介護のトイレ(排泄)介助で配慮すべきポイント|注意点や手順を解説

2024.07.05

介護のトイレ(排泄)介助では、要介護者の自尊心を守りプライバシーに配慮する工夫が大切です。
トイレ介助を行う方は、利用者に適した排泄方法を選択して適切な手順で介助を行う必要があります。

介護のトイレ介助を行う際の手順や注意点を確認して、要介護者が介助をお願いしやすい体制を整えましょう。
この記事では、介護のトイレ介助で要介護者を傷つけないために配慮するべきポイントを詳しく解説します。

介護のトイレ介助の基本的な手順や注意点もあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。

介護のトイレ(排泄)介助とは

介護のトイレ介助とは、麻痺や筋肉低下などによって身体が思いどおりに動かせず、自分で排泄行為ができない要介護者をサポートすることです。

排泄は人が生きる上で必要な行為ですが、他人の手を借りなければならない状態に、羞恥心や自己嫌悪を感じる要介護者も多いです。
そのためトイレ介助を行う際には、要介護者の尊厳やプライバシーを守るよう配慮する必要があります。

一般的なトイレ介助は、要介護者をベッドなどからトイレまで運んで排泄をサポートすることを指しますが、ほかに次のようなものもトイレ介助に含まれます。

  • ポータブルトイレ介助
  • ベッド上の便器 ・尿器介助
  • おむつ交換

それぞれの違いを確認して、トイレ介助の主な種類を把握しておきましょう。

ポータブルトイレ介助

ポータブルトイレ介助とは、ベッドの横に置いたポータブルトイレでび排泄行為をサポートすることです
トイレまでの移動が難しい場合、ポータブルトイレを利用しますが、トイレを置く位置によって使い勝手が変わります。

例えば片麻痺で右半身が動かせない場合は、ベッドの左側にポータブルトイレを設置すると、スムーズにトイレまで移乗できます。
さらにポータブルトイレをベッドと30度の角度で設置しておくと、移乗の際にトイレの手すりをつかみやすいです。

ベッド上の便器 ・尿器介助

ベッド上の便器・尿器介助とは、ベッド上で差込便器や尿器を使った排泄行為をサポートすることです。
立ち上がったり座ったりする動作が難しく、トイレやポータブルトイレの使用が難しい場合に差込便器や尿器が使用されます。

また、ベッド上で排泄を行う際には、ベッドが汚れないように腰の下に防水シートを敷きましょう。
女性がベッド上で排尿する場合は、トイレットペーパーを陰部に被せて、尿が飛び散らないよう対処してください。

おむつ交換

おむつ交換とは、自分で排泄をコントロールできない要介護者におむつを着用させて、定期的に交換することです。
数時間ごとにおむつを確認して、排泄していた場合は交換して陰部を清拭します。

おむつ交換を行う際は、防水シートを腰の下に敷いてベッドが汚れないよう以下の手順で対処します。

  1. 防水シートを腰の下に敷く
  2. 横向きになってもらい、おむつを外す
  3. 陰部を清拭する
  4. 新しいおむつを腰にあてる
  5. 仰向けになってもらい、おむつをつける

トイレ(排泄)介助で要介護者を傷つけないためのポイント

トイレ介助は、要介護者の尊厳やプライバシーを守る配慮が必要です。
トイレ介助で、要介護者を傷つけないために、次のポイントを押さえておきましょう。

  • トイレ周辺の環境を整備する
  • トイレをせかさない
  • 自尊心を守る
  • 排泄のサイクルに合わせる
  • プライバシーに配慮する
  • 水分摂取量を制限しない
  • 転倒や事故に備える

それぞれのポイントを確認して、要介護者を傷つけないようなトイレ介助を行いましょう。

トイレ周辺の環境を整備する

トイレ介助で要介護者を傷つけないためには、トイレ周辺の環境を整備することが大切です。
ベッドからトイレまでの動線に、転倒や車椅子の妨げになる段差がないか確認しておきましょう。

さらにトイレ内は転倒や転落など、事故が起きやすい場所になるため、安全性に配慮した環境に整備する必要があります。
和式便器では足腰が弱い要介護者は、満足に排泄ができないため、洋式便器に交換しましょう。

またトイレ内に手すりを設置したり車椅子で入れるようスペースを空けたり、要介護者が快適に排泄行為を行えるよう周辺環境を整備してください。

トイレをせかさない

トイレ介助で要介護者を傷つけないためのポイントは、トイレをせかさないことです。
トイレをせかしてしまうと、要介護者が申し訳ない気持ちになり、食事を控えたり便意を我慢したりするケースがあります。

