介護職員の処遇改善加算とは?必要な機能とソフトの選び方を解説
2023.10.31
国内では少子高齢化が進み、介護を必要とする高齢者は増加する一方です。
団塊世代が後期高齢者になる2025年には、4人に1人が後期高齢者になると言われています。
求められる介護職が増える一方で、介護職の人手不足は深刻です。
仕事がたいへんな割に給料が低いイメージがあるため、介護職の定着が進まないのが現状でしょう。
このような現状を打開する目的で、政府は介護職員処遇改善加算を創設しました。
しかし、算定ルールが複雑などの理由で、介護事業所の事務処理に大きな負担をかける結果になっているため、対応ソフトの導入による業務負荷の軽減が求められています。
そこで本記事では、処遇改善加算の基本知識をお伝えするとともに、対応ソフトの必要機能・選定ポイントを解説します。
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手軽に業務改善を始めたいとお考えの方は是非ご活用ください。
目次
【基礎知識】処遇改善加算の概要
介護職員の処遇改善加算とは
処遇改善加算とは、介護職員の処遇を改善するために職場環境の整備と賃金改善を目的として創設された制度です。
処遇改善加算が創設された背景には、介護職員の深刻な人材不足があります。
他の業種と比較して介護職の収入が低いこと、高い離職率が人材不足の原因となっているため、厚生労働省が介護職員の賃金や職場環境を改善するために設けた仕組みです。
平成20年に介護職員処遇改善交付金として開始され、平成24年度からは介護職員処遇改善加算として、介護報酬を加算する形に移行されました。
その後の改定では算定要件や加算率が見直され、令和3年度には算定要件の一つである職場環境等要件が見直されています。
さらに、令和4年度にはコロナ克服・新時代開拓のための経済対策の一環として、介護職員の収入を3%程度引き上げる措置を講じるため、介護職員等ベースアップ等支援加算の仕組みが創設されました。
介護職員が処遇改善加算を受ける条件
令和4年度以降の改定では、処遇改善加算には大きく次の3種類があります。
- 介護職員処遇改善加算
- 介護職員等特定処遇改善加算
- 介護職員等ベースアップ等支援加算
それぞれ、加算の対象となる職員と、算出要件が定められているので見ていきましょう。
介護職員処遇改善加算
対象は介護職員のみです。
算定要件にはキャリアパス要件と職場環境等要件があり、それぞれ要件を満たす必要があります。
詳細は下記のとおりです。
算定要件 | 内容 |
キャリアパス要件① | 職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること |
キャリアパス要件② | 資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること |
キャリアパス要件③ | 経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期的に昇給を判定する仕組みを設けること |
職場環境等要件 | 賃金改善を除く、職場環境等の改善 |
また、職場環境等要件の詳細は下記のとおりです。
介護職員処遇改善加算では、下記の一覧のうち1つ以上の項目に取り組んでいることが要件とされています。
区分 | 具体的内容 |
入職促進に向 けた取組 | ・法人や事業所の経営理念やケア方針 ・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化 ・事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築 ・他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築 ・職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組の実施 |
資質の向上や キャリアアッ プに向けた支援 | ・働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対す る喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等 ・研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動 ・エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入 ・上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等に関する定期的な相談の機会の確保 |
両立支援・多 様な働き方の推進 | ・子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備 ・職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の 制度等の整備 ・有給休暇が取得しやすい環境の整備 ・業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実 |
腰痛を含む心身の健康管理 | ・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、介護ロボットやリフト等の介護機器等導入及び研修等による腰痛対策 の実施 ・短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 ・雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施 ・事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 |
