【介護業界動向コラム】第7回 バックオフィス業務について
2025.01.29
本コラムでは、主に現場での直接的なケア業務に関わるICTツールについてお伝えしてきましたが、第7回では生産性向上の取組の成果として最も早く効果が出やすい「バックオフィス業務」について解説していきます。
電子帳簿保存法の改正に伴い、2024年1月1日以降、電子取引でやりとりした書類はデータでの保存が義務付けられるようになりました。こうした状況から、バックオフィス業務でもICTを活用しペーパーレス化を進めていくことは重要だと考えます。運営上、長期間保管しなければならない書類が多く、今まで頭を悩ませていた「紙の保管スペース」からも解放されます。早速具体的なツールをご紹介していきましょう。
労務・勤怠・給与管理・給与明細電子化システム
介護、福祉業界以外でも共通している業務ツールとして種類が多く、悩まれる方も多いのではないでしょうか。少し前までは、Excelの集計をマクロ化して管理をしている事業者が大半でした。それは、システムが介護業界に対応できていないためやむなくExcelを使うという状況だったからです。具体的には、シフトを組む際に、介護職員の勤務形態(常勤、非常勤の換算)や加算に関わる資格や人数までチェックが必要となり、しかもその情報を給与計算まで連携できるツールは無く、どうにかしたくとも結局ツールの選定に至らないという状況になっていました。更にExcelでの管理は紙に出力した書類を管理することになり、作業が事務担当者の業務負担となります。特に大きな事業所では作業が煩雑化し、誤作業の元となってしまっていました。
しかし最近では、これらの機能が統合され、またシステム間での連動が可能なクラウドサービスが登場しました。職員自身がスマートフォンやPCからシフト作成に必要な情報を入力するところから、事務担当者が画面上で勤怠チェック、給与計算、給与明細データ作成まで紙を一度も印刷することなく、一連の作業を行う事が可能となっています。給与明細の発行も紙ではなく、職員のスマートフォンで確認できるため、印刷、封入の手間も省けます。事務担当者の大幅な工数削減に貢献するツールとなっています。
クラウドストレージ
法人内でファイルを共有するため、従来はファイルサーバーを事業所に設置し、必要によっては事業所間のネットワークを接続して運用する形が一般的でしたが、現在はクラウドストレージへの移行が進んでいます。クラウドストレージはインターネット環境さえあれば外出先や在宅勤務からでもファイルにアクセスできるため、例えば紙で印刷したり、PCにコピーしたりして持ち出していた書類や資料を、外からでも直接PCやタブレットで開いて編集したり、見せたりすることが可能です。また電子帳簿保存法に対応したサービスを利用すれば、複雑な保存要件への対応も容易になります。
ワークフロー
稟議書を紙で回している事業者は、決裁者が常に事業所にいないと承認ができません。そのため、決裁者の押印が遅れると、それを待ってから集計や確認作業をする方がさらに遅くまで残業するというようなことが起こりえます。このような問題には、ワークフローシステムの導入が有効です。ワークフローシステムとは、企業内の業務の流れを電子化してシステム化したもので、申請や承認、確認などの手続きを効率的に行うことができます。クラウドのシステム上で稟議などを回す形になるため、別拠点にある本部や外出先からでもスマートフォンなどで確認が可能になります。また、紙だと稟議書が今誰のところにあるのかがすぐに分からないですが、ワークフローシステムでは承認が今どこでどの状態かリアルタイムで確認ができ、差し戻しなどがあった場合にもすぐに対応できます。
以上、ペーパーレス化に貢献するツールを中心にいくつか例を紹介しましたが、事務作業の効率化という観点では、勤務シフトや送迎ルートの自動作成、AI議事録作成、RPAなど他にも介護現場での生産性向上を支えるツールが多数存在します。なるべく紙を使わず、人手を減らせるように業務を再考し、より業務の重要な部分に時間を使えるように環境を整えましょう。
竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。