【業種別】介護施設における人件費の目安とは?コスト削減のポイントを解説

2024.01.16

介護施設の運営において、人件費は重要なコストです。
とりわけ昨今は最低賃金が更新されるなど、人件費はより無視できないものとなりました。

しかし「介護施設の人件費の目安がどれほどか」「人件費を削減する方法がわからない」と悩む方も多いでしょう。

本記事では、介護施設における人件費の目安を業種別に紹介します。
後半では、コストを削減するポイントも解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

人件費の基礎知識

最初に人件費の基礎知識についておさらいしましょう。
人件費の目安は業界・業種によって異なりますが、基本的な定義は同じです。

本章では人件費の定義に加え、人件費率・人件費の計算方法についても解説します。

人件費とは?

人件費とは、文字通り「人」にかかる費用を指す言葉です。

一般的にイメージされる人件費は給与や賞与ですが、他にも以下のものが含まれます。

  • 給与
  • 賞与
  • 退職金(退職引当金)
  • 役員報酬
  • 法定福利費
  • 福利厚生費
  • 通勤定期代や社宅費など現物支給されるもの

人件費に該当する費用は幅広いため、分析する際は種類を誤らないように注意しなければなりません。
なお、企業によっては研修費や採用にかかった費用などを人件費として計上するケースもあります。

人件費率とは?

人件費率とは、売上に対する人件費の割合を指します。
人件費率は利益を分析するうえで重要な要素です。

人件費率は大きく分けて、以下の2種類があります。

  • 売上高人件費率:売上に対する割合
  • 売上総利益人件費率:利益に対する割合

いずれも、人件費が損益においてどれだけのウエイトを示すかを確認する際に用いられます。

人件費の計算方法

売上高人件費率・売上総利益人件費率それぞれの計算式は以下の通りです。

  • 売上高人件費率=人件費÷売上高×100
  • 売上総利益人件費率=人件費÷売上総利益×100

一般的に人件費率の適正値は、売上高人件費率が13%程度、売上総利益人件費率は50%程度とされています。
ただ、細かな数値は施設の規模や業種によって異なります。

もし適正値を確認するなら、まずは同じ業界や同じ業種の平均値と比較しましょう。

【介護サービス別】収益に占める人件費の割合とは?

介護業界は介護サービスによって、収益を占める人件費の割合が異なります。
そのため、実際に人件費を分析するなら、自施設と同じ介護サービスを参照しなければなりません。

本記事では以下の介護サービスにおける人件費の割合について解説します。

  • 介護老人福祉施設
  • 介護老人保健施設
  • 訪問介護
  • 通所介護

いずれの介護サービスでも特有の傾向があるため、正確に把握しましょう。

参照元:介護事業経営実態調査のデータ分析|厚生労働省老健局

1.介護老人福祉施設

介護老人福祉施設とは「特別養護老人ホーム」とも呼ばれる要介護高齢者向けの生活施設であり、社会福祉法人や地方自治体が運営しているケースがほとんどです。
要介護者向けの施設であるため、日常生活の支援だけでなく、機能訓練や健康管理などのサービスを受けられます。

介護老人福祉施設は、人件費が約63%を収益を占めます。
また、直接介護支出が高い傾向があり、収益の約14%に達する点も特徴です。

2.介護老人保健施設

介護老人保健施設は、介護老人福祉施設と似通った名称ですが、要介護1以上の高齢者が自宅復帰を目指すためにケアを実施する施設です。

介護老人保健施設における人件費の割合は約61.7%です。
他方で、収益を占める一般管理支出が約18%と、他の介護サービスより高い傾向があります。

なお、介護老人保健施設は利用者の短期間の入居が前提であるため、終身利用できる介護老人福祉施設と違い、高い入所率を維持しなければなりません。
入所率が低い状況が続くと、人件費が収益を圧迫するでしょう。

3.訪問介護

訪問介護は利用者の自宅にヘルパーを派遣し、身体介護や生活援助を実施する介護サービスです。
要介護1以上の認定を受けている者が利用できるサービスであり、自宅での生活を望むニーズに対応できます。

訪問介護は施設介護とは違い、ヘルパーの派遣を前提にしているため、常に一定数以上のスタッフを保持しなくてはなりません。
そのため、他の介護サービスと比べても人件費の割合が高く、約77%に達します。

4.通所介護

通所介護はデイサービスとも呼ばれており、利用者が施設に通い、機能訓練や生活支援などを受ける介護サービスです。

通所介護の人件費は収益のうち、約63%を締めます。
他方で、通所介護は利用率に対して人員を過度に配置する施設が多い傾向があります。

実際、通所介護施設が赤字に転落するケースの多くは、過度な人員配置による人件費の高騰が原因でした。

他の介護サービスも同様ですが、利用率に対する人員の配置は人件費を最適化するうえで重要なテーマとなるでしょう。

【介護サービス別】人件費の職種間配分とは?

