介護の移乗介助のコツとは|役立つ便利アイテムや注意点を徹底解説

2024.07.05

介護の移乗介助を行うためには、スムーズに要介護者を持ち上げ移動させるコツを把握しておく必要があります。
ボディメカニクスを理解しておけば、移乗介助をスムーズに実践できます。
介護の移乗に役立つボディメカニクスと注意点を確認して、介護士と要介護者に負担をかけないよう移乗介助を実践しましょう。

この記事では、介護における移乗介護のコツを解説します。
また、シチュエーション別に移乗介助のポイントを紹介していますので、ぜひ最後までご覧いただき、移乗介助の参考になさってください。

介護の移乗とは

介護における移乗とは、介護士が要介護者を補助して、ベッドから車椅子などへ乗り移らせることです。
ほかにも車椅子からベッド・車椅子からトイレなど、別の場所に乗り移る際に、抱きかかえたり支えたりしてサポートすることを移乗介助と呼びます。

身体が不自由な要介護者は、自分1人で乗り移ることが難しいため、移乗介助が必要です。
ただ、移乗介助では、介護士と要介護者の双方に身体負担がかかるため、正しい姿勢と方法を理解しておく必要があります。

介護の移乗に役立つボディメカニクス

移乗介助を効率的に行うためには、ボディメカニクスを活用しましょう。
ボディメカニクスとは、「body(身体)」と「mechanics(機械学)」を組み合わせた造語です。

「骨や筋肉・関節がどのように作用するか」などの身体力学を活用した介護技術です。
ボディメカニクスを活用すれば、小さな力で移乗介助が可能となり、要介護者だけでなく介護士の負担やストレスを軽減できます。

なお、ボディメカニクスは主に、以下8つの原則で構成されています。

  1. 支持基底面積を広くとる
  2. 重心を下げる
  3. 被介護者との重心を近づける
  4. 被介護者の体をねじらず、小さくまとめる
  5. 身体全体を利用し、大きな筋肉を使う
  6. 水平移動を行う
  7. 被介護者を引く動作を意識する
  8. てこの原理を用いる

まず足を広げて膝を少し曲げることで、重心を下げて安定した体勢を作ります。
さらに被介護者との重心を近づけることで、太もも・お腹・背中などの大きな筋肉を効果的に活用できます。
大きな筋肉を使えば体への負担を軽減でき、安定した介助により要介護者も安心して移乗を任せられるでしょう。

【シチュエーション別】移乗介助を行う具体的な方法

ボディメカニクスの8原則を理解した後は、実際に移乗介助を行う際の具体的な方法を確認しておきましょう。
本章では、下記のシチュエーション別に、具体的な移乗介助の方法を解説します。

  • ベッドから車椅子への移乗介助
  • 車椅子からベッドへの移乗介助
  • 床から起き上がらせる移乗介助
  • 片麻痺の要介護者をベッドから車椅子に移乗させる全介助
  • 軽介助者を車椅子からトイレに移乗させる一部介助
  • 体重が重い要介護者をベッドから車椅子へ移乗させる介助

各シチュエーションの移乗介助のポイントを押さえ、要介護者の負担やストレスを軽減しましょう。

ベッドから車椅子への移乗介助

ベッドから車椅子への移乗介助を行う際は、次の手順で実践しましょう。

  1. 車椅子をベッドに対して45度の角度で近くに置く
  2. 車椅子とベッドの高さを合わせる
  3. ベッドに浅く腰掛けられるよう介助する
  4. 足の裏を地面につける
  5. 肩甲骨と骨盤を支えながら密着する
  6. 介護士は腰を落として、前傾姿勢にする
  7. 身体を前に傾けて、お尻の高さを保ったまま回転させる
  8. 車椅子へ移乗させる

ポイントは、要介護者がベッドに浅く腰掛けた状態から移乗を行うことです。
ベッドに深く腰掛けたままでは、介護士と要介護者の重心が離れ、移乗時に大きな力が必要になります。

一方、双方の重心を近づけることで、力が伝わりやすくなり無理なく介助できます。

車椅子からベッドへの移乗介助

車椅子からベッドへの移乗介助を行う手順は、次のとおりです。

  1. ベッドと車椅子を同じ高さに調整する
  2. 車椅子をできる限りベッドに近づける
  3. 車椅子の浅い位置に移動させる
  4. 足の裏を地面につける
  5. 重心に合わせて、腰を落として重心を下げる
  6. 肩甲骨と骨盤を手で支えて密着する
  7. 身体を前に傾けて、お尻の高さを保ったまま回転させる
  8. ベッドへ移乗させる