生産性向上のための業務改善の取組 | ・タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減 ・高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳・下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提 供)等による役割分担の明確化 ・5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備 ・業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減 |
やりがい・働きがいの醸成 | ・ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善 ・地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施 ・利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供 ・ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供 |
介護職員等特定処遇改善加算
対象は以下のグループです。
従事する職員をどのグループに割り振るかは事業所が決めます。
- 経験・技能のある介護職員
- その他の介護職員
- その他の職種
算定要件は、以下の要件をすべて満たしている必要があります。
- 処遇改善加算の(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること
- 処遇改善加算の職場環境等要件について各区分でそれぞれ1つ以上の項目に取り組んでいること
- 処遇改善加算に基づく取り組みについてホームページ掲載などの見える化を実施していること
また、要件を満たしている場合、介護福祉士の配置割合等に応じて加算率が二段階に設定されています。
介護職員等ベースアップ等支援加算
対象は基本的に介護職員です。
ただし、事業所の判断により他の職員の処遇改善に充てることもできます。
算定要件は、以下の要件をすべて満たしている必要があります。
- 処遇改善加算の(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること
- 加算額の2/3は介護職員等のベースアップ(※)に使用すること
※基本給や手当など、毎月支払われる賃金の引き上げ
介護職員が処遇改善加算を受給するまでの流れ
事業所が処遇改善加算の申請をしてから、介護職員が受給するまでの流れは次のとおりです。
- 介護職員処遇改善計画書を作成する
- 介護職員処遇改善加算を申請する
- 計画した内容を実施する
- 介護職員処遇改善加算の実績報告書を提出する
それぞれ、簡単に解説します。
介護職員処遇改善計画書を作成する
介護職員処遇改善加算を申請するためには、まず計画書を作成しなければなりません。
計画書は厚生労働省が公開しているフォーマットにしたがって記載します。
処遇改善加算の種類、区分に応じて記載する形式になっているので、取得したい加算の算定要件を満たすように計画を作成してください。
介護職員処遇改善加算を申請する
介護職員処遇改善加算を取得するためには申請が必要です。
必要書類をそろえて都道府県や市区町村など、自治体の所管部署へ提出します。
申請には作成した計画書の他に、介護職員処遇改善加算に係る体制等に関する届出が必要です。
必要書類や提出先は各自治体で異なる場合があるため、詳細をホームページなどで確認しておきましょう。
計画した内容を実施する
介護職員処遇改善計画書に記載した内容を、計画どおりに実施します。
算定要件を満たせるように、以下の取り組みを行いましょう。
- 介護職員等の賃金改善
- 介護職員のキャリアアップ
- 職場環境等の改善
ここで介護職員は、賃金改善の形で処遇改善加算を受給します。
なお、介護職員処遇改善加算の算定が開始されるのは、申請が受理されてから2か月後。
入金は算定月からさらに2か月後です。
介護職員処遇改善加算の実績報告書を提出する
介護職員処遇改善加算を受けた事業所は、年次で実績報告書の提出が必要です。
実際に、提出した計画どおりの運用ができているかを自治体に報告する義務があります。
提出しなかったり、実績が算定要件を満たしていなかったりした場合は、返還になるおそれがあるので要注意です。
処遇改善加算の自動化が求められる背景
処遇改善加算は事務処理の自動化を求める声があります。
本章では、自動化が求められる背景について解説します。
頻繁な改定が本業務遂行の妨げに
処遇改善加算は、平成24年度に創設されて以降は、頻繁に改定が行なわれました。
創設以降の主な改定内容は次のとおりです。
年度 | 改定内容 |
平成24年度 | ・介護職員処遇改善交付金を介護報酬に移行 ・介護サービス事業者等は賃金改善水準を維持 |
平成27年度 | ・処遇改善加算拡充 ・介護職員の労働環境整備を強化 |
平成29年度 | ・更なる処遇改善加算拡充 ・キャリアアップの仕組みを促進 |
平成30年度 | ・処遇改善加算(Ⅳ)及び(Ⅴ)経過措置期間設定 ・介護医療院サービスを対象に追加 ・特定加算創設 |
令和元年度 | ・特定加算追加、経験・技能のある介護職員に重点化 ・他の職種の処遇改善も一定程度認める |
令和3年度 | ・処遇改善加算(Ⅳ)及び(Ⅴ)経過措置期間廃止 ・特定加算の賃金改善額の配分見直し |
令和4年度 | ・ベースアップ等加算創設 ・他の職種の処遇改善柔軟な運用認可 |
令和5年度 | 事務負担軽減のため様式簡素化 |
このように、頻繁な改定に合わせて業務も見直すことが求められたため、本業務の妨げになっていました。
そのため、システムを活用した処遇改善加算改定への対応が求められています。
算出方法の複雑さによる業務負担増
処遇改善加算の算出方法は複雑です。
例えば、以下のように変動部分を考慮した計算が必要です。
- キャリアパス要件等の適合状況によって変わる加算率
- サービス区分ごとに設定されている加算率
- ベースアップ等支援加算の加算率
また、報告書類の提出も多く、事務処理に多くの手間がかかります。
