介護職員の育成計画をどう進める?計画〜実行の手順と3つの取り組みを解説

2024.01.16

人手不足が深刻化する介護業界では、人材育成の重要性が高まっています。
しかし、忙しい日々の業務のなかで育成計画を策定・実行するのは、容易なことではありません。

新人介護職員の早期離職が続くなか、どのようにすればスタッフの定着や成長を促せるのでしょうか。
この記事では、介護職員の育成計画をどのように進めるべきか、計画の策定から実行、効果的な取り組み方法を詳しく解説します。

介護業界における人材育成の重要性

介護業界は深刻な人手不足に直面しており、今後もこの傾向が続くと予測されています。
一方で、厚生労働省のデータによると、今後数年間で介護職員の需要はさらに増加する見込みです。

将来的には、多くの介護施設が人材不足に陥り、事業の継続が困難になる恐れさえあるでしょう。
こうした背景から、介護職員を育成し、定着率やスキルを向上させる取り組みが求められています。

これらを踏まえつつ、本章では、介護業界における人材育成の重要性についてより詳しく紹介します。

介護業界が直面する深刻な人手不足

引用:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について|厚生労働省

厚生労働省のデータによると、2023年度には約233万人、2025年には約243万人、2040年には約280万人もの介護職員が必要になると推計されています。

これは、2019年度の211万人から見ると、顕著な増加です。

介護職員の不足の主な理由としては、「他産業と比較して労働条件が劣ること」、また「同業他社との人材獲得競争の激しさ」が挙げられます。
また、公益財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査」によると、採用が困難であると答えた事業所は、全体の86.6%です。

今やこれらの問題は、介護業界全体の課題として捉えられ、厚生労働省による様々な取り組みが進められています。
例えば、「介護職員の処遇改善」や「多様な人材の確保・育成」など、総合的な介護人材確保対策に取り組んでいます。

しかし、これらの取り組みにもかかわらず、人材不足の解消にはいたっていません。
今や人材不足は、単なる数の問題としてではなく、業務の効率化や人材育成の質向上など、多角的なアプローチが求められています。

参照:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

参照:令和2年度「介護労働実態調査」結果の概要について(pdf)

介護職員の育成は定着率向上・人手不足解決につながる

介護職員の育成は、定着率の向上と人手不足の解決においても重要です。
介護職員が適切な教育を受け、介護現場に必要な知識や技術を習得することは、直接スキルアップに結びつきます。

また、スキルが高まるたびに仕事への意欲が高まり、結果的に職場への定着率の向上が期待できます。
『令和2年度「介護労働実態調査」結果の概要について』によれば、介護職員の人材の不足感は改善傾向にあるようです。

介護職員の離職率も14.9%と全産業の平均離職率15.6%をやや下回る数値であり、介護業界における人材育成の取り組みが一定の成果を上げていることを示唆しています。
このことから介護職員の育成の取り組みの一つ一つは、注目する価値があると言えるでしょう。

介護職員の育成は、単に定着率を高めるだけでなく人手不足を解消し、介護サービスの質の向上にまで直結します。
そのため介護職員の育成は、介護業界にとって非常に重要なポイントであり、今後も継続的な取り組みが求められます。

参照:令和2年度「介護労働実態調査」結果の概要について(pdf)

介護職員の育成計画を策定・実行する手順

介護業界における人材育成は、高齢化社会を支える重要な柱です。
しかし、明確な手順と目的なしに、介護職員の育成計画を進めることはできません。

基本的な介護職員の育成計画を策定・実行する手順は、以下のとおりです。

  • 1.現状の課題を把握し、取り組みの目的を設定
  • 2.必要な工程を洗い出し、育成計画に落とし込む
  • 3.評価基準の設定
  • 4.育成を開始し必要に応じて計画を改善

ここでは、介護職員の育成計画の策定と実行の手順について詳しく解説します。

手順1.課題をもとに、介護職員を育成する目的・目標を設定

介護職員の育成計画では、職員一人ひとりの特徴を踏まえて育成目標を設定します。
育成目標を設定する際は、まず以下のような職員の特徴を明確にしましょう。

  • 年齢
  • 性別
  • 学歴
  • 福祉職の経験

この情報を基に、介護職員が自立して働けるようになるまでの期間を設定し、それに基づいて育成目標を具体化します。

一般的に、訪問介護事業所などでは、新規採用者が数回の同行訪問後に自立するように期待され、完全な自立までには少なくとも1年程度かかると想定されます。

参照「介護事業者における体系的OJTの展開に関する調査研究| 一般社団法人シルバーサービス振興会

手順2.育成に必要な工程を洗い出し、育成計画に落とし込む

育成計画の立案には、明確な育成目標と、それを達成するための具体的なステップが必要です。
計画には、いつ・何を・どのように教え、誰が指導するかを明確に記載します。

ポイントは、重要な事項を優先的に計画へ盛り込むことです。
育成期間には限りがあるため、「何を優先し、何を後回しにするのか」の取捨選択が必要です。

手順3.評価基準の設定

評価基準の設定は、育成計画の進行状況と効果性を測定するために不可欠です。
まず、評価基準は育成計画のステップごとに定められ、例えば1か月、3か月、6か月、9か月、1年後の各段階での具体的な目標を設定します。

