介護サービスの「同一建物減算」とは?適用要件・単位数・注意点を解説
2024.03.08
介護サービス事業所が、事業所と同じ建物に住む利用者に効率的なサービスを提供することなどを勘案し、同一建物減算というしくみが設けられています。
しかし、同一建物減算の定義や適用要件は単純ではないため、「同一建物減算のしくみがよくわからない」「同一建物とはどのような定義なのか」などの疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では同一建物減算の適用要件と単位数、同一建物減算の注意点などについて解説します。
同一建物減算の基本を正しく理解し、介護サービスを適切に運営するために、ぜひ本記事をお役立てください。
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目次
介護サービスの「同一建物減算」とは?
同一建物減算とは、介護サービスの利用者が介護事業所と同じ建物に住んでいる場合に、利用者のサービス利用料が減算されるしくみです。
同じ敷地内や、あるいは隣接する敷地内の建物に住んでいるケースが含まれる場合もあります。
これは、介護事業所から離れた場所に住んでいるのにくらべて、利用者が同じ建物に住んでいることで効率的にサービスを提供できるという観点で設定されているものです。
減算の対象となる同一建物の範囲は、訪問サービスと通所サービスで異なります。
また、訪問サービスの場合は同一建物の利用者数によって減算率に差がつけられています。
同一建物減算の対象となる介護サービスは以下のとおりです。
引用:令和3年度介護報酬改定に向けて|厚生労働省
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 夜間対応型訪問介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 居宅療養管理指導
- 通所介護
- 通所リハビリテーション
- 認知症対応型通所介護
【令和3年度】介護報酬改定による同一建物減算への影響
令和3年度の介護報酬改定では、同一建物減算適用者の「区分支給限度基準額」を計算する方法が変更となりました。
具体的には、従来「減算後の単位数を用いて計算」していたのに対し、改定後は「減算前の単位数を用いる」よう変更されたのです。
厚生労働省によると、令和3年度の改定は、保険給付の公平性を確保するためのものとのこと。
例えば従来の計算方法では、減算を適用される人は、受けられる介護サービスの回数が多く、減算が適用されない人はその分、区分支給限度基準額に達しやすくなります。
同一建物減算の適用有無が、介護保険適用サービスの利用回数に差を生じさせていたのです。
こうした、保険給付の不公平さを解消するために、区分支給限度基準額の計算方法が見直されました。
【介護サービス別】同一建物減算の適用要件と単位数
本章では同一建物減算が適用される要件、適用時に減算される単位数について、サービスごとに解説します。
【訪問系介護サービス】同一建物減算の要件と単位数
訪問系介護サービスでは、次のうちいずれかの要件を満たす場合に同一建物減算が適用されます。
- 事業所と同一敷地内又は隣接する敷地内に所在する建物に居住する者(2.に該当する場合を除く。)
- 上記の建物のうち、当該建物に居住する利用者の人数が1月あたり50人以上の場合
- 上記1.以外の範囲に所在する建物に居住する者(当該建物に居住する利用者の人数が1月あたり20人以上の場合)
上記の要件を満たす場合、減算率は10%です。
ただし、利用者の人数が1月あたり50人以上の場合は減算率が15%になります。
サービスごとの減算される単位数は、下記の表のとおりです。
介護サービス | 利用者20人以上 | 利用者50人以上 |
訪問介護 | 減算率10% | 減算率15% |
訪問入浴介護 | 減算率10% | 減算率15% |
訪問看護 | 減算率10% | 減算率15% |
訪問リハビリテーション | 減算率10% | 減算率15% |
夜間対応型訪問介護 | 減算率10% | 減算率15% |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | -600単位/月 | -900単位/月 |
【通所系介護サービス】同一建物減算の要件と単位数
通所系介護サービスでは、次のうちいずれかの要件を満たす場合に同一建物減算が適用されます。
- 事業所と同一建物に居住する者又は事業所と同一建物から事業所に通う者
- 事業所が送迎を行っていない者
サービスごとの減算される単位数は、下記の表のとおりです。
