処遇改善加算を基本給に含めるのは有効?効果から誤用事例まで徹底解説

2024.12.23

加算の対象者を正しく把握できているか不安
基本給への組み込み方がわからない
返還リスクが心配

このような悩みを抱えていませんか?
処遇改善加算を基本給に含めることで、職員の給与は安定します。その一方で、誤った運用は加算金の返還リスクにつながるため注意が必要です。

本記事では、処遇改善加算を基本給に含める際の具体的な手順と注意点を解説していきます。対象者の選定から基本給への組み込み方、返還リスクを避けるためのポイントまで、実務に即した内容を解説します。

処遇改善加算を基本給に含めることに疑問を感じている方は、ぜひ参考にしてください。

処遇改善加算を基本給に含める効果と課題

介護業界では、処遇改善加算を基本給に組み込むことで、賃金の安定性や人材確保の面でさまざまな効果が期待されています。

しかし、導入に伴う課題も存在するため、加算を基本給に含めることがすべての事業者にとって最適とは限りません。

ここでは、処遇改善加算を基本給に組み込むことの効果と考慮すべき課題について詳しく解説します。

基本給に含む効果

処遇改善加算を基本給に含める主な効果は、以下の2つが挙げられます。

  • 賃金水準の改善
  • 人材不足の解消

それぞれ詳しく説明します。

賃金水準の改善

処遇改善加算を基本給に含めることで、介護職員の基本的な賃金水準を向上させられます。

一時金や手当として支給する場合と比べ、毎月の給与が安定的に増加するため、職員の賃金水準の改善につながります。
また、基本給に含めることで、ボーナスや退職金の算定基礎額が増加し、長期的な雇用条件の向上にもつながるでしょう。

人材不足の解消

基本給に処遇改善加算を組み込むことで、求人において魅力的な給与水準を提示できます。

特に新卒採用では、基本給を明確に提示することで応募のハードルを下げる効果が期待できるでしょう。

既存職員にとっても基本給として固定化されることで、将来的な収入の見通しが立ちやすくなり、長期的な就労意欲の向上につながります。

基本給に含む際の課題

処遇改善加算を基本給に含める際の主な課題には、以下の2つが挙げられます。

  • 仕組みの整備
  • 制度変更時の対応

それぞれ詳しく説明します。

仕組みの整備

処遇改善加算を基本給に含める際は、制度設計と運用体制の整備が必要です。処遇改善加算を基本給に組み込むには、就業規則や給与規定の改定が不可欠です。

具体的な算定方法を明示し、給与計算システムにも正確に反映させる必要があります。

また、基本給の変更に伴う社会保険料の調整も重要なポイントです。これらの整備を怠ると、加算の返還リスクや従業員とのトラブルを招く可能性があるため、慎重な対応が求められます。

制度変更時の対応

制度変更に備えて、給与規定の改定手順を確立し、従業員への説明方法も事前に準備しておく必要があります。

例えば、加算額変更時の基本給の見直しプロセスを明確化すれば、円滑な制度運用が可能となるでしょう。

処遇改善加算を基本給に含める具体的な手順

処遇改善加算を基本給に含めるには、計画的な準備と正確な手続きの実施が必要です。具体的な流れは、以下のとおりです。

  1. 対象職員の整理
  2. ひと月の総単位数を計算
  3. 加算率を乗算して総単位数を処遇改善加算に反映
  4. サービス加算区分ごとの加算率を確認
  5. 介護報酬総単位数を金額に換算

それぞれ詳しく説明します。

対象職員の整理

介護職員処遇改善加算の対象となる職員の整理から始めましょう。対象となるのは、介護職員として直接処遇を行う常勤・非常勤の職員です。

事務職員や看護職員など、他職種は原則として対象外です。まず対象者リストを作成し、職員ごとの勤務形態や給与体系を整理すれば、加算の適切な配分が可能になるでしょう。

ひと月の総単位数を計算

介護報酬の総単位数に基づいて処遇改善加算を計算していきます。具体的には、以下のような計算が必要です。

サービスごとの基本報酬を確認訪問介護:身体介護・生活援助の区分
通所介護:利用時間・要介護度別の単位数
各種加算の合算特定事業所加算
サービス提供体制強化加算
その他の加算項目

これらを合計し、事業所全体の総単位数を算出します。この数値が、処遇改善加算の基礎となります。

加算率を乗算して総単位数を処遇改善加算に反映

算出した総単位数に、サービス区分ごとの加算率を掛けることで、処遇改善加算額が決定されます。

加算率は介護サービスの種類によって異なるため、正確な情報を確認する必要があります。加算率は制度改定のたびに見直される可能性があるため、常に最新の情報を確認するようにしましょう。