この評価基準には、業務に慣れること、正しいサービス提供を心掛けること、継続して利用者を担当することなどが含まれます。
各段階で設定された目標が達成されているかを定期的に評価し、必要に応じて育成計画を調整しましょう。

手順4.介護職員の育成と計画の改善

育成期間中も、必要に応じた計画の改善が必要です。
実際に計画を実行する中で、重点的に指導を必要とする点、計画としては省略できる箇所などの改善点が見えてくるからです。

また、現行する計画の正確な軌道修正のためには、管理者が育成現場を把握することが大切です。
介護職員一人ひとりに即した育成計画を策定・実行できれば、適切なフォローができ、結果的に育成スピードが向上します。

介護職員の育成に役立つ3つの取り組み

介護職員の育成は、どのような取り組みが効果的でしょうか。
ここでは、以下の3点について、介護職員の育成を促進するための主要な取り組みについて解説します。

  1. メンター制度の導入
  2. キャリアパス制度の整備
  3. OJT体制の導入

メンター制度の導入

介護職員の育成において、メンター制度の導入は非常に有効です。
メンター制度とは、経験豊かな先輩職員が指導者となり、新人や若手職員の成長をサポートすることです。

「メンター(指導者)」は、「メンティ(非支援者)」のキャリア形成や職場での悩みを解決するための個別の助言者です。
このような一対一の関係は、双方の信頼関係を深め、非支援者が心配事や不安を率直に打ち明けやすくなります。

また、メンター制度はメンタルヘルスケアの面でも効果があり、職員のストレス軽減やモチベーション向上にも効果的です。
さらに、この制度を通じて、介護スタッフはコミュニケーション能力や人間関係の構築スキルも向上させることができます。

キャリアパス制度の整備

介護職員の育成におけるもう一つの重要な要素は、キャリアパス制度の整備です。
この制度では、職員が自身のキャリアを計画的に築いていくためのサポートが提供されます。

例えば、介護職員がホームヘルパーや介護福祉士などの資格を取得する際の支援が行われます。
資格取得により、職員はより高度な知識と技術を身につけ、自身のキャリアアップにつなげることが可能です。

また、資格取得後には資格手当の支給など、職員のモチベーション向上にも寄与します。
このように、キャリアパス制度の整備によって、職員は自分の将来に向けて具体的な目標を持ち、より積極的にスキルアップに取り組むことができます。

事業所全体としても、資格を持つ職員が増えることは、サービスの質の向上につながるでしょう。

参照:介護に関する入門的研修の実施について

OJT体制の導入

OJT(On-the-Job Training)体制の導入も、介護職員の育成には欠かせません。
新人職員は、実際の職場での業務を通じて、職員が必要な知識やスキルを学びます。

この方法の利点は、理論だけでなく、実践的な経験を通じて学ぶことができる点です。
OJT指導者は、新人職員に対してマンツーマンで指導を行い、業務の取り組み方の統一し、効率的なスキルの習得を支援します。

また、新人職員は、指導者のサポートを受けながら、安心して業務に取り組むことができます。
OJT体制の導入により、新人職員は実際の業務を通じて迅速にスキルを習得し、早期に職場への適応が可能です。

さらに、OJTは職員の評価やフィードバックにも役立ち、個々の職員の成長を促進します。
効果的な新人職員の育成のためにも、入念に計画されたOJT体制の導入をご検討ください。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

2022年全職業の有効求人倍率は1.16でした。それに対して介護関係職種の有効求人倍率は3.71と3倍以上の開きがあります。こうした状況だからこそ、事業者が採用に力を入れるのは当然の流れですし、実際に採用コストは年々上がり続けています。せっかく苦労して採用したスタッフに辞められては困ると、少々目に余るスタッフでも上手く指摘できないという声も聞かれます。本来、『採用』と『育成』は双方重要であるのに、後者の遅れが目立つ施設が増えているのです。育成のポイントは“基準を明確にする”ことです。最低限、新人スタッフに「教える人によって言うことが違う」と言われてしまわないよう、教える内容やタイミングなどをトレーナー間で共有する必要があります。新人教育チェックリストの整備など、指導基準を揃えていきましょう。

介護職員の育成を促すにはICTを活用した業務の標準化が効果的

ICTの活用は、業務の標準化と効率化を実現し、介護職員の育成を間接的に支援します。
例えば、介護記録のデジタル化により、職員は手書きでの記録作業から解放され、より多くの時間を利用者のケアや職員の育成に充てることができます。

また、ICTを活用すれば、業務の標準化にもつながります。
新人職員が従来よりも短期間で業務を習得でき、効率良く育成できるでしょう。

なお、弊社「ワイズマン」は、あらゆる介護施設に対応するシステムを複数提供しております。
請求業務のみならず、介護業務や情報共有を円滑にし、施設の経営を支援します。

まとめ

本記事では、介護業界における人材育成の重要性と、効果的な育成計画の策定から実行に至る手順について詳しく解説してきました。
深刻な人手不足に直面する介護業界において、育成された職員が長く働き続けることは、介護サービスの質の向上に直結します。

また、メンター制度の導入、キャリアパス制度の整備、OJT体制の導入など、具体的な育成の取り組みが紹介されました。
さらに、ICTを活用した業務の標準化が、育成プロセスの効率化に貢献することも強調されています。

この記事が、介護職員の育成計画の策定と実行に役立つ情報を提供し、読者の皆様のお役に立てれば幸いです。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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