要介護者がストレスを感じずに生活するためには、トイレ介助を依頼しやすい環境を整えることが大切です。

自尊心を守る

トイレ介助で気をつけるべきポイントは、要介護者の自尊心を守ることです。
トイレ介助が必要な要介護者は、自分で排泄行為ができないことに対して、羞恥心や自己嫌悪を感じてしまいます。

他人にトイレ介助を依頼する行為は、ストレスを感じやすく自尊心を損ないます。
できるだけ要介護者の自尊心を守り、気軽にトイレ介助を依頼できるよう配慮することが大切です。

イライラした態度や失敗を責める行為は、要介護者の自尊心を傷つけてしまうため、絶対に控えましょう。

排泄のサイクルに合わせる

トイレ介助で要介護者を傷つけないポイントとして、排泄のサイクルに合わせることが大切です。
排泄のサイクルをメモして、要介護者から依頼される前にトイレ介助の声掛けを行えば、自尊心を傷つけることなく気軽に介助を依頼できます。

食事の前後にトイレへ誘導したり、外出時や帰宅時・就寝前にトイレへ誘導したりするなど、要介護者のトイレサイクルに合わせて声掛けを行いましょう。

プライバシーに配慮する

プライバシーに配慮したトイレ介助を行うと、要介護者を傷つけずに済みます。
誰かが近くにいると恥ずかしくて排泄行為をしにくいものです。

トイレが終わるまでは、匂いや音に配慮して少し離れた場所で待機しておけば、プライバシーに配慮しながらトイレ介助を行えます。
ポータブルトイレを使用する際は、下腹部にタオルをかけたりカーテンで隠したりと、プライバシーに配慮した工夫を行いましょう。

水分摂取量を制限しない

トイレ介助で要介護者を傷つけないために、水分摂取量を制限しないよう注意してください。
排泄で失敗したくないからと水分摂取量を制限する要介護者もいますが、水分が不足すると便秘や脱水症・脳梗塞などのリスクが生じます。

要介護者には失敗を恐れずに、水分摂取の重要性を説明して、積極的に水分を摂るよう勧めてください。

転倒や事故に備える

要介護者を傷つけないためには、転倒や事故などに備えることも大切です。
自分でトイレに行けない要介護者は、足元が不安定で転倒しやすく、トイレ内でも転落や転倒事故に発展するリスクがあります。

そのため、トイレ内で要介護者が倒れても、ドアを開けられるよう引き戸か外開きにしましょう。
ほかにもつまずきによる転倒を解消するために、段差を解消するなど環境の整備が必要です。
またトイレ内外の温度差によるヒートショックを予防するために、冷暖房設備を整えておくことも大切です。

トイレ(排泄)介助の基本的なステップ

トイレ介助の基本的なステップは、次のとおりです。

  1. トイレまで誘導する
  2. 脱衣して便器に座らせる
  3. 排泄を待つ
  4. 清拭と着衣を行う
  5. ベッドまで移動する
  6. 排泄物の処理

要介護者の負担を軽減してトイレ介助を行うために、基本的な手順を確認しておきましょう。

1.トイレまで誘導する

トイレ介助を行うには、まずは要介護者をトイレまで誘導する必要があります。
歩いて迎える場合は歩行を支えてトイレまで誘導しますが、なかには移乗介助が必要な方もいます。
自ら歩行することが困難な場合は、車椅子へ移乗してトイレへ誘導しましょう。

ただし、移乗補助を必要する場合は、自ら歩行するよりもトイレ誘導に時間がかかります。
場合によってはトイレに間に合わず、途中で排泄してしまう恐れがあります。
これによって、本人の自信を損ねる可能性があるため、トイレ誘導の際は、優先順位を意識することが重要です。

2.脱衣して便器に座らせる

トイレまで誘導した後の手順は、脱衣して便器に座らせるステップです。
便器に座らせる際は、浅く座らせないよう注意して、要介護者がリラックスして排泄できる姿勢にしましょう。
便器に浅く座らせた場合は、姿勢が不安定で排泄をしにくいです。

要介護者の身体に無理がないよう支えて、車椅子から便器へ移乗介助を行いましょう。
また脱衣を手伝う際は、要介護者の自尊心を損なわないよう声掛けを行ってください。

3.排泄を待つ

脱衣して便器に座らせた後は、排泄を待ちます。
排泄を待つ際には、プライバシーに配慮して音や匂いが影響しない場所まで離れてください。

排泄を近くで待たれると「早くしないといけない」など、ストレスに感じてしまい、排泄がうまくできません。
「終わったら呼んでください」と優しく声をかけて、要介護者にリラックスした状態で排泄してもらいましょう。
排泄が終了したら、要介護者に声掛けやブザーで知らせてもらい、トイレへ向かいます。

