介護DXの進め方とは?直面する課題・フレームワーク・事例を紹介

2023.12.06

昨今さまざまな業界で話題になっているDXは、介護業界でも注目されています。
実際、最近はDXに積極的に取り組む介護施設も増加しました。

他方で、実際にDXに着手しようにも、「何から手をつけたらいいかわからない」「どのように進めれば上手くいくのだろう」と感じる方も多いのではないでしょうか。

本記事では介護DXの進め方について、経済産業省の資料を基に解説します。
DXの推進方法でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

介護DXとは?

経済産業省によると、DXは以下のように定義されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

参照元:デジタルガバナンス・コード2.0|経済産業省

本章では、介護DXの基礎知識として、近年推進が求められている理由と直面する課題を紹介します。

介護DXが求められている理由

介護DXが求められる理由は、深刻な人手不足を解消するためです。
高齢化が進む昨今の日本では、介護需要が増加しています。

一方、介護サービスを提供するスタッフの数は不足し、多くの施設が慢性的な人手不足に陥っています
また、日本は労働人口が減少傾向にあるため、新たに人材を雇用するのも困難でしょう。

そこで注目されるのが、デジタル技術やデータ活用によって変革をもたらすDXです。
具体的には、業務プロセスや組織体制を変革し、業務効率化やサービスの品質向上を目指す取り組みです。

介護DXによって業務効率を最大化できれば、従来よりも少ない人員でサービスを提供できます。
今後さらに人手不足が深刻化する介護業界では、介護DXの推進が不可欠と言えます。

介護業界が直面するDXの課題

介護DXにおいて、多くの施設が直面する課題は、「職員のスキル不足とDXノウハウの不足」です。

依然としてアナログな作業を行っている介護施設は珍しくありません。
デジタル化が進んでいない現場だとスタッフのITスキルにバラつきが生まれやすく、デジタル機器や介護システムなどを導入しても使いこなせない恐れがあります。

また、DXのノウハウが不足している点も大きな課題です
介護業界では、法人内にデジタル技術やデータ活用に精通した人材が在籍していないケースがほとんどです。

DXを進めようにも、具体的な進め方や適切なソリューションを把握しづらく、DX推進の停滞を引き起こしています。
しかし、人手不足や介護需要が増加する昨今では、介護DXの推進が不可欠です。

施設運営者や管理者が積極的に情報を収集し、現場の介護スタッフと一丸になってDXを推進することが重要です。

経済産業省が示す介護DXに向けた成功パターン

一般的に、「DX=デジタル技術・ICTの導入」と認識している方が多く存在します
しかし厳密にいうと、DXは導入したデジタル技術やICTを活用し、業務プロセスや組織に変革をもたらすことです。
介護DXは、一朝一夕で実現できるものではなく、段階的に推進する必要があります。

経済産業省の資料では、介護DXに向けた成功パターンとして、以下3つのステップが示されています。

  • ステップ1.デジタイゼーション
  • ステップ2.デジタライゼーション
  • ステップ3.DX(デジタルトランスフォーメーション)

参照元:DXレポート2中間取りまとめ|経済産業省

それぞれのステップを踏まえて取り組めば、介護DXが成功する可能性が高まります。

ステップ1.デジタイゼーション

デジタイゼーションとは「アナログデータ・物理データのデジタルデータ化」を意味する用語です。
アナログ管理からの脱却が主目的であり、介護DXの推進プロジェクトにおける第一ステップとも言えます。

介護業界の場合、紙媒体の介護記録や各種請求書などをデジタル化することが、デジタイゼーションにあたります。
すでに、介護ソフトや請求ソフトを導入している施設は、DXの第一ステップを達成している状態です。

一方、ICTやデジタル技術を導入していない場合は、まずデジタイゼーションに着手しましょう。
デジタイゼーションは、次に紹介するデジタライゼーションやDXに比べて実現難易度が低いため、比較的達成しやすいとされています。

ステップ2.デジタライゼーション

デジタライゼーションは、個別の業務プロセスのデジタル化を意味します。
介護業務において、デジタライゼーションは利用者のケアや見守り業務などで実践できる取り組みです。