ここでのポイントは、上記7番目の回転がスムーズにできるよう、車椅子とベッドの距離を近づける点です。
7番目の回転は、自分を基軸として遠心力によってベッドへ水平移動するものです。

万が一、ベッドと車椅子の距離が近すぎると、回転時の遠心力が働きづらく介護士側に大きな負荷がかかります。
また、距離が離れすぎると、回転してもベッドへ届かず、介護士の力でベッドまで移乗することになります。

いずれにせよ、身体に大きな負荷が加わるため、適切な距離を確保することが大切です。

床から起き上がらせる移乗介助

床から起き上がらせる移乗介助の手順は、次のとおりです。

  1. 身体を小さくまとめ、横向きの姿勢で寝てもらう
  2. 身体から移乗させる場所までまで十分なスペースを確保する
  3. 身体を「くの字」に折り曲げる
  4. 肩甲骨と両膝裏に腕を回して支える
  5. 身体を手前に引き、寝転びの姿勢から座ってもらう
  6. 後に回って、膝を立たせてしっかり抱え込む
  7. 振り子の要領で身体を前後に大きく揺らして、立ち上がらせる

床から起き上がらせるときには、まず要介護者の周辺にスペースを確保して、横向きで「くの字」の体制をとってもらいます。
その状態で、肩甲骨と両膝裏に腕を回して身体を手前に引けば、寝転びの姿勢から床に座らせることが可能です。

要介護者の後ろに回って、膝を立たせた状態で抱え込めば、タイミングを見計らって振り子の要領で立たせます。

片麻痺の要介護者をベッドから車椅子に移乗させる全介助

片麻痺の要介護者を移乗させる全介助は、次の手順で実践しましょう。

  1. 麻痺がない動ける側に車椅子を近づける
  2. 介護士は、要介護者の麻痺がある側の斜め前に立つ
  3. 要介護者に動ける側の手で、車椅子のアームを握ってもらう
  4. 動線を意識して、十分なスペースを設ける
  5. 脇腹付近を支えて、動ける側の足を軸に回転させて移乗する

片麻痺の要介護者を全介助する際には、麻痺が起きていない動ける側を使って、移乗できるようサポートしてください。
片麻痺の要介護者を全介助する場合、体重をかける方向や移乗での動線などを意識して、密着しすぎず動きやすいスペースを空けることが大切です。

できるだけ麻痺が起きている側に介護士が回り、ふらついたり倒れたりした際に、すぐ対処できるようにしましょう。

軽介助者を車椅子からトイレに移乗させる一部介助

軽介助者を車椅子からトイレに移乗させる一部介助は、次の手順を実施してください。

  1. 要介護者に片方の手で、車椅子のアームを握ってもらう
  2. 要介護者の動線を意識し、双方の身体を密着させすぎないようスペースを設ける
  3. 要介護者の脇腹付近を支えて移乗させる

軽介助者を一部介助する際には、できるだけ本人の力で移乗してもらうことが大切です。
身体を持ち上げたり引っ張たりせずに、支える程度の介助に徹しましょう。
安全に移乗するために、声掛けを行いながら移乗すると、介助もしやすいです。

体重が重い要介護者ベッドから車椅子へ移乗させる介助

体重が重い要介護者をベッドから車椅子へ移乗させる介助を行う手順は、次のとおりです。

  1. 椅子を用意する
  2. 体をできるだけ小さくまとめる
  3. 足裏を地面につけて、体を「くの字」の前傾姿勢にする
  4. 身体を密着させて要介護者を抱え込み、ステップ1. で用意した椅子に座る
  5. 身体を回転させながら移乗する方へ向き、椅子から立ち上がって移乗する

体重が重い要介護者を移乗介助する際は、一度に移乗させようとすると介護士に負担がかかってしまいます。
そのため、要介護者の前に椅子を用意し、一度椅子に座ってワンクッションを挟んでから、移乗を行いましょう。

どうしても要介護者の体重が重たく、無理をしそうな場合は1人ではなく2人の介護士で協力して、移乗介助を行ってください。

移乗介助を行う際の注意点

移乗介助を行う際の注意点は、次のとおりです。

  • 介助に必要な物品を用意しておく
  • 要介護者が動きやすい姿勢をつくる
  • 無理のない姿勢で介助を行う
  • 無理やり持ち上げない
  • 車椅子には深座りで移乗させる

それぞれの注意点を確認して、スムーズに移乗介助を行えるよう準備しましょう。

介助に必要な物品を用意しておく

移乗介助を行う際の注意点として、介助に必要な物品をあらかじめ用意しておくことが大切です。
介助を始めてからは、要介護者を支えていなければならず、物品を取りにいけないためです。

