【医療業界動向コラム】第109回 地域医療情報連携ネットワークの現状とこれからの課題

2024.10.01

日本医師会総合政策研究機構より定期的に報告されている「ICTを活用した地域医療情報連携ネットワーク等に関する概況」(令和6年2月調査。325箇所に依頼し、有効回答は279箇所)が令和6年9月に公表された。2012年度より継続して調査されているもので、国内の地域医療情報連携ネットワークの現状・進展度合いがわかる調査となっている。今回公表された調査は、令和6年度診療報酬・介護報酬改定と医療・介護DXに関する意識調査も行われているのが特徴だ。

〇地域医療情報連携ネットワークの現況を確認する

地域医療情報連携ネットワークの稼働開始時期をみると、令和元(2019)年あたりをピークに、やや横ばいから微増という状況であることがわかる(図1)。

図1_稼働開始年別の地域医療情報連携ネットワーク(※画像クリックで拡大表示)

運営主体についてみてみると、病院が最も多くなっている(図2)。

図2_地域医療情報連携ネットワークの主体(※画像クリックで拡大表示)

地域の基幹病院を核にしているケースが多いのだろうと思う。なお、令和6年度介護報酬改定では「協力医療機関連携加算」が新設され、次回改定までに連携構築が義務化される。この連携においては、地域医療介護確保基金を活用した地域医療情報連携ネットワークを活用した年3回以上のカンファレンスへの参加(地域医療情報連携ネットワークに参加しない場合は月に1回以上)が求められることとなっている。また令和6年度診療報酬改定においても「協力対象施設入所者入院加算」「介護保険施設等連携往診加算」が新設され、同じく地域医療連携ネットワークを活用した年3回以上のカンファレンス(地域医療情報連携ネットワークに参加しない場合は月に1回以上)が設けられ、医療・介護双方からの歩み寄りと連携の構築が評価されることとなった。なお、介護報酬では地域医療介護総合確保基金を活用したネットワークとなっているが、診療報酬では地域医療介護総合確保基金「等」を活用した~となっている。

地域医療情報連携ネットワークは、地域を1つの総合病院・患者の自宅入居先が療養する場所と考えた新しい地域医療構想において、重要なインフラとなる。今回の同時改定はそのインフラ作りを大きく後押ししている。ここ最近は微増にとどまっているが、今回の同時改定を契機に広がっていくことが期待される。

しかしながら、その同時改定が明らかになって以降、少し混乱も起きていることをよく体験している。それは、マイナ保険証/オンライン資格確認を基盤とする「全国医療情報プラットフォーム」の存在だ。

〇全国医療情報プラットフォームとの関係性

全国医療情報プラットフォームとの関係性などに関する調査も行われている。「心配である」という声が決して少なくない(図3)。

図3_全国医療情報プラットフォームを踏まえた今後の地域医療情報連携ネットワークについて
(※画像クリックで拡大表示)

特に、NPOや一般社団法人等でその割合が高い。おそらく、自治体等からの補助の打ち切りや減額の懸念があるのではないだろうか。

筆者はとある地域で地域医療連携に関する取組を行っているが、地域医療情報連携ネットワークに関する評価は高く、サービス提供者側にしてみれば重要なインフラとなっていることがわかる。しかしながら、マイナ保険証の利活用の推進、全国医療情報プラットフォームという言葉が行政組織を中心に理解が進むとともに、地域医療情報連携ネットワークとの違いが分かりにくく、財政状況の厳しい自治体ほど支援の打ち切りや減額を検討していると聞く。

全国医療情報プラットフォームは、公的保険に紐づく情報や患者に対する療養指導の内容などを共有して診療・審査等の効率化(受診先に関係なく過去の履歴を確認する、重複投薬・重複検査等の防止、保険請求や指導監査に関する平準化など)を図るのが主な目的といえる。一方で、地域医療情報連携ネットワークは限定された地域の中で診療情報や検査結果などのほか、担当する医師と多職種とのコミュニケーションやACPなどについても診療・看護・介護を提供するに際して必要な詳細な情報が共有されるものだといえる。ゆえに、全国医療情報プラットフォームの情報を地域医療情報連携ネットワークの中で活用していく、というイメージだ。今後、併用して利用していくための検討をしていくことが求められるだろう(図4)。

図4_全国医療情報プラットフォームと地域医療情報連携ネットワークの在り方について
(※画像クリックで拡大表示)

人口減少時代に合わせて病床数は絞り込まれ、患者の療養する場所は病床から在宅・施設へと拡大していく。在宅・施設にいながらも安心して医療サービスを受けるためには、地域医療情報連携ネットワークが重要であり、多様化するニーズに合わせてさらに発展していくことが求められる。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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