デジタライゼーションの段階では、ICTを積極的に導入し、介護業務の効率化を図ります。
例えば計測した利用者のバイタルを直接記録に反映したり、ビデオカメラやベッドセンサーで見守り業務の負担を減らしたりするような取り組みが代表例です。

デジタライゼーションはDXを本格的に推進するフェーズです。
他方で業務フローを大きく変更させる可能性があるため、スタッフと業務フローを入念に検討する必要があります。

ステップ3.デジタルトランスフォーメーション

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタイゼーションやデジタライゼーションを施設全体で実践し、定着化させる取り組みです。

デジタイゼーションやデジタライゼーションは特定の業務に絞った限定的な取り組みですが、DXは全社的な取り組みであり、デジタル化による組織全体の変革を目的としています。

DXは介護施設にさまざまな恩恵をもたらすものです。
業務の効率化はスタッフが利用者へのケアに集中しやすい環境を作り、最適なケアを実践する機会を増やします。

加えて施設が提供するサービスの質も向上するため、利用者からのより高い支持を得るきっかけにもなるでしょう。

基本的な介護DXの進め方6手順

以下が、基本的な介護DXの進め方です。

  • 手順1.介護DXの目的・戦略を設定
  • 手順2.介護DXの推進体制を整備
  • 手順3.現状の把握と課題の明確化
  • 手順4.介護DXの優先順位を決定
  • 手順5.優先箇所のデジタル化・ICT化
  • 手順6.効果検証・改善

介護DXは一過性の取り組みではないため、実際には上記の流れを繰り返し行います。

手順1.介護DXの目的・戦略を設定

まずは介護DXを実施する目的・戦略を設定しましょう。

DXは施設全体で行うため、経営陣が明確な意思を持って目的を提示しなければスタッフを巻き込めません。
個々のスタッフが理解できるように、わかりやすく正確な目的を提示するように心がけましょう。

また、目的を提示する際は、DXがどのような戦略となるかも明示しましょう。
スタッフ全員が介護DXの全体像を理解していれば、協力してもらいやすくなります。

手順2.介護DXの推進体制を整備

介護DXは施設全体を巻き込んで実行されるため、推進体制の整備が欠かせません。
推進チームは、経営陣を上部に据えたトップダウン型にすることが大切です。

DXの推進過程では、重要度の高い意思決定が何度も繰り返されるため、多くの決定権を持つ人間がトップに立たなければ、プロジェクトの実行スピードが鈍化する恐れがあります。
また、参加するメンバーは経営陣だけでなく、実際に利用者のケアを行うスタッフも加えると、現場のニーズを反映した施策を実施しやすくなります。

もし人員が少なく、チームの結成が難しい場合は第三者の協力を得る方法もおすすめです。
IT技術を持つ外部の専門家の力を借りれば、ノウハウがなくてもDXに取り組みやすくなります。

ただし、DXの統括は必ず自施設のスタッフが行うようにしましょう。
DXに関わるすべての業務を外部に委託すると、現場の意向が反映されにくくなる恐れがあります。

手順3.現状の把握と課題の明確化

目的・戦略を設定し、推進体制を整えたら現状を把握し、課題を明確化するフェーズに移ります。
現状把握を実施する際は、業務フローや使用しているシステムなど、自施設の現状を徹底的に洗い出しましょう。

現状を適切に把握できれば、解決すべき課題が明確になります。
この際、並行してそれぞれの課題の解決策も検討すると、戦略を達成する道筋をより具体化できるでしょう。

手順4.介護DXの優先順位を決定

現状を把握し、課題を明確化していくと、実施すべき施策が増えていきます。
しかし、すべての施策は一斉に実行できないため、必ず優先順位を決定しましょう。

優先順位は各施策にかかるコスト・人員・時間などを加味して決定します。
また、DX化によって業務にどれだけの影響を与えるかも正確に把握する必要があります。

どれだけ効果が期待できる施策でも、いきなり大きな変更を実施すると、スタッフはついていけません。
加えて急な変更により、かえって負担が増大するリスクもあります。

そのため、施策にかかるリソースと影響範囲を加味しながら、施策の優先順位を設定しましょう。

手順5.優先箇所のデジタル化・ICT化

優先順位を決定したら、実際にツールを現場に導入し、運用を開始します。

DXで新たにツールを導入する際は、必ず運用方法を策定し、従業員と共有しましょう。
いくら最先端のツールでも、スタッフが使い慣れていないと本来の効果を得られず、かえって負担を増やす恐れがあります。

