介護施設のICT化|システム導入のメリットや運用フローを解説
2023.11.08
介護施設で利用者の情報の管理や、ケアプランの作成・管理、請求業務など介護施設の業務をサポートするのが介護ソフトです。
実際に介護施設にシステムを導入することでどのような変化が訪れるのでしょうか。
本記事では、介護施設にシステムを導入するメリットや導入後の運用フローについて解説します。
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目次
介護施設のシステム化の遅れとその背景
介護業界において、喫緊の課題としてあげられているのが「2025年問題」です。
下図は、厚生労働省が発表した介護職員の必要数の表です。
参照:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
2025年に介護従事者は32万人不足すると言われており、現状の介護サービスを提供することがかなり困難な状況を迎えることが予測されます。
2025年に向けて人材の確保を急いでも、少子高齢化の進んだ日本では、人材確保にも限界があります。
そこで必要とされているのが、介護業界におけるシステム化です。
今までの業務を効率化し、同じ人員でもより多くの介護サービスを提供することができることで注目されています。
しかしながら、実際、介護業界におけるシステム化は、医療業界などと比べると導入が遅れている傾向にあります。
介護業界にはシステム化への強い抵抗感がある
介護業界では、職員の高齢化も進んでいるため、システムの導入に積極的ではありません。
事業所の運営者においても、パソコン操作に苦手意識を持つ方が多く、不安から消極的になってしまうのです。
現場のスタッフ自身がシステムの導入に抵抗を感じる、運営者もシステム導入を強く推進できる知識がない、この2つの要素がシステム化を遅らせている要因です。
また、介護職員の日々の業務がすでに逼迫している状況で、システムの導入に手が回らない点もシステム化を進めれない要因につながっています。
小規模事業者では予算確保が困難という背景も
介護施設へのシステム導入が遅れているのには、業界全体の高齢化だけが原因ではありません。
小規模~中規模の施設が多いことも、予算の確保が困難になり、システム化が進みにくい要因となっています。
介護システムの導入には、イニシャルコスト・ランニングコストともに多少なりとも大きな費用がかかります。
業務の効率化によって職員の残業時間を減らせたり、ペーパーレス化によるコスト削減が可能だったりしますがなどが、その費用対効果は見えにくいことも事実です。
目に見える「費用」の予算確保が困難なことも、システム化を遅らせているのです。
介護施設においてシステムを導入するメリット
上記では、介護施設へのシステム導入がなぜ遅れているのか、その要因について見てきました。
実際に、今システムの導入を検討している事業所の運営者様も、心当たりがあったのではないでしょうか。
介護施設においてシステム化をするメリットを明確に知ることで、より前向きに検討できるかもしれません。
介護施設にシステムを導入する大きなメリットには、以下の3つがあげられます。
- 情報共有がスムーズ・正確になる
- 業務負担の削減になる
- ケアサービスの向上につながる
システム化に抵抗を感じる以上にメリットがあることも見ていきましょう。
情報共有がスムーズ・正確になる
介護施設システムを導入した場合、利用者の情報を一度入力すると、利用者情報が最新に反映されます。
例えば介護施設だけでなく、医療システムや、ケアマネージャーの使用する居宅介護支援システムなどと連携している場合には、介護施設で入力した記録が各所へ共有できます。
常に最新情報が伝わるだけでなく、自らの状態把握が困難である利用者の正確な情報を伝えることも可能です。
業務負担の削減になる
請求業務は介護実績から自動計算されるので、毎月の大きな負担となっていたレセプト業務の負担が軽減されます。
また、ケアマネージャーから送られてくるケアプランは、自動で介護計画に反映されます。
これにより、書類作成などの事務作業をお幅に効率化できます。
連絡機能(メモ機能)などを使用し、職員全体への連絡事項を共有することができるので、施設職員に知らせたいことがある時には、わざわざ文書を作成しなくてもシステム上で共有が可能です。
また、課題として挙げられやすい「利用者の家族とのコミュニケーション」も、システム化で円滑になります。
介護実績の入力のみで家族への連絡も可能なシステムであれば、入力作業は一度で済みます。
ケアサービスの向上につながる
利用者の家族とのコミュニケーションが円滑化することや、常に最新の様子を反映できることは、ケアサービスの向上につながっていきます。
利用者の状態が変化した時に、家族や職員同士で情報共有できるため、常に利用者の状態に合わせた介護サービスを提供できるのです。
また、業務が効率化できることでスタッフにゆとりが生まれ、より前向きな姿勢で利用者のケアをできることもサービスの向上につながります。
介護施設に導入するシステムの比較・検討ポイント
システムがたくさんあって「何を基準に選べば良いのか、わからない」ということもあるでしょう。
ここでは、介護ソフトを選ぶ基準について紹介します。
これから介護ソフトを選ぶ事業所様はぜひ参考にしてみてください。