最新の加算率は、厚生労働省が公開している「加算算定対象サービス」などの資料で確認できます。

行政機関の公式情報に基づいて加算率を適用し、適切な処遇改善加算の算定をしてください。

サービス加算区分ごとの加算率を確認

処遇改善加算の区分と加算率は事業所の体制要件によって決まりますが、具体的な区分や要件は行政の公式情報で確認する必要があります。

処遇改善加算の制度は定期的に見直されるため、最新の加算区分や要件を把握するようにしましょう。不正確な情報に基づく運用は、加算の返還リスクにつながる可能性があります。

介護報酬総単位数を金額に換算

算出された処遇改善加算の総単位数は、地域区分ごとの単価を乗じて金額に換算します。

介護報酬の1単位あたりの単価は地域によって異なります。これは地域ごとの人件費や物価の差を考慮して設定されているからです。

具体的な単価は、事業所の所在地を管轄する都道府県・市区町村の介護保険課で確認できます。地域区分の見直しがあった場合は、その都度単価が変更となる可能性があるため、必ず最新の情報を確認するようにしましょう。

処遇改善加算の返還事例

処遇改善加算は「介護職員」のための加算であり、対象者を誤ると返還リスクが発生します。
ここでは、以下の2つの変換事例を紹介します。

  • 正規の対象者以外への分配
  • 賃金改善を目的としない資金の使い道

それぞれの内容を具体的に確認していきましょう。

正規の対象者以外への分配

新しい処遇改善加算においては、対象者の範囲を法人が一定のルールに基づいて柔軟に設定できますが、不適切な配分を行った場合は加算の返還を求められる可能性があります。

職種によって支給対象が明確に区分されており、特に医療職やサービス管理責任者への支給には注意が必要です。医療職(看護師・PT・OT・STなど)は原則として対象外ですが、訪問介護員として介護業務に従事する場合は例外的に支給できます。

対象可否をまとめると以下のとおりです。

職種対象可否備考
介護職員基本的な対象者
医療職(看護師等)介護職として従事する場合は対象
サービス管理責任者×常勤専従のため介護職との兼務不可
役員地域により判断が異なる(不明な場合は役所に確認)

特に役員への支給については、地域によって判断が大きく異なります。返還リスクを避けるためには、役員は対象外とする方が無難です。

どうしても支給したい場合は、事前に行政への確認を取るようにしましょう。

賃金改善を目的としない資金の使い道

処遇改善加算は賃金改善が目的であり、それ以外の用途での使用は返還対象となります。

この加算は介護職員の給与改善のためのものです。研修費用や福利厚生費としての使用はできません。たとえ研修費用を給与として支給したとしても、それは労働の対価ではなく実費支給とみなされるため対象外です。

具体的に対象外となる主な項目は、以下のとおりです。

対象外となる費用具体例
福利厚生費健康診断費用、予防接種費用
研修関連資格取得費用、研修参加費
設備投資介護機器の購入費
労働対価外の手当移動手当、待機手当、住宅手当

残業代や休日出勤の割増賃金など、法定で定められた給与項目も処遇改善加算の対象とはなりません。これらの給与は、本来の労働対価として別途支給する必要があります。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

給与所得者全体の平均年収約458万円(令和4年度)に対して、介護職の平均年収は約400万円と低い水準となっています。このような収入格差を解消し、介護職を増やすために創設されたのが処遇改善加算です。平均年収ベースで考えているため、国としては処遇改善内容は、賞与などにも関連する基本給への紐付けを求める形になるのです。今回の新処遇改善加算においても、どの区分を算定する場合であっても、加算額の2分の1以上を基本給又は決まって毎月支払われる手当とする必要があります。処遇改善策としては正しいのですが、燃料費など物価の高騰に対して、介護報酬はほぼ増えず、更に人件費も高騰の一途となっています。介護事業経営はその難易度を増すばかりです。介護報酬以外の収入源確保というのも確実に命題となっています。

処遇改善加算を基本給に含める効果や課題を理解しておこう

処遇改善加算を適切に運用するためには、制度の正確な理解が必要です。

加算を基本給に含めることは、職員の処遇改善に直接的な効果をもたらす一方で、誤った運用は重大な問題を引き起こす可能性があります。特に気をつけたいのは、加算対象者の選定と資金の使途です。

対象者の選定では、介護職員以外への誤った支給に気をつける必要があります。加算の使途は、基本給への適切な組み込みを優先し、研修費などへの流用は避ける必要があります。これらは返還リスクに直結するため注意してください。

制度の内容を正確に理解し、行政への確認を適宜行うことで、処遇改善加算を基本給に効果的に組み込むことができるでしょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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