介護職員の増減があるたびに資料の修正や届出も発生するため、ヒューマンエラーも起きやすくなるでしょう。
そのため、ヒューマンエラーの防止を含む業務負担の軽減が重要な課題と認識され、ソフトによる自動化を求める声は多くなっています。
処遇改善加算ソフトに必要な機能
前章で解説したように、処遇改善加算は複雑な運用が求められるため、事務処理の負担が大きくなります。
事務処理の負担を軽減するためには、請求ソフトなどの活用が効果的です。
本章では、処遇改善加算ソフトに必要な機能について解説します。
処遇改善加算の見込額算出
介護職員処遇改善計画では、処遇改善加算の見込額の記載が必要です。
見込額を算出するには、それぞれの加算要件を満たした場合の加算額を加味しなければなりません。
そのため、算出に必要な情報を入力するだけで見込額を算出してくれる機能があれば重宝するでしょう。
処遇改善の計画書作成
計画書作成機能は、必要情報を入力するだけで規定どおりの計画書を自動生成する機能です。
専用のフォーマットが用意されているため、記入漏れや入力ミスを削減できます。
これにより、手戻り作業を防止でき、従来よりも短時間で計画書を作成できるでしょう。
処遇改善手当の自動計算
介護職員などに支給する手当の自動計算も求められる機能の一つでしょう。
手当を支給する頻度や配分のルールなどをあらかじめ登録しておき、ルールにしたがって支給額を自動計算できれば煩雑な計算に時間を取られずに済みます。
処遇改善加算の報告書作成
処遇改善加算の報告書も、計画書と並んで毎年提出義務のある資料です。
報告書作成の機能では、計画書の情報を連携し該当箇所への自動転機が可能です。
手作業ですべてを入力する手間を省けるため、効率的に資料を作成できます。
また、介護職員などに支給した手当などの情報をもとに実績値を自動計算できるため、報告書を作成する業務の負担はかなり軽減されます。
自施設に合った処遇改善加算対応ソフトの選定ポイント
ここでは、自施設にあった処遇改善加算対応ソフトの選び方を紹介します。
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介護の種類や規模が合っているか
介護サービスの種類や施設の規模によって、必要な機能や使い勝手は変わります。
そのため、自施設のサービス内容や施設の規模に合わせてソフトを選ぶのが重要です。
例えば、複数の施設がある場合は、すべての施設のデータを一元管理できるソフトを選ぶのが望ましいでしょう。
クラウド型のソフトであれば場所の制約なく利用できるため、複数の施設で利用するのに適しています。
一つの施設だけで利用し、必要な機能も限られているなら、パソコンにインストールするタイプのソフトでも問題ないでしょう。
ソフトに投資できるコストも踏まえて、自施設に適したソフトを選んでください。
使い勝手が良く業務が効率化できるか
処遇改善加算は算出方法が複雑で業務の負担が大きいため、対応するソフトを選ぶ際には使い勝手の良さをチェックしておくことが重要です。
具体的には、「どの作業を自動化できるのか」や「入力方法がわかりやすく、ミスを防止できるのか」などを確認しましょう。
また、ソフトやシステムに馴染みのないスタッフが多い場合は、シンプルな仕様のものを選定するのがおすすめです。
短期間で習得できるうえに、抵抗感を抱きにくく、スムーズに現場へ定着させられるためです。
いくつかの候補に絞り込み、使い勝手を検証するために必要な情報を、積極的に収集することをおすすめします。
セキュリティーが考慮されているか
クラウド型のソフトは、場所の制約がなくどこでも使える点がメリットです。
しかしその反面、不正アクセスや個人情報漏洩などのセキュリティーリスクを考慮しておく必要があります。
ログイン時の認証方法や不正アクセスの検出機能など、ソフトを安全に利用するための仕組みが整備されているかを確認しましょう。
サポートが充実しているか
ソフトは業務の負担を軽減し、効率化するために導入します。
しかし、急なトラブルに見舞われたときにスピーディーなサポートが得られないと、かえって業務の負担が増えてしまうことになりかねません。
そのため、カスタマーサポートが充実していることは非常に重要です。
ソフトを導入する前によく確認しておきましょう。
文字通り介護スタッフの処遇改善のために創設されたこと自体は良いことでしたが、どんどん複雑になっていってしまいその事務負担が問題となっています。介護職員処遇改善加算計画書や実績報告書作成の時期になると胃が痛くなる介護事業経営者も多いのではないでしょうか。こうした事務作業の負荷が大きいことは国も問題視しており、審議会でも審議されています(2023年10月現在)。本当は介護保険の基本報酬に処遇改善加算分も包括するのが一番わかりやすいのですが、社会保障費抑制したい国の思惑が働いた結果、現在の形になってしまった側面もあります。このように目まぐるしく変化を繰り返している加算でもあるので、介護ソフトを選定する際には、処遇改善加算を含め、法改正への柔軟な対応力というのも重要な要素となるでしょう。
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- 小規模多機能支援システムSP
- 有料老人ホーム管理システムSP
- サービス付き高齢者向け住宅管理システムSP…etc
これらのソリューションを活用していただくことで、業務負担の軽減やデータ共有の促進など、事業所様が抱える課題の解消が期待できます。
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まとめ
介護職員処遇改善加算は創設以来、頻繁に改定がおこなわれ、算定条件や算出ルールも複雑です。
そのため、事務処理の負担が増大していました。
近年では事務処理の負担軽減に向けて改善も進められていますが、まだ業務の負担が大きいことには変わりありません。
業務の負担を減らして効率的に運用していくために欠かせないのが処遇改善加算対応ソフトです。
ぜひとも導入をご検討ください。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。