4.清拭と着衣を行う

排泄が終了したら、清拭と着衣を行いましょう。
陰部を清拭する際は、できるだけ本人に行ってもらいます。

なぜなら、清拭は要介護者に羞恥心を感じさせる行為のため、可能であれば本人で行った方が良いためです。
着衣を行う際にも、脱衣のときと同じく声かけを行ってください。

5.ベッドまで移動する

清拭と着衣が完了したら、トイレからベッドまで移動させます。
ベッドに移動させる際には、要介護者の身体に負担がかからないよう、無理のない体制で行ってください。

移乗介助をする際には、ズボンを引っ張ったり無理な姿勢で持ち上げたりせず、要介護者と介護士双方に負担がかからないよう工夫しなければなりません。

6.排泄物の処理

排泄物の処理を行う際には、さりげなく排泄物の状態を確認してください。
排泄物の状態から、要介護者の健康状態を把握できるため、いつもと変わりがないかチェックしましょう。

またポータブルトイレや差込便器・尿器の場合は、ベッドまで移動させてから、排泄物の処理を行ってください。
車椅子からベッドへ移乗させる際には、腰を落として重心を下げてから肩甲骨と骨盤を手で支えて密着すると、無理なく介助できます。

トイレ(排泄)介助を行う際の注意点

トイレ介助を行う際は、次の注意点を押さえておく必要があります。

  • 利用者に適した排泄方法を選択する
  • 皮膚のケアに配慮する
  • 失敗を責めない
  • 下痢や便秘の場合は薬の利用を検討する

それぞれの注意点を確認して、要介護者が快適に生活ができるよう配慮しましょう。

利用者に適した排泄方法を選択する

トイレ介助は、利用者に適した排泄方法を選択することが大切です。
例えば、無理におむつを強要すると、利用者の自尊心を傷つけてしまう恐れがあります。

利用者の自尊心を守りながら、最適な排泄方法を選択することで、ストレスを軽減してトイレ介助を受けてもらえます。
利用者の要望を尊重し、難しい場合はポータブルトイレなどの提案をするのがおすすめです。

ポータブルトイレへ移乗することが難しい場合は、ベッド上での排泄やおむつの着用を検討してください。

皮膚のケアに配慮する

トイレ介助で要介護者の身体を傷つけないためには、皮膚のケアに配慮する必要があります。
高齢者の皮膚は、保湿機能の低下に伴い外傷や皮膚損傷が起こりやすいと言われています。

また、免疫力の低下から、細菌に感染するリスクも高いため、おむつかぶれや清拭による刺激で、皮膚が荒れないよう注意する必要があります。
そのためには、利用者に合ったおむつ選びやおしりふき選びが大切です。

皮膚をケアするために、軟膏や保湿剤を塗布して乾燥や肌荒れを防止しましょう。

失敗を責めない

失禁などの失敗を責めると、要介護者がトイレ介助をお願いしにくくなります。
トイレ介助の注意点として、トイレがしたいときに気軽に声をかけてもらえる関係性を構築することが大切です。

下痢や便秘の場合は薬の利用を検討する

下痢や便秘の場合は、薬の利用を検討する必要があります。
排泄行為がうまくいかないとストレスを感じてしまうため、下痢や便補で体調が優れないときには、薬の利用を検討してください。

薬の処方は主治医に相談して、容量用法を守って服用しましょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

高齢者介護においてノーマライゼーションの考え方は非常に重要です。排泄介助を受けること自体が本来ノーマルではないことは明らかです。当たり前ですが、排泄介助を受けたい方は皆無でしょう。その前提で、排泄介助においては羞恥心への配慮が最も重要です。また、現場では尿失禁という言葉が飛び交いますが、本来尿失禁とは「自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうこと」と定義されています。排尿を我慢しきれずオムツ内にしてしまうことは尿失禁ではありません。ある入所施設では、排泄のアセスメントをしっかりおこない、入居者個々に時間を決めて排泄介助をすることで、夜間のコールを大幅に減少することに成功しました。アセスメントをしっかりおこない、適切なトイレ誘導を実現することで、結果的に介護スタッフの負荷は大きく減少するのです。

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介護のトイレ(排泄)介助は利用者の尊厳を守ることが大切

トイレ介助を行う際は、要介護者の尊厳を守る配慮が必要です。
要介護者が気軽にトイレ介助を依頼できる体制を整えるには、自尊心を守りプライバシーに配慮した環境づくりや対応が求められます。

正しいトイレ介助の手順と注意点を把握して、要介護者が排泄を我慢せずに生活できるよう関係性を構築してください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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