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対応する業務内容が十分か
介護システムは大きく以下の2つのタイプがあります。
- 大規模な事業所に対応できるもの
- 実績記録・請求業務に特化したもの
大規模な事業所に対応できるものでは、同一事業所内で医療機関を運営している場合に、電子カルテとの連携が可能なタイプもあります。
1人の利用者に対して、医療と介護両面から最新の情報をもとにケアをできるので、サービスの質を向上させられるでしょう。
しかし、中・小規模の福祉施設では、医療機関へのシステム連携が不要な場合もあります。
特に小規模のデイサービス事業所などは、記録と請求業務の機能だけで十分ということもあるでしょう。
こうした場合には、実績記録・請求業務に特化したものがおすすめです。
まずは、自施設の規模に合ったシステムを絞ることで、選択肢がわかりやすくなります。
導入前のフォローやサポート体制
導入前後のフォローやサポート体制の有無も、システム選びには重要なポイントです。
導入支援が充実したベンダー企業であれば、導入・定着・運用を一貫してサポートしてもらえます。
これまでにシステムを導入した経験がなかったり、ITへの抵抗感が強かったりする場合は、導入支援を検討しましょう。
導入後のサポートにも注目
導入前だけでなく、導入後のサポート体制も確認してください。
法制度の改正があった場合に、迅速に対応してもらえるのかも重要なポイントです。
なかには、アップデートのたびに追加料金が発生する製品もあるため、対応スピード・追加料金の有無を確認しておきましょう。
使用する機器の選択が可能か
システムの使用可能な機器が、自施設に即しているかも選定基準の1つです。
介護施設のシステムに主に使用される機器としては、主に以下4つの機器があります。
- デスクトップ
- ノートパソコン
- タブレット
- スマートフォン
それぞれの機器について厚生労働省の資料では、以下のように特徴をまとめています。
デスクトップ | ノートパソコン | タブレット | スマートフォン | |
可動性・即時性 | × 持ち運びができないため、 即時に情報を確認・記録できない | △ ・持ち運びは可能だが、重さの制約がある ・情報確認・記録の操作が早くできる | 〇 ・持ち運びが容易 ・即時に情報確認・記録ができる | 〇 ・持ち運びがもっとも簡単 ・即時に情報確認・記録ができる |
画面の見やすさ | 〇 大きい画面で確認が可能である | 〇 比較的大きな画面で確認ができる | △ スマートフォンより画面は大きいが、パソコンより見やすさは劣る | × もっとも画面が小さい |
操作のしやすさ | △ マウスやキーボード等での操作が必要 | △ マウスやキーボード等での操作が必要 | 〇 タッチパネルでの操作が可能なものが多い | 〇 タッチパネルでの操作が可能なものが多い |
おすすめのサービス種類・業務 | ・事務室でおこなわれる業務・複数の記録を一目で確認する業務 | ・事務室でおこなわれる業務・外出先でおこなわれる業務のうち、複数の記録の確認など、画面の見やすさを必要とする業務 | ・訪問サービス、ケアマネなど外出先での情報確認・記録の業務・施設内で持ち運びしながら行う業務 | ・訪問サービス、ケアマネなど外出先での情報確認・記録の業務・施設内で持ち運びしながら行う業務や連絡など |
タブレット端末やスマートフォン端末の使用には、台数の制限があったり、追加する場合には別に料金がかかることがあります。
しかし、訪問サービスを行っている、施設内で利用者の記録をその場で記録する、という場合には、タブレットやスマートフォンなど持ち運びしやすい端末があると便利です。
必要となる台数をあらかじめイメージして、必要台数で見積もりをとっておきましょう。
参照:厚生労働省「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」
システムの種類が事業所に適しているか
介護ソフトの提供形態は主に次の2種類にわかれます。
- クラウド型(ASP型)
- パッケージ型(オンプレミス型又はインストール型、サーバ設置型)
クラウド型とは、インターネットを通じて利用する形態です。
インターネットに接続できる環境であれば、どこでも操作が可能です。
データはシステム会社のサーバに保存されるので、災害などのトラブル時にもデータの破損リスクが少ない、復旧が早いというメリットもあります。
また、パッケージ型に比べると初期費用が抑えられることも、クラウド型の大きな特徴です。
一方で、パッケージ型(オンプレミス型)とは、パソコンに介護ソフトをインストールし、施設内でサーバや通信回線を構築し、運用する形態です。
施設独自の回線を使用するので、インターネットトラブルや情報漏洩のリスクが下がります。
パッケージ型のなかでも、サーバ設置型に分類されるタイプでは、設定によって施設の外部からでもアクセスできます。
ただ、基本的にはソフトをインストールした端末でしか使用できないので、使用台数分のパソコンやタブレット機器を揃い直さなければなりません。
また、自施設内でサーバを管理しなければならず、運用面の負担が大きい傾向にあります。
システムの形態は、施設内外でのアクセスの有無や、システム管理を担当できる人材の有無から決めるといいでしょう。