スライディングボードやリフトなど、必要に応じて物品を用意しておけば、スムーズに移乗介助できます。
またベッドから車椅子に移乗させる際には、車椅子をベッドに対して45度や30度の角度で設置し、移乗介助しやすい位置関係をつくりましょう。

要介護者が動きやすい姿勢をつくる

移乗介助を実施する際には、要介護者が動きやすい姿勢をつくりましょう。
要介護者を無理に抱きかかえたり引っ張ったりするのではなく、できるだけ負担なく動いてもらえるよう、楽な姿勢をつくることが大切です。

無理のない姿勢で介助を行う

要介護者だけでなく介護士も、無理のない姿勢で介助を行うようにしてください。
無理な姿勢で介助を行うと、腰を痛めたり体勢が不安定になったりと、怪我につながる可能性があります。

自分1人の力で移乗介助ができない場合は、2人の介護士で協力して介助を行うことが大切です。

無理やり持ち上げない

移乗介助をする際は、無理やり持ち上げないよう注意してください。
移乗介助を行う際は、つい持ち上げて要介護者を移乗させようとしてしまいますが、無理やり持ち上げると怪我や転倒のリスクがあるため危険です。

ズボンを引っ張って持ち上げる行為も、要介護者が痛みを感じる原因になるためやめましょう。

車椅子には深座りで移乗させる

ベッドから車椅子へ移乗させる場合は、車椅子に深座りさせるよう徹底してください。
車椅子から別の場所へ移乗させる際は、動きやすいよう浅く座らせますが、これはあくまでも移乗のしやすい体勢を作るのが目的です。

基本的に、ベッドやトイレから車椅子へ移乗した後は、そのまま移動するため、バランスを確保できるよう深座りの状態を確保しましょう。

移乗介助に利用できる便利器具

移乗介助に利用できる便利器具として、次のようなものがあります。

  • スライディングボード
  • スライディングシート
  • 介助ベルト
  • 介護用リフト

それぞれの特性を確認して、必要に応じて利用しましょう。

スライディングボード

スライディングボードは、お尻の下に敷いて移乗介助の負担を軽減する器具です。
ベッドと車椅子の間をスライディングボードで橋渡しして、ボードの上に乗って身体を滑らせることで、お尻を持ち上げずに移乗を実現します。

スライディングシート

スライディングシートは、お尻の下に敷いて摩擦力を軽減させることで、滑って移乗できる器具です。
スライディングボードより軽い介護で利用されますが、よく滑るため要介護者が1人で使用しないよう注意しましょう。

介助ベルト

介助ベルトは、複数の持ち手がついたベルト状の福祉用具です。
要介護者の腰に装着すれば、ズボンを引っ張ったり無理に抱きかかえたりしなくても、移乗介助を楽にできます。

介護用リフト

介護用リフトは、身体を吊り上げて移乗介助をサポートする福祉用具です。
体重が重い要介護者を移乗させる際に、介護用リフトを利用すれば楽に移乗介助を実現できます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

私自身も介護保険施行前より、介護現場のスタッフとして従事してきました。その間数カ月毎にギックリ腰になり、慢性的な腰痛に悩まされていました。ただ、私の腰痛に関しては、今振り返ると自分自身の知識・能力不足によるものが大きいと痛感しています。研修等を積極的に受講し知識を深めてからは、ギックリ腰の頻度も驚くほど減りました。そして、『介助者に大きな負荷がかかる移乗動作は必然的に利用者の負荷も大きい』ということを自戒としています。私自身の反省として、利用者の能力を活かす移乗介助をしていなかったと感じます。移乗介助の基本は、利用者の動作の補助に徹することです。そのためにも、寝返り、起き上がり、立ち上がり等動作を細分化してアセスメントをおこない、どの部分にどのような介助が必要なのかを分析することが重要です。

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タブレットやスマートフォンからの介護記録や、情報連携の効率化など、介護現場の課題を解消できる機能が満載です。

介護の移乗介助は無理なく安全に行おう

介護の移乗介助を行う際は、無理なく安全に行うことが大切です。
要介護者はもちろん介護士も無理な体勢をとらずに、安全に移乗介助を行わなければ、転倒や怪我のリスクが高まります。

移乗介助のシチュエーションによって適切な介助方法が異なるため、それぞれケースに応じて要介護者が動きやすい姿勢で、移乗を実施してください。
この記事で紹介した移乗介助の方法や注意点を確認して、安全に移乗を実施しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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