介護で使うADLとは?基本動作や評価法から5つの低下原因まで解説
2024.11.16
介護の現場で頻繁に耳にするADL(Activities of Daily Living)。
この言葉は日常生活動作を意味し、高齢者や障がいを持つ方の自立度を測る指標です。
本記事では、ADLの基本概念から具体的な動作、評価方法、そして低下の原因まで詳しく解説します。
合わせて、ADLを高めるための5つの介護アプローチも紹介します。
介護に携わる方々はもちろん、ご家族の介護をされている方も、ぜひ参考にしてください。
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目次
介護で使うADL(日常生活動作)とは?
ADL(Activities of Daily Living)とは、毎日の生活で必要となる「基本的な動作」のことです。
介護の現場では、ADLを基に、どれくらいその人が自分で生活できるかを判断します。
例えば、一人でお風呂に入れるか、トイレまで歩けるかを確認し、支援が必要な部分を見つけてサポートプランを作成します。
ADLは、その人がどれだけ自立した生活を送れるかを示す客観的な指標です。
ADLの8つの具体的な動作
ADLは、日常生活を送るうえで必要不可欠な基本的な動作を指します。
主に以下の8つの動作が評価の対象となります。
起居動作 | 寝返りを打つ、起き上がるなどのベッド上での基本的な動作 |
食事 | 自力で食べる能力(箸やスプーンなどの使用状況、補助具の必要性) |
排泄 | トイレの使用能力(トイレまでの移動、衣服の着脱、排泄後の処理)や失禁の有無 |
入浴 | 体を洗う能力や浴槽の出入りの自立度(洗体道具の使用、湯温の調整) |
更衣 | 衣服の着脱能力(ボタンやファスナーの操作、靴下の着脱) |
移乗 | 異なる場所への移動の自立度(ベッドから車いす、車いすからトイレなど) |
移動 | 歩行や車いすの使用能力(歩行器の使用、階段の昇降能力) |
整容 | 身だしなみを整える動作の自立度(洗面、歯磨き、整髪、髭剃りなど) |
上記の動作がどの程度自立してできるかを評価すれば、その人の生活機能レベルや必要な支援の度合いを把握できます
BADLとIADLの違い
ADLは、基本的ADL(BADL)と手段的ADL(IADL)の2つに分類されます。
BADLとIADLの主な違いは以下のとおりです。
項目 | BADL(基本的ADL) | IADL(手段的ADL) |
---|---|---|
定義 | 生命維持に直接関わる基本的な日常生活動作 | 社会生活を営む上で必要となる、より複雑な生活機能 |
具体例 | 食事・排泄・入浴・更衣・移動・整容 | 金銭管理・服薬管理・買い物・食事の準備・掃除・洗濯・電話の使用・交通機関の利用 |
特徴 | 生存に必要不可欠 身体機能と直接関連 介護で最優先される項目 基本的な生活自立度の把握 | より高次の能力が必要 認知機能と関連が強い 早期に低下が見られやすい 社会生活での自立度の把握 |
BADLは生命維持に直結する基本的な動作を指すため、介護の現場では最優先で支援が必要とされます。
一方、IADLはより複雑な社会生活機能を表すため、認知機能の低下がある場合に早期に影響が出やすい項目です。
ADL低下の4つの原因
ADLの低下には主に4つの要因があり、それぞれが相互に影響し合います。
ADLが低下する主な原因は、以下のとおりです。
身体機能の低下 | 筋力低下や関節可動域の制限により、基本動作が困難になる |
生活習慣病の影響 | 高血圧や糖尿病などが長期的に身体機能を低下させる |
認知機能の低下 | 記憶力や判断力の減退が、特にIADLに早期から影響を与える |
精神状態の変化 | うつ状態や意欲低下が自己管理能力を低下させる |
ADLの低下を防ぐためには、定期的な運動やバランスの取れた食事、社会参加の促進など、総合的なアプローチが必要です。
介護現場で実践するADL(日常生活動作)の評価法
介護現場ではいくつかのADL評価法があります。
主な評価方法は、以下の3つです。
- Barthel Index(バーセルインデックス)
- FIMスコア
- DASC-21
それぞれの評価方法を確認していきましょう。
Barthel Index(バーセルインデックス)で測るADL