もし自施設のスタッフのITスキルが低い場合は、デジタル化・ICT化の前に研修やトライアル期間を設けましょう。
また、大量のツールを一気に導入せず、段階的に必要なツールだけ投入すれば、スタッフの適応度に合わせてデジタル化・ICT化を進められます。

手順6.効果検証・改善

デジタル化・ICT化を実践したら、実際の効果を検証し、改善を実施しましょう。

そもそもDXはデジタル化・ICT化を実践して終了するものではありません。
実施した施策が定着し、効果が最大化されて初めて達成するものです。

いち早く効果を発揮させたり、次の施策に移ったりするためにも、PDCAを回し施策の定着・最適化を図りましょう。
なお、実施した当施策が完了したら、次に優先度の高い施策へ移行して実行・検証・改善のサイクルを回します。

徐々に施策の範囲を広げ、当初設定したDX戦略の実現を目指します。

介護DXに向けた3つの取り組み事例

昨今、介護DXに取り組む施設は増加しており、施策が成功したケースも多数報告されるようになりました。
以下は、介護DXの一環としてデジタル技術を導入した事例です。

  • 特別養護老人ホーム 砧ホーム
  • 特別養護老人ホーム 船橋笑寿苑
  • 特別養護老人ホーム フロース東糀谷

施策の方向性や実施方法の参考になるため、ぜひご覧ください。

特別養護老人ホーム 砧ホーム

砧ホームではスタッフの身体能力を補助するマッスルスーツを導入し、実際に現場で運用しています。
マッスルスーツの導入によって、砧ホームでは利用者の排泄介助や重いものの持ち運びなどの業務の負担軽減に成功しました。

砧ホームの事例では、マッスルスーツの活用を定着させた点も注目されています。
砧ホームはマッスルスーツの導入に際し、スタッフが効果を体感できるように研修の機会を設けています。

現在も年に1回は製造元の担当者を呼んでレクチャーを開催し、使用方法を確認するなど、現場への定着を徹底しています。
この取り組みにより、マッスルスーツの導入に抵抗感を持つスタッフも積極的に活用するようになりました。

参照元:介護ロボット導入活用事例集2020|厚生労働省

特別養護老人ホーム 船橋笑寿苑

船橋笑寿苑は入浴を補助する介護ロボットであるWLCを導入しました。
その結果、入浴介助にかかる負担の大幅な軽減に成功しています。

なお、船橋笑寿苑はWLCを運用する過程で利用者が安心して入浴できる方法を発見し、介助体制を変更するなど、業務フローの再構成を実践しています。

船橋笑寿苑の取り組みは、単純なツールの導入に終わらず、スタッフや利用者の立場で運用方法のブラッシュアップを重ねた成果です。
実際にWLCを導入してからも積極的にPDCAサイクルを回した結果、船橋笑寿苑は現場の生産性向上を実現しています。

参照元:介護ロボット導入活用事例集2020|厚生労働省

特別養護老人ホーム フロース東糀谷

フロース東糀谷は利用者の見守り業務効率化のために、排泄予測デバイスや見守りセンサーなどを導入しました。
フロース東糀谷が導入したデバイスは見守り業務だけでなく、記録や分析なども自動化できるため、さまざまな事務作業の効率化を実現しています。

加えて、フロース東糀谷はインカムやタブレットなどのデバイス機器を配布し、介護業務の効率化を図っています。
フロース東糀谷は施策の実施に際し、経営陣だけでなく、スタッフや協力するメーカーと一体になって施策を推進しました。

