【医療業界動向コラム】第107回 令和5年度の医療費の動向から今とこれからを読む

2024.09.17

令和6年9月3日、厚生労働省より令和5年度の医療費の動向(速報値)が公表された(労災や自費診療は除かれている)。その内容は、過去最大となる47兆3000億円。なお、前年度より1兆3000億円(+2.9%)という内容。新型コロナ感染拡大からの反動などがまだ続いていること、そして徐々に新型コロナ感染拡大期前の環境に戻りつつあることを感じさせるものの、力強さ、すなわち患者の戻りが鈍いといえることがわかった(図1)。

図1_令和5年度医療費の動向の概況(※画像クリックで拡大表示)

特徴的な後期高齢者と未就学者の医療費

制度別の概算医療費の割合を確認すると、75歳以上後期高齢者医療費が39.8%(対前年比+4.5%)を占めている(図2)。

図2_制度別の概算医療費(※画像クリックで拡大表示)

国民健康保険からの移行が進んでいるようにも見える。また、公費負担医療の増加も顕著だ。全体では約5.0%程度だが、対前年度では+3.6%となっている。今後、生活保護の医療費を国保に統合することも検討されていることから、地域における医療費適正化の取組みがより重要になってくる。

年齢階層別の一人当たり医療費をみてみると、75歳以上の後期高齢者医療費における一日あたり医療費の伸びが+1.4%となっている。その一方で一人当たり受診延日数が-0.5%となっている(図3)。

図3_年齢階層別の概算医療費(※画像クリックで拡大表示)

これは、2022年10月からの後期高齢者の窓口負担割合が2割に引き上げられた影響(受診頻度を下げるなど)が考えられる。その結果、75歳以上の後期高齢者医療費は+0.9%の伸びとなった。後発医薬品の使用割合が高まっていることなどの影響で、やや伸びは鈍化している、とも見えなくはない。またここで注目したいのが、未就学者の伸びだろう。新型コロナ感染拡大の反動の一つとして未就学者・小児の感染症等の治療などが増えていると考えられる。一人当たり受診延日数の増加は、各自治体で取り組まれているこども医療費無償化などの施策も関係しているのではないだろうか。そこで、医科診療科別の状況を見てみると、小児科と耳鼻咽喉科の受診延べ日数が大きく伸びているのがわかる(図4)。

図4_医科診療所の診療科別概算医療費(※画像クリックで拡大表示)

なお、一日当たり医療費は対前年比でマイナスとなっている。診療報酬上だけではなく、受診行動の変容を促すような広報活動もあわせて取組むことで、限られた資源の有効活用をしていくことが求められる。

診療種類別に確認。調剤医療費の伸びが大きい。

調剤医療費が8兆円を超えた。しかも、対前年比で5%を超える伸びとなっている(図5)。

図5_調剤医療費の動向(※画像クリックで拡大表示)

一方で、処方箋1枚当たり薬剤料は対前年比でマイナスとなっている。医科の入院外は回復基調を見せているものの、まだ戻り切っていない(過去のマイナス分を取り戻せていない)ことや長期処方による受診頻度の減少などが影響していると思われる。

なお、訪問看護の医療費も大きく増えているが、ここ最近、多く報道されている訪問看護の不正請求問題などを考えると、気になる点も多々ある。

平均在院日数の地域差

都道府県別の医療費、平均在院日数の動向も公表されている。高知県と山口県では平均在院日数が40日を超えている(図6)。

図6_都道府県別推計平均在院日数等(※画像クリックで拡大表示)

最も平均在院日数が短い東京都と最も長い高知県の医療提供体制(人口10万人当たり施設数)をJMAPで比較してみる(図7)。

図7_JMAPを用いた高知県と東京都の人口10万人当たり医療機関数の比較(※画像クリックで拡大表示)

交通環境や年齢構成などの諸条件にも原因があると思われるものの、医療機関の役割分担と連携を通じた病床機能の効率的な活用の余地がまだまだあるように感じられる。在宅療養支援病院の拡充や在宅医療を行う医療機関との連携強化なども。患者だけではなく、医療従事者も年を重ね、これまでできていたことができなくなってくる。特に医療資源が限られた地域では、人的資源を集約した病院が近隣の開業医と連携して在宅までフォローアップする機能と、地域住民に情報発信をして受診行動に協力を求めることもこれからは必要だ。とりわけ、療養病床については、今後在宅との連携を強化するもしくは、自ら在宅に取組むことなどテーマになってくる。

9月に入り、本格的な議論が始まっている新しい地域医療構想は、これまでの入院医療だけではなく、外来・在宅を含めた地域を挙げて対応することになっている。医療費の動向から地域住民の受診行動や地域の現状を確認し、新しい地域医療構想へ備えを始める時が来ている。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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