介護サービスの運営にはさまざまな専門職が関わります。
サービス別に関わる専門職は異なり、法で定められた人員配置基準も違います。

もちろん、関わる専門職が変われば、人件費の配分も変わるものです。
本章では介護サービス別に、人件費の職種間配分について解説します。

1.介護老人福祉施設

介護老人福祉施設の職種間配分は以下の通りです。

職種人件費配分率
管理者3.7%
医師1.8%
看護職員10.3%
介護職員63.8%
機能訓練指導員1.1%
生活相談員・指導相談員4.4%
栄養士2.3%
調理員3.1%
事務職員5.3%
その他4.2%
介護事業経営実態調査のデータ分析|厚生労働省老健局

介護老人福祉施設は可能な限り在宅復帰を目指す一方、利用者の意向によっては終身での入居もできる施設です。
そのため、医師や機能訓練指導員よりも生活支援や身体介護を行う介護施設の割合が多い傾向があります。

2.介護老人保健施設

介護老人保健施設の職種間配分は以下の通りです。

職種人件費配分率
管理者3.7%
医師5.2%
看護職員19.1%
介護職員46.7%
機能訓練指導員8.5%
生活相談員・指導相談員4.2%
栄養士2.0%
調理員1.7%
事務職員4.9%
その他3.9%
介護事業経営実態調査のデータ分析|厚生労働省老健局

介護老人保健施設は人員配置基準で医師や看護師などの専門職の配置が義務付けられています。
そのため、医師・機能訓練指導員・看護師の割合が他の介護サービスより高い点が特徴です。

3.訪問介護

訪問介護の職種間配分は以下の通りです。

職種人件費配分率
管理者8.7%
医師0.0%
看護職員1.4%
介護職員84.8%
機能訓練指導員0.1%
生活相談員・指導相談員0.8%
栄養士0.0%
調理員0.4%
事務職員2.2%
その他1.6%
介護事業経営実態調査のデータ分析|厚生労働省老健局

訪問介護はヘルパーによる身体介護や生活援助が中心となっているため、介護職員が職種間配分の8割を占めています。
他方で、他の介護サービスと違って医師や機能訓練指導員などがほとんど配置されません。

なお、訪問介護が人員配置基準で設置を義務付けられている職種は、サービス提供責任者・ホームヘルパー・常勤管理者の3つのみです。
施設によっては医師や機能訓練指導員などが常駐していないケースもあります。

4.通所介護

通所介護の職種間配分は以下の通りです。

職種人件費配分率
管理者8.3%
医師0.1%
看護職員15.3%
介護職員50.6%
機能訓練指導員5.1%
生活相談員・指導相談員10.7%
栄養士0.5%
調理員3.0%
事務職員1.9%
その他4.7%
介護事業経営実態調査のデータ分析|厚生労働省老健局

通所介護は利用者がデイサービスセンターに通い、生活支援や機能訓練などを受けるサービスであるため、医師よりも看護職員や機能訓練指導員などの配置が多い点が特徴です。
また、訪問介護と同様に、医師や栄養士にかかる人件費がほとんどありません。

介護施設の人件費・コストを改善するための3つのポイント

介護施設の運営を改善する過程で、人件費やコストの改善は検討するべき課題です。

ただし、介護事業において人件費は支出の大部分を占めるものであり、闇雲に削減すると現場に甚大な影響を及ぼす恐れがあります。
そのため、人件費・コストの改善は業務に影響が出ないように注意しなければなりません。

本章では人件費・コストの改善に際して、以下のポイントを解説します。

  • 介護スタッフの労働時間を見直す
  • 人員配置を見直す
  • ICTによる業務の効率化

いずれも適切に実施すれば人件費やコストを改善できる方法です。
ぜひ実践する際の参考にしてください。

介護スタッフの労働時間を見直す

労働時間の見直しは、勤務時間の削減を意味するものではありません。
あくまでも、非効率的な作業や煩雑な業務フローによって発生する、残業のような無駄な労働時間の削減が最大の目的です。

そもそも、介護施設はスタッフの業務負担が大きくなりやすい傾向があります。
日々行う利用者へのケアに加え、家族や専門職の関係者とのやり取り・バイタルチェック・事務作業など多くの業務を抱えているためです。