Barthel Indexは、日常生活での基本的な動作の自立度を数値化する評価法です。
Barthel Indexの主な特徴は、以下のとおりです
評価項目 | 食事 移乗 整容 トイレ動作 入浴 歩行 階段昇降 着替え 排便コントロール 排尿コントロール |
評価方法 | 0点:全介助 5点:部分介助 10点:自立 ※入浴と階段昇降は0点か5点の2段階評価 |
総合評価 | 0〜100点のスコアで自立度を数値化 100点に近いほど自立度が高い 0点に近いほど介助の必要性が高い |
活用方法 | 介護計画の立案 支援の効果測定 ADLの変化の追跡 |
Barthel Indexは介護保険制度でのADL維持加算の評価指標としても採用されています。
FIMスコアによるADL評価
FIM(Functional Independence Measure)スコアは、Barthel Indexよりもさらに詳細なADL評価を可能にする指標です。
FIMスコアの主な特徴は、以下のとおりです。
評価項目数 | 18項目(13の運動項目 + 5の認知項目) 【運動項目】 セルフケア(6項目) 排泄コントロール(2項目) 移乗(3項目) 移動(2項目) 【認知項目】 コミュニケーション(2項目) 社会的認知(3項目) |
評価段階 | 7段階評価(1点:全介助 ~ 7点:完全自立) 126点満点(18項目 × 7点) |
特徴 | 詳細なADL評価が可能 認知機能も含めた総合的な評価 小さな変化も捉えやすい |
FIMスコアは各項目を7段階で細かく評価するため、身体機能だけではなく認知面での自立度も評価できる点が特徴です。
DASC-21(ダスク21)での評価
DASC-21(Dementia Assessment Sheet in Community-based Integrated Care System-21)は、地域包括ケアシステムで認知症の評価を行うためのツールです。
DASC-21の主な特徴は、以下のとおりです。
主な用途 | 地域包括ケアシステムでの認知症の評価 |
質問項目数 | 21項目(IADLに関する項目• 認知機能に関する項目• ADLに関する項目) |
評価方法 | 4段階評価(1点:問題なし ~ 4点:できない) 21〜84点 |
特徴 | 簡便で短時間で実施可能 専門知識がなくても評価可能 認知症の早期発見に有効 |
DASC-21は、21の質問から構成されているため、日常生活でのさまざまな側面を評価します。
DASC-21の特徴は、専門的な知識がなくても実施可能な点です。
地域包括支援センターの職員や、介護支援専門員などが、日常的な観察や簡単な質問を通じて評価を行えます。
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ADL(日常生活動作)を高める5つの介護アプローチ
ADLを維持・向上させることは、介護の目標の一つです。
効果的な5つのアプローチは以下の通りです。
- 本人の能力を活かす自立支援
- ADL向上のための環境整備
- 定期的な運動と活動の促進
- 栄養管理によるADLサポート
- 社会参加と生きがいづくり
それぞれのアプローチについて詳しく説明します。
本人の能力を活かす自立支援
自立支援のポイントは、利用者ができることは自分で行うよう促し、過剰な介助を避けて見守ることです。
具体的には、以下のような支援方法が考えられます。
- 食事の際、自力で箸を使えるよう励ます
- 着替えの一部を自分で行えるよう時間をかけて見守る
- 歩行時、すぐに手を貸さず、見守りながら安全を確保する
- 入浴時、できる部分は自分で洗ってもらい、必要最小限の介助にとどめる
自立支援によって、利用者が持つ力を引き出し、日常生活の動作(ADL)を向上させることが可能です。
ただし、それぞれの利用者の体調や状態に合わせて、無理のないサポートを行うことが大切です。
ADL向上のための環境整備
ADLを向上させるためには、適切な環境整備も必要です。
環境を整えることで、利用者の安全性が高まり、自立した生活がしやすくなります。
具体的な対策としては、以下のような方法が挙げられます。
- 段差の解消(玄関や浴室の段差をスロープに変更)
- 手すりの設置(トイレ、浴室、廊下などの適切な位置に設置)
- 滑り止めマットの使用(浴室や玄関に設置し、転倒を防止)
- 移動補助具(歩行器や車いすの適切な選択と調整)