介護サービス | 事業所と同一建物に居住 又は同一建物から通う利用者 | 事業所が送迎を行っていない利用者 |
通所介護 | −94単位/日 | 47単位/片道 |
通所リハビリテーション | −94単位/日 | 47単位/片道 |
認知症対応型通所介護 | −94単位/日 | 47単位/片道 |
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同一建物減算の注意点
本章では、同一建物減算で注意しておきたい点について、サービスごとに解説します。
【訪問系介護サービス】同一建物減算の注意点
訪問系介護サービスにおいて、同一建物減算で注意すべき点は次のとおりです。
- 同一敷地内建物と同一建物の定義のちがい
- 建物の運営・管理者と介護サービス事業所の運営法人が異なる
- サービスを効率的に提供するのが難しい場合
- 利用者数の計算方法
- 区分支給限度基準額の算定で使用する単位数
1つずつ見ていきましょう。
同一敷地内建物と同一建物の定義のちがい
同一敷地内建物等とは、構造上又は外形上、事業所と一体的な建築物のことです。
具体的には、下記のケースが該当します。
- 同じ建物の別のフロアに事業所がある
- 渡り廊下などで事業所とつながっている建物
- 同じ敷地内の別棟の建物
- 幅の狭い道路をはさんでとなりにある建物
また、事業所と同一敷地内、隣接する敷地にある建築物で、効率的にサービスが提供できることも条件です。
これに対して同一建物とは構造上又は外形上、事業所と一体的な建築物を指します。
例えば下記のようなケースです。
- 同じ建物の別のフロアに事業所がある
- 建物同士が渡り廊下などでつながっている
同じ敷地内であっても別棟の建物、道路をはさんでとなりや向かい側にある建物は同一建物には該当しません。
建物の運営・管理者と介護サービス事業所の運営法人が異なる
同一建物とは、建物の運営・管理者が訪問介護サービス事業所の運営法人と同じであるかどうかは問いません。
したがって、建物の運営・管理者と訪問介護サービス事業所が異なる運営法人であっても、同一建物として扱います。
サービスを効率的に提供するのが難しい場合
同一敷地内建物であっても、効率的なサービス提供につながらない場合には、減算が適用されません。
例えば、下記のケースなどが該当します。
- 広大な敷地に複数の建物が点在する場合
- 隣接する敷地であっても、道路や河川などに敷地が隔てられており、横断するために迂回しなければならない場合
引用:同一建物減算|静岡県
このようなケースでは、サービスを効率的に提供するのが難しいと考えられるためです。
利用者数の計算方法
同一建物減算の対象となる利用者数は、1か月間の利用者数の平均値を使用します。
平均値の算出方法は下記のとおりです。
- 算定月において該当の建物に住む利用者を1日ごとにカウントする
- 1日ごとにカウントした利用者数を1か月分合計する
- 1か月の合計利用者数を算定月の日数で割る(小数点以下は切り捨て)
区分支給限度基準額の算定で使用する単位数
同一建物減算を適用する場合、区分支給限度基準額を算定するときには減算前の単位数を算入します。
これは、同一建物減算の適用を受ける利用者と、受けない利用者との公平性の観点から計算方法が見直されたものです。
減算後の単位数を算入した場合、減算の適用を受ける利用者の方が使用する単位数が少なく、減算の適用を受けない利用者よりも区分支給限度基準額に達するまでに多くのサービスを利用できてしまいます。
これでは公平性の観点で問題があると以前から指摘が上がっていたため、減算前の単位数を算入するよう見直されました。
【通所系介護サービス】同一建物減算の注意点
通所系介護サービスにおいて、同一建物減算で注意すべき点は次のとおりです。
- 建物の運営・管理者と介護サービス事業所の運営法人が異なる
- やむを得ず送迎が必要と認められる利用者の送迎
- 区分支給限度額の算定対象外
それぞれ見ていきましょう。
建物の運営・管理者と介護サービス事業所の運営法人が異なる
こちらは訪問系サービスと同様です。
建物の運営・管理者と訪問介護サービス事業所が異なる運営法人であっても、同一建物の条件に該当すれば同一建物減算の対象として扱われます。
やむを得ず送迎が必要と認められる利用者の送迎
通所系介護サービスの同一建物減算では、事業者が送迎をしていない利用者であることが前提条件です。
したがって、傷病やその他のやむを得ない事情により、送迎が必要と認められる利用者に対して送迎を行った場合(※)、同一建物減算の対象にはなりません。
