意識したものかもしれない。

「新たな地域生活圏」とは?

デジタル化の進展、在宅医療の需要の高まりなどもあり、日常生活の圏域の考え方、そして二次医療圏の考え方を変える必要がある。

そこで、国土交通省からは二次医療圏の考え方も見直した人口10万人規模を一つの圏域とした新たな地域生活圏について提示してきた。骨太の方針2024では、この地域生活圏の形成に関して明記されている。

図4_地域生活圏(※画像クリックで拡大表示)

今後、医療圏の在り方、2027年度からはじまる新たな地域医療構想にも影響があることだろう。自院のカバーする圏域、圏域内での連携関係など確認をしておきたい。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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