もしいずれかの業務が滞るとその分残業が発生し、労働時間が長くなるでしょう。
このような状況は人員が少ない施設ほど発生しやすく、人件費の増加に加え、従業員に過剰な負担をかけるリスクが懸念されます。

残業により労働時間の増加を防ぐなら、作業や業務フローの効率化が有効です。
無駄な手間を発生させているプロセスを削減し、少ない人員でもスムーズに業務を進められるように改善すれば、残業を削減できます。

人員配置を見直す

人員配置の見直しも、人件費・コストの改善に役立ちます。

例えば、利用者の訪問が少ない時間帯や、利用者への対応の頻度が少ない時間帯にスタッフを多く配置しても、あまり効果は期待できません。
むしろ費用対効果が悪化し、過剰に配置した人員分だけコストがかさばる恐れがあります。

実際、収益が悪化した施設には過剰な人員配置が原因のケースも多く、人件費率が平均値を大幅に超えて赤字に転落した施設も珍しくありません。
逆に、人手が必要な時間帯に十分な人員を配置できておらず、スタッフへの負担が増えて残業が発生するケースもあります。

スタッフを配置する際は、人員の必要性や費用対効果を考慮し、最適な人数に絞りましょう。

ICTによる業務の効率化

人件費やコストを見直すなら、ICTによる業務の効率化も重要です。

多くの介護施設では、依然としてアナログな業務を実施しているケースも多く見られます。
しかし、手作業はミスの温床になるうえに無駄な作業が発生したり、業務時間の増加につながったりするものです。

ICTの導入により、事務作業の自動化や書類の電子化を進めれば、手作業での業務が減り、効率的に事務作業を終えられます。

加えて、見守り業務やバイタルチェックなど、利用者のケアに必要な作業もICTによって効率化が可能です。
昨今の介護システムはリアルタイムで利用者の情報を計測でき、スタッフへの情報共有もスムーズに実行できます。

ICTを活用すれば、スタッフが残業するリスクを減らすだけでなく、利用者へのケアに集中できる環境を実現するでしょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

典型的な労働集約型産業である介護業界に於いて、最大のコストは人件費です。介護職員の給与水準は日本の平均所得と比較して、まだまだ低い水準ですが、それでも根本的な人手不足、処遇改善加算などの施策も相まって年々上がっています。こうした人件費の高騰に対して、介護施設最大の収益チャネルである介護保険報酬は、引き上げるどころか、実質下げられてしまっているような現状です。支出(人件費)が増えて、収入(介護保険報酬は)が減っているわけなので、経営が厳しくなるのは当然の流れといえるでしょう。実際に2022年の介護事業者倒産件数は、過去最多の143件を記録しました。国として、社会保障費抑制を大命題に挙げている以上、介護保険報酬は今後も上がることがないでしょう。業務生産性の向上にいち早く取り組む必要があります。

介護業務を効率化するならワイズマンソリューションにお任せ

人件費やコストの改善のために、介護業務を効率化するならワイズマンソリューションをぜひ活用してください。

弊社「ワイズマン」は多種多様な介護サービスに対応した介護ソフトを提供しており、現場のさまざまな業務の効率化に貢献できます。
各種介護サービスに特化したソフトも提供しているため、より現場のニーズに合ったシステムの導入も可能です。

さらに、ワイズマンはただシステムを提供するだけでなく、顧客への手厚いトータルサポートも実践しています。
顧客のニーズにマッチしたサポートができるため、現場のニーズを適切に取り込んだうえで業務の効率化が実現するでしょう。

適切な人件費率で安定的な施設運営を実現

給与・賞与・法定福利など、人にかかる費用全般を指す人件費は、施設を経営するうえで重要なコストです。
自施設が携わる介護サービスに合った適切な人件費率を実現すれば、施設の運営が安定化します。

しかし、介護サービスによって人件費率や職種間配分に違いがあるため、それぞれの傾向を踏まえたうえで、自施設の人件費の最適化を目指す必要があります。

人件費の最適化は残業時間の抑制や人員配置の見直しなど、さまざまな方法がありますが、ICTによる業務の効率化も有効な施策です。
とりわけ介護システムの導入や業務の自動化は、スタッフの労働時間の削減だけでなく、負担の軽減やコア業務に集中できる環境の構築につながるでしょう。

もし、業務の効率化による人件費やコストの削減を目指すなら、ぜひワイズマンソリューションを活用してください。
優れたシステムに加え、豊富な実績と確かな知見で、業務の効率化をサポートします。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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