- 入浴補助具(シャワーチェアや浴槽内いすの活用)
- 排泄補助具(ポータブルトイレや洋式トイレへの変更)
環境整備は利用者の状態や生活環境に合わせて個別に行う必要があります。
環境が整備されれば、ADLの維持・向上につながるだけではなく、介護者の負担も軽減されるでしょう。
定期的な運動と活動の促進
ADLを向上させるためには、定期的な運動と日常生活での活動量の増加が大切です。
運動や活動を継続すれば、筋力や柔軟性が維持・向上し、ADLの改善につながります。
具体的な対策には、以下のような方法が考えられます。
- 理学療法(筋力トレーニング、バランス訓練、歩行訓練)
- 作業療法(日常生活動作の練習、手先の巧緻性を高める活動)
- 言語聴覚療法(嚥下機能の改善、コミュニケーション能力の向上)
- 家事参加(洗濯物たたみ、食器洗いなど可能な範囲での家事)
- 趣味活動(園芸、読書、手芸などの継続)
定期的な運動と活動の促進は、個々の利用者の状態や興味に合わせて進めていきましょう。
無理のない範囲で継続的に行うことで、ADLの維持・向上につながり、より自立した生活を送れます。
栄養管理によるADLサポート
適切な栄養管理は、ADLの維持・向上に欠かせません。
たんぱく質は筋肉の維持と修復に不可欠であり、ビタミンやミネラルは免疫機能の強化や骨の健康につながります。
また、適切なカロリー摂取は、日常生活に必要なエネルギーを供給し、過度の体重減少や筋力低下を防ぐために大切です。
バランスの取れた食事を提供する際は、個々の利用者の嗜好や摂食・嚥下機能、既往歴などを考慮して進めていきましょう。
適切な栄養管理は、身体機能の維持だけではなく、認知機能の保持にも効果があるとされています。
社会参加と生きがいづくり
ADLの維持・向上には、身体的なケアだけではなく、精神的な充実も欠かせません。
そのために必要なのが、趣味活動や社会活動への参加促進を通じた社会参加と生きがいづくりです。
趣味活動を通じて得られる達成感や喜びは、日々の生活に彩りを添え、前向きな姿勢を育んでくれるからです。
社会活動への参加は、他者とのつながりを維持し、孤立を防ぐ効果があります。
ただし、社会参加や生きがいづくりは、強制してできるものではありません。
大切なのは、個々の興味や能力に合わせた活動を見つけることです。
例えば、園芸が好きな方には植物の世話を、音楽が好きな方には合唱グループへの参加を勧めるなど、個別性を重視したアプローチが効果的です。
社会参加と生きがいづくりは、単にADLの維持・向上だけではなく、生活の質(QOL)の向上にも直結します。
「ADLの維持・向上を図る」といった文言はケアプランなどでよく目にします。また、通所介護のADL維持等加算の算定要件には、バーセルインデックスを用いた評価が必須であるように、国もADLの維持・向上が高齢者の介護予防となり、ひいては社会保障費抑制に繋がると考え加算要件に組み込んでいます。介護業界において、ADLの維持・向上というのはひとつのキーワードであることは間違いありません。しかし、ADLに囚われすぎてしまうのも危険です。皆さんも「排泄」や「買い物」を『目的』として生活している方はいないと思います。これらはあくまでも生きるための手段ですよね。ICFの考えのもと所謂『参加』を促進していくことが介護従事者の重要な役割です。ADLに囚われすぎることなく利用者の『参加』を促進していきましょう。
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ADL(日常生活動作)への理解を深めて介護現場で活用しよう
ADLは、利用者が日常生活を自立して送るために必要な動作を評価する基準です。
ADLを正確に評価し、適切な支援を行うことで、利用者の自立や尊厳を守りやすくなります。
介護現場では、ADLを単に身体機能の評価として見るのではなく、生活全体の質を反映する大切な指標として捉えることが求められます。
介護者はADLの内容を理解し、その人の可能性を引き出す支援を心がけることが大切です。
それは、利用者の自立を促すだけではなく、介護者自身のやりがいにもつながります。
ADLに基づいた支援は、利用者と介護者の双方にとって、より良い介護を実現する指標となるでしょう。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。