【医療業界動向コラム】第117回 新たな経済対策に見る医療分野のポイント
2024.12.03
令和6年11月22日、臨時閣議で新たな経済対策が閣議決定された。12月上旬に補正予算案を国会に提出し、年内成立を目指すことになる。あらたな経済対策は3つの柱でできている。賃上げ環境の整備で経済成長、物価高対策、自然災害や防災に対する対策で安心感を醸成する、というもの(図1)。
ここでは医療分野のポイントに絞って確認してみる。
〇地域医療構想の着実な推進、へき地等での事業承継の支援など盛り込まれる
第1の柱にある地域創生2.0にて医療分野については記載がある。最初に書かれているのが地域医療構想の推進に関するもの。物価高等の経済事情でその流れを止めないように「病床削減を早急に実施する医療機関に対しては、医療機関の連携・再編・集約化に向けた取組を加速する観点から、必要な支援を実施する」とある。現行の地域医療構想は2025年度中をゴールとしていることから、ここで立ち止まらないように後押しをしたいということだろう(図2-3)。
その一方で、周産期医療や小児医療など必要な医療サービスについても「地域の小児医療の拠点となる施設について、急激な患者数の減少等を踏まえた支援を行う」という点も盛り込まれている。また、今回の施策では医療分野における少子化対策についても一つの例が挙げられている。「プレコンセプションケアの推進」がそれだ。性や妊娠に関する正しい知識を持ってカップルがお互いに健康管理に臨むもので、将来の妊娠・出産についても考えていくことを医療機関や行政が支援していくもの。ライフデザインはそれぞれが自由に描くものだが、プレコンセプションケアを通じて、妊娠・出産についても考え、向き合ってもらえるきっかけを作ることにもなり、少子化対策の一つとして期待される。東京都など自治体でも最近取組が目立つようになってきた。フェムテック(Femtech。女性の健康課題をテクノロジーで解決する)のサービスとしても最近注目を集めている。妊娠・出産が目的というわけではないが、正しい知識と過ごし方を知ってもらうことは重要だ。
また新たな地域医療構想等に関する検討会でも議論されている医師偏在対策に対する支援についても記載がある。「今後の人口動態等により、将来の医療機関の維持が困難な地域において、診療所を承継又は開業する場合に、当該診療所の施設整備等を支援する」という一文がそれだ。医療資源が限られた地域においては、病床削減を進めることとなるが、住民の健康を守っていくには引き続き外来医療や在宅医療の維持・継続が必要で、今回の経済対策での注目点の一つだといえる。ただ、あくまでも事業の立ち上げと開始に対する支援であることに注意が必要だ。事業を継続し続けるための様々な取組は必要であり、連携の輪に積極的に入っていくことや、ICTサービスを活用した効率化の追求も意識しておきたい。なお、こうした医療資源が限られた地域に対するオンライン診療及び巡回診療車の環境整備や、訪問看護ステーションへの薬剤の配置の検討なども盛り込まれている。
医療DXのさらなる推進として、改めて全国医療情報プラットフォームの構築を急ぐことも盛り込まれている(図4-5)。
〇物価高対策について
なかなかおさまりを見せない物価高だが、これから冬の時期を迎えるにあたっては、光熱水費がかなり懸念されている。また、国としては物価高を上回る賃上げ支援もうたっている点に注目したい(図6)。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。
https://www.hckn.work