【厚生労働省が発表】介護向けシステムの先進機能の活用例
これから新規で介護ソフトを導入する場合には、下記の先進機能の活用も視野に入れましょう。
- 科学的介護情報システム(LIFE)への連携
- ケアプランデータ連携システムの活用
- 見守りセンサーなどとの連携(IoT化)
ここでは、厚生労働省の資料をもとに上記機能の活用例を紹介します。
参照:厚生労働省「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」
科学的介護情報システム(LIFE)への連携
科学的介護情報システム(LIFE)への登録機能の有無は、確認必須です。
算定基準にもLIFEへの申請の有無は大きく影響してきます。
今後、自施設の経営をより伸ばしていきたいのであれば、LIFEへの登録は間違いなく必要です。
LIFEに対応している介護ソフトであれば、介護実績から自動で申請様式のCSVファイルへダウンロードし、申請が可能です。
介護実績からLIFEの申請様式へ転記する手間も省けます。
これからLIFEへの登録を検討しているのであれば、LIFEへの対応は条件に入れておくといいでしょう。
ケアプランデータ連携システムの活用
2023年4月から開始されたケアプランデータ連携システムの活用も、ケアマネージャーとのスムーズなやりとりを可能にします。
これまでケアマネージャーが作成するケアプランは、メールやファックス、郵送で共有されてきました。
また、介護施設での介護実績も同様に、提供票を作成し、共有する手間がかかっていました。
ケアマネージャーが使用するシステムと、介護ソフトの双方がケアプランデータ連携システムに対応していれば、ケアプランや介護実績をシステム上でやりとりできます。
タイムリーに情報共有ができるので、常に利用者の状況に合わせたケアが可能です。
また、すべてシステム上でやりとりできるので、ペーパーレス化にもつながります。
見守りセンサーなどとの連携(IoT化)
介護業界におけるICT化とともに、注目されているのがIoT化です。
例えば、見守りセンサーのような介護ロボットとシステムを連携すれば、利用者に変化があればシステム上でお知らせしてもらえます。
最近では、「排便センサー」と介護ソフトが連携している事例なども出てきました。
排泄時間や排便の色などが自動で記録されるので、利用者の記憶頼りだった部分を、より正確に把握することが可能です。
見守りセンサーはトラブルの回避だけでなく、バイタルデータの収集にもつながります。
多くのデータを収集・分析することで、より適切な介護サービスを提供できるようになるでしょう。
残念ながら介護業界のICTリテラシーはかなり低く「タブレット端末を導入しただけで退職者が複数名でた」という笑えない話を耳にすることもしばしばです。システム導入によって、確かに一時的に現場スタッフの業務負荷が増える可能性があることは否定できません。しかしながら、人口が減少フェイズに突入した日本では、人材不足は待ったなしで加速していき、改善の見込みもないのが現状なのです。こういった現状にいち早く対応し、ICT化を進め業務整理をした結果、業務時間を33%削減することに成功した施設もあります。換言すれば、それだけ“見直し可能な業務がある”ということでもあります。現場にとってもICT化は間違いなくメリットがあります。未来を見据えて早期に取り組んでいくことをお勧めいたします。
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ワイズマンの介護ソフトの特徴
ワイズマンの介護ソフトは、多くの事業所で取り入れられてきた経験から、幅広い介護サービスに対応した機能を搭載しています。
パッケージ型とクラウド型の両方を展開しているので、施設のサービス形態に合わせたプランを選べます。
ここでは、ワイズマンの介護ソフトの特徴を紹介します。
LIFEへの申請にも対応
介護保険請求が処理できることはもちろん、LIFEの様式入力や出力にも対応しています。
上記でも述べていましたが、LIFEへの申請は様式への入力が大きな負担となり、実施できていない事業所も多くおられます。
介護実績の入力からLIFEの申請に対応しているので、負担を少なくしつつ、申請が可能です。
幅広い介護施設で導入・連携が可能
電子カルテシステムなど医療向けの製品も展開しているため、医療機関との連携を図ることも可能です。
同一法人内に介護施設と医療機関を設けている場合、同一利用者に対しての情報共有がタイムリーに行えます。
異変が起きた時に医師へすぐに相談ができることは、現場スタッフや利用者、その家族にも大きな安心感を与えます。
また、医師から利用者の状態を正確に共有されることで、介護サービスの向上にもつながるでしょう。
まとめ
本記事では、介護施設へのシステム導入について解説してきました。
システムの選び方を間違えなければ、今後長く、働きやすい環境を作ってくれることでしょう。
反対に、自施設に合っていないシステムを導入してしまえば、スタッフの業務の妨げになってしまうばかりか、意欲の低下、さらに非効率的な業務によってサービスの低下にもつながります。
システムの導入・運用には大きな費用と労力がかかりますが、今後の介護需要を見越して、ぜひ本格的に検討を進めてみてください。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。