【医療業界動向コラム】第119回 健康保険証の新規発行に関する注意点と高額療養費制度の見直しについて

2024.12.17

令和6年12月2日、紙・カード型の健康保険証の新規発行が終了となった。あわせて、限度額適用認定証の新規発行も終了した。あくまでも新規発行が終了となっただけで、既存の健康保険証は利用できるし、有効期限内にマイナンバーカードと健康保険の情報を紐づけしなくとも資格確認書が送付されてくるので、引き続き3割負担で受診もできる。高額療養費も同様だ。ただし、オンライン資格確認に対応していない医療機関や、システムトラブルがあった場合には対応が困難になることがあるので、保険者より送られてきている「資格情報のお知らせ」を当面はあわせ持っておくのがよいだろう(図1)。

図1_資格確認書と資格情報のお知らせ(※画像クリックで拡大表示)

また、健康診断ではまだマイナ保険証による受診はできない。そのため、既存の健康保険証は当面所持しておくことをお勧めしておきたい。

こうしたマイナ保険証を含む社会保障制度の周辺を巡っては、103万円の壁問題や高額療養費の自己負担上限額の引き上げに関する話題が最近大きく報道されている。そこで、今回は改めて高額療養費についての基本と議論の現状・見通しについてご紹介したい。

〇高額療養費制度を改めて

マイナンバーカードに保険証の機能を付加するマイナ保険証を利用することでオンライン資格確認に対応している医療機関では自動的に対象となるかどうかを判別してくれる。マイナ保険証にしていない場合は、令和6年12月2日以降は保険者から送付される資格確認書を利用する事になる。なお、従来は保険者に限度額適用認定証を申請・交付してもらう必要があったが、令和6年12月2日以降、新規発行は終了となる。すでに発行されているものについては、令和7年7月31日までは使用可能だ。ただし、オンライン資格確認に対応していない医療機関等での高額療養費の利用については、保険者に所得区分が記載された資格確認書を申請・交付してもらう必要がある点に注意しよう。

高額療養費では、外来と入院は別のレセプトになることから、個別に精算することになる。ただ、同一医療機関での外来・入院で、いずれも21,000円/月以上の自己負担であれば合算できる。また、世帯合算できる制度もある(図2)。

図2_高額療養費における世帯合算(※画像クリックで拡大表示)

ただし、世帯合算する家族は同じ保険であることが必要だ。共働きなどでは注意しておきたい。差額ベッド料など保険外サービスについては適用の対象外となる。その他、年に3回以上高額療養費を利用する場合の多数回該当や透析医療を受ける場合などでの軽減措置(図3)もある。

図3_高額療養費の注意点(※画像クリックで拡大表示)

〇高額療養費を巡る議論の現状と今後

高額療養費をめぐって、早ければ令和7年度中にも所得区分の見直し(細分化)、自己負担上限額の引き上げなどが行われることとなりそうだ。高額療養費は、必要な医療を等しく受けられるように設定された社会保障制度の一つ。しかし、高齢者割合の高まりや経済状況の変化もあって、高額療養費を利用者は増える一方で、勤労世代では利用者は少なく負担は重くなっている。いわゆる世代間格差を生んでしまっているという側面もある(図4)。

図4_年齢による医療費と負担額の違い(※画像クリックで拡大表示)

また、令和6年9月に公表された新たな後発医薬品使用促進策のロードマップでは、バイオ後続品の使用促進や金額ベースで65%以上の副次目標が設定されている事を考えると、先発医薬品を利用するよりも、バイオ後続品を含む後発医薬品を選択する方が自己負担が軽くなるように高額療養費の自己負担上限額の見直しを行っていく必要がある。長期収載品の選定療養の組み合わせで、バイオ後続品を含む高額な後発医薬品の使用促進をさらに加速させていくことになると考えられる。医療機関においては、バイオ後続品を含む後発医薬品の使用や一般名処方について検討をしておきたい。

社会保障制度を巡っては、勤労世代の負担感を軽減するような大きな流れができつつある。また、長期収載品の選定療養などのように公的保険給付の範囲が徐々に狭まってきている印象もある。受診抑制にもつながりかねないとも言われるが、かかりつけ医機能を発揮して重症化対策に努めていくことで患者の経済的負担の軽減となり、医療機関ではスタッフの負担軽減・働き方改革につながる期待もあり、医療機関としては新たな事業を創造する機会となる可能性もあると考えたい。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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