※建物の構造上、自力での通所が困難な利用者に対して、2人以上の介助が必要だった場合
区分支給限度額の算定対象外
通所系介護サービスにおいて同一建物減算は、区分支給限度額の算定対象にはなりません。
【厚生労働省】同一建物減算のQ&A
本章では、厚生労働省が公開している同一建物減算のQ&Aから主な質問を抜粋して解説します。
集合住宅減算はどのように算定するのか【No.486】
集合住宅減算の対象となるサービスコードの単位数を合計し、減算率を掛けて算定します。
なお、集合住宅減算の適用範囲は、事業所と同じ建物に住む利用者を訪問するのと同じくらいの移動時間で訪問できるものについては同様に評価するよう見直されました。
具体的には下記のいずれかに該当し、移動時間が短縮されるものについては、同一建物と同じく効率的なサービスが提供できると判断して新たに減算対象になったものです。
- 同じ敷地内にある別棟の集合住宅
- となりの敷地にある集合住宅
- 道路等をはさんでとなりの敷地にある集合住宅
ただし、上記に該当する場合でも、事業所と同一建物の利用者を訪問する場合とは明らかに条件が異なり、効率的にサービスを提供できない場合は減算対象になりません。
つまり、次のようなケースでは効率的にサービスを提供できないと考えられるため、減算対象外です。
- 広大な敷地に複数の建物が点在するもの(例えば、UR(独立行政法人都市再生機構)などの大規模な団地や、敷地に沿って複数のバス停留所があるような規模の敷地)
- 幹線道路や河川などにより敷地がへだてられており、訪問するために迂回しなければならないもの
同一建物に居住する利用者が20人以上/月の場合の利用者数とは?【No.488】
同一建物に住む利用者が1月あたり20人以上の場合の利用者数とは、介護サービス事業所と契約している利用者のうち、該当する建物に住む利用者の数を指します。
前月の実績などではなく、算定月の利用者の実績で判断します。
利用者数は、1か月間の利用者数の平均値(日ごとの利用者数を当月1か月分合計し当月日数で割って求める)を適用します。
外部サービス利用型の特定施設入居者生活介護事業所も対象となるのか【No.1549】
外部サービス利用型特定施設入居者生活介護において提供される受託介護サービスには、同一建物減算の規定が適用されません。
特定施設入居者生活介護とは、特定施設に入居している要介護者を対象として行われる日常生活上の世話、機能訓練、療養上の世話のことで、有料老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、養護老人ホームが特定施設の対象になっています。
特定施設入居者生活介護には事業者が自ら介護を行う一般型と、介護を外部へ委託する外部サービス利用型があります。
外部サービス利用型は、特定施設の事業者がケアプラン作成などのマネジメント業務を行いますが、介護は訪問介護事業者などに委託します。
2024年介護報酬改定に於いて、居宅介護支援への「同一建物減算」導入が審議されています(2023年12月19日現在)。これはケアマネが利用者に対して投入する1か月間の労働投入時間が、「利用者にサ高住の入居者がいる場合、それ以外の場合と比較して、所要時間が3割程度少ない」という財務省の指摘によるものです。確かに一般在宅と異なり、サ高住のように集合住宅の場合は、移動時間が殆どかからないため、妥当な指摘かもしれません。このように国は所謂『抱え込み』に対して、徹底して減算していく方向です。今後もこの流れは加速していくでしょう。サ高住などは今後自施設入居者へのサービス提供だけでは経営が厳しくなってくる可能性が高いのです。自施設だけではなく、近隣地域へもサービス提供できる体制づくりが求められています。
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まとめ
同一建物減算の適用要件や同一建物の定義は、訪問系介護サービスと通所系介護サービスで異なっています。
効率的なサービス提供の観点から、同一建物であっても減算対象としての条件を満たしていない場合もあります。
また、サービスの種類や利用者数によって減算率が異なるなど、決して単純なしくみとは言えません。
さらに、公平性の観点から区分支給限度基準額を算出する際の単位数の扱いが見直されるなど、ルールの改定もあるため、正しく理解するのがなかなか難しいところもあるでしょう。
同一建物減算の考え方について理解を深め、より質の高いサービスを提供するために、本記事がお役に立てましたら幸いです。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。