ツールを導入した効果や、活用方法を繰り返し検証し、施策の効果を高めています。

参照元:介護ロボット導入活用事例集2020|厚生労働省

介護DXを成功させるためのポイント

介護DXを成功させるなら、以下のようなポイントに注意しましょう。

  • 介護DXの戦略は短期的・長期的な2つの視点で設定する
  • DX推進では介護スタッフの協力を得る
  • デジタル化・ICT化で終わらせない

どのポイントも介護DXを成功させるうえで重要なものです。
実践する際は必ず意識しましょう。

介護DXの戦略は短期的・長期的な2つの視点で設定する

介護DXの戦略は、短期的・長期的な2つの視点で設定しましょう。
DXは施設全体を巻き込む施策であるため、各取り組みを見据える短期的な視点だけでなく、プロジェクト全体を俯瞰する長期的な視点も不可欠です。

仮に短期的な視点のみで進めた場合、ツールの導入のみで終わってしまい、業務フローの部分的な革新しかできません。
これでは施設全体に変革をもたらす介護DXには至りません。

このような事態を避けるなら、戦略は短期的・長期的な視点で策定し、段階的なプロセスの遂行を目指しましょう。

なお、DXはなるべくスモールスタートで実施する必要があります。
小さな改善を実施していけば、大きな改善の実施に必要なノウハウが蓄積され、最終的な目標が達成される可能性が高まります。

DX推進では介護スタッフの協力を得る

介護DXの推進において、介護スタッフの協力は欠かせません。
部分的な業務の改善であればトップダウンのみで実行できますが、DXのように業務プロセスを変革する取り組みは、現場で働くスタッフの協力がなければ成し遂げられません。

もし介護スタッフの協力がない状態でDXを進めると、現場の業務ニーズとズレたプロセスを再構築したり、導入したツールが現場に浸透しなかったりします。
そのため、スムーズに戦略を進めるうえでも、介護スタッフにDXの目的やビジョンを共有し、協力を得られるようにしましょう。

デジタル化・ICT化で終わらせない

DXはデジタル化・ICT化がゴールではありません。
デジタル化・ICT化はあくまで手段に過ぎず、変革による業務効率化やサービスの質の向上が介護DXのゴールです。

そのため、デジタル化・ICT化で終わりにせず、運用で得た効果を徹底的に検証し、PDCAサイクルを回しましょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

介護業界も少しずつではあるもののICT化は進んでおり、ICT機器を全く使用していない事業所は全体の19.3%というデータもあります(令和4年度「介護労働実態調査」より)。この数字の捉え方は色々あると思いますが、前年の同調査ではこの数値は22.0%であり、やはり改善しているといえるのではないでしょうか。しかし、この数値には落とし穴があり「利用者情報の共有」や「請求」などそれぞれの項目でなんかしらのシステムを導入しているだけで活用とカウントされています。謂わば“点”の施策の可能性も高く、必ずしも全体の業務効率化には繋がっていない現状も浮かび上がります。
システムを活用し“線”として繋げていき“面”として全体を効率化することが介護DXです。今一度全体を俯瞰しシステムの活用を再検討していきましょう。

介護DXを実践するならワイズマンSPがおすすめ

介護DXを実践するなら、ワイズマンの介護システムを活用しましょう。

弊社「ワイズマン」が提供するワイズマンシステムSPは、介護施設内の情報を一括で管理し、データ活用の活性化を促します。
例えば、施設経営に関するあらゆる情報をスムーズに取得・分析でき、根拠に基づいた経営判断を下せます。
また、現場業務では、部門間で生じていた二重入力を削減し、業務の効率化を実現できます。

ワイズマンは顧客の戦略に合わせたトータルサポートも提供しているため、初めて介護DXに取り組む施設でも安心してご利用いただけるでしょう。

手順やポイントを踏まえたうえで介護DXを実践しよう

介護DXは施設の業務効率化や、提供するサービスの質の向上において、重大な役割を果たす施策です。
実際、多くの施設ではデジタル化やICT化を通じてDXを成功させ、多くの成果を獲得しました。

DXはさまざまな成功パターンや、適切な手順があります。
目的や戦略を明確化したうえで、段階ごとに施策を実践するように心がけましょう。

他方で、DXは成功させるうえで気をつけなければならないポイントもあります。
とりわけ短期的・長期的な視点での戦略の策定や、現場で働く介護スタッフの協力は欠かせません。

また、介護DXを実践するなら、ワイズマンの介護システムを活用してみましょう。
ワイズマンが提供する製品なら、業務の改善やサービスの品質向上